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第7話 外される

長谷は、

大学に来なくなった。

 

一日。

二日。

三日。

 

メッセージは、

既読にならない。

 

電話も、

繋がらない。


ゼミの名簿に、

名前はある。

 

でも、

誰も、

話題にしなかった。

 

——まるで、

最初から、

いなかったみたいに。

 

講義室で、

長谷の席を見る。

 

空いている。

 

それだけだ。

 

誰も、

気に留めない。

 

(……探さないと)

 

そう思った瞬間、

視線を感じた。

 

背後。

 

振り返る。

 

あの男が、

廊下の端に立っていた。

 

今日は、

スーツじゃない。

 

ラフな服装。

人混みに、

溶ける顔。

 

「……長谷は?」


音が消えた。

 

廊下のざわめき。

遠くの話し声。

 

全部が、

膜越しに聞こえる。

 

「……殺したのか」

 

男は、

即座に首を振る。

 

「違う」


「殺す必要は、

 なかった」

 

その言い方が、

一番、

残酷だった。

 

「彼はね」

 

「“見よう”とした」

 

「でも、

 “選ぶ”覚悟がなかった」

 

「だから——」

 

一拍。

 

「外された」

 

俺は、

拳を握りしめた。

 

「……それで、

 終わりか」

 

「君にとっては、

 始まりだ」

 

男は、

こちらを見る。

 

今日は、

春樹用の顔だ。

 

冷静で、

逃げ道を与えない表情。

 

「君は、

 彼を覚えている」

 

「それだけで、

 もう、

 十分に違う」


「……取り戻せるのか」

 

男は、

少しだけ、

困ったように笑った。

 

「“戻す”って発想が、

 まだ、

 こちら側じゃない」

 

「君は、

 見る側だ」

 

「救う側じゃない」

 

その言葉が、

胸を裂いた。

 

「……じゃあ、

 俺は何をすればいい」

 

男は、

廊下の先を見た。

 

人が、

行き交っている。

 

その中の、

何人か。

 

顔が、

最初から、

完成していない。

 

「次を、

 見る」

 

「それだけだ」

 

男は、

歩き出した。

 

人混みに、

溶ける。

 

俺は、

その背中を、

追わなかった。

 

——追えなかった。

 

長谷の名前を、

心の中で、

何度も呼ぶ。

 

でも。

 

返事は、

ない。

 

周囲を見る。

 

人の顔。

欠けた顔。

曖昧な顔。

 

——世界は、

何も言わない。

 

ただ、

一人分、

 空席を作っただけ。

 

俺は、

その事実を、

否定できなかった。

 

——これが、

外されるということ。

 

——これが、

見届けた者の、

罰だ。



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