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異世界転移モノの序盤でやられる悪役盗賊の頭、公爵令嬢を人質に転移勇者からトンズラかまして新天地を目指す!  作者: ポンコツロボ太


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第73話 最終回

 一通り俺は、何も知らぬヴィーと、エルにここまでに至る苦労を訥々《とつとつ》と話してやった。


「なるほどな……しかし、お前の悪運にはほとほと驚かされる。もし、お前が倒れた先でテルトに会わなければ、私たちは今頃どうなっていたのか……」


「まぁ、良いじゃねぇか。こうやって三人そろったんだ。細かい事ぁ気にするな。ケケケ」


 そう、運命ってやつはどう転ぶか分からねぇ。


「ねえ、マシラの出した条件って何?」


 今まで黙って俺が盟主ケンラカントへ出した条件をずっと考えていたのだろうエルが俺に問う。

 だから、俺は俺たちと一緒に積まれた大量の荷物を指さす。


「こいつさ。ここに積まれた荷物は全部、ケンラカントからもらったもんだ。俺が魔界領の領主になった暁には、でっけぇ麦畑を作るのさ。そんで、秋の収穫の時にゃ、一面金色に輝く麦畑を拝むのさ」


 そう、俺の領主計画の一つ。夢にまで見る幼き頃の金色に輝く麦畑を作ってやるんだ。


「それは、少し気が早いんじゃないのか?まだ領地を手入れるどころか、金の工面だって十分じゃないんだろ?」


 俺はヴィーの疑問に指を振ってこたえる。


「チッチッチッ。ヴィー、お前ぇ何にも分かってねぇなぁ。知ってるか、魔界領ができた経緯を?」


「え、それは……」


 俺から質問を受けたヴィーに変わりエルが答える。


「レイアース王国では、魔界の魔族軍が無理やり攻め込んで帝国を滅ぼして、そこに魔界領を作ったと言われてます」


 期待通り教科書通りの答えが返ってきた。


「な?俺もそう聞いてた」


「なんだ、その言い方は……。もしかして、違うのか?」


「ケケケケ。いよいよマシラ大先生の社会授業のお時間だぜ。良く聞け」


 俺はケンラカントから聞きかじった魔界領の真実を、さも自分が知っていたかのように二人に話して聞かせる。


「まず帝国だ。こいつらの国にゃ悪名高き東大陸商会ってのがあってな。こいつらが帝国の庇護の元、めちゃくちゃ獣人や亜人、それに魔界にまで渡って奴隷狩りをしてたんだな」


「その話なら聞いたことがあります」


 さすが、賢いエルだ。


「じゃあ、これは聞いたことがあるか?多種族同盟内で起こった、シシリ村集団失踪」


 この言葉はさすがに二人とも知らんらしく首を横に振る。


「ま、俺ら王国側にゃ、流れてこない話だ。簡単に言っちまうと、東大陸商会と手を組んだ帝国兵が同盟内に入り込んでシシリ村の住人180人を攫って奴隷にしちまったって話だ。

 それを受けて同盟は帝国に猛抗議、住人の返還を要請したんだが、帝国側は知らぬ存ぜぬ。しかも、事が大きくなりすぎたせいで証拠隠滅のために180人女子供関係なく殺して捨てやがった」


「そ、そんなこと……」


「ビビるだろ?さすがに同盟はブチギレた。でもだな、軍事力で言えば帝国が圧倒的に有利。それに帝国は、教会の教義を拡大解釈して人族以外の者は神の子非ずなんて言ってやがる。ま、少なからず教会内にもその風潮があって、王国も共和国も傍観の構えだ。

 そこで出てきたのがお隣の大陸、魔界様よ。魔界大陸でも煙たがられていた東大陸商会。こいつの本体を潰せるんならと、同盟と手を組んで、帝国を潰して、跡地を魔界領としたってわけよ」


「知らなかった」


「当たり前よ。教会にゃ、少しばかり都合が悪い話だからな。その辺は、かくしておきたいんだろうよ」


「なるほどな。それは分かったが、お前の領地とはどういった関係があるんだ?」


「それな。魔界領って言ったって、もともと人の住んでいた土地。それに魔界の奴らがわざわざその領地を管理するのは面倒だってことで、ほとんど領地管理は多種族同盟に丸投げってわけよ。

 だから、俺はケンラカントが管理してる領地の一部を割譲してもらうってわけよ、それも格安で!!」


「う、うそ!?」


「ケケケ。本当だ。ま、それに当たってレイアース王国、公爵家のご令嬢エレオノーラが俺の政治顧問として付くことが条件なんだが……いいよな?」


 そう。ケンラカントは、なにも知らねぇ俺を領主とすることを大反対してやがったのだ。まぁよく考えてみりゃ納得だわな。俺みたいな学の無ぇやつが領主なんて俺だっていやに決まってる。

 そこでテルト君の助言よ。「俺の仲間には、貴族の娘がいるから、その人に手伝ってもらえば大丈夫」とケンラカントに言ってのけたのだ。


「も、もちろん!!」


「じゃあ、頼りにしてるぜ。相棒!」


 俺は、エルの手を取り固く握りあう。


 ああ、これぞ順風満帆。こんなに人生がうまく行ったためしはない。


「ヴィーも頼むぜ」


「ああ。お前が間違ったことをしたのなら、容赦なく折檻させてもらうから覚悟しておけよ」


 珍しくおどけた様子でヴィーが笑っている。

 外は快晴。馬車も順調。気持ちがいいぜ。


 俺は、馬車の荷台でごろりと寝ころぶ。


「ちょっと、マシラ狭いよ」


「いいじゃねぇか……。俺、こう見えて結構頑張ったんだぜ。ゆっくりさせてくれ」


 目を閉じれば、誰かが俺の頭を優しく撫でてくれる。どっちが撫でてたって良い。今は気持ちよく眠っていたい……


 ◇


 俺は夢を見た。あの真っ白な部屋の夢。そして俺は全てを思い出した。


 ◇

 

 突然、止まった馬車の振動で目が覚める。


「どうしたんだ、テルト?」


 ヴィーが荷台の前に行き、御者を務めてくれているテルトに話しかけた。


「ひ、人が道に立ってて……とうせんぼしてるみたいに……」


 ヴィーはそれを確認するため、道の先を見ると慌てた様子で俺の元へとやってきた。


「まずい。まずいぞ。マシラ!!あの男だ。……カケルだ」


 あーあ……ついに来ちまったか。


「……はぁ、分かった」


 俺は立ち上がり、荷台の後方から降りる。


「ど、どうするの?」


 心配そうな瞳でエルが俺を見つめる。


「ケケケ。心配すんな。ちょいと話をするだけさ」


「待て。私も加勢しよう」


「私も……」


 二人とも俺に続こうと荷台の柵に足を掛けるが、俺はそれを止める。


「大丈夫だって。心配するな。これは命令だ。荷台で大人しくしていろ」


 二人の隷属の首輪が、俺の言葉に反応して鈍く輝く。


「な……っ!?」


 二人は、命令に逆らおうとしているのか、額に汗を流し苦痛に顔を歪める。

 俺は固まるエルに魔法袋を預ける。


「こいつには、俺の全部が入ってる。持っててくれ」


「いや!!いらない!そんなのいらない!!私はマシラと一緒にいるのっ……」


 駄々をこねるエルを無視してヴィーに話しかける。


「後を頼むぞ。マシラ盗賊団、ナンバー2。この先、悩むことがあったら、自分の心に従え。お前ならもう間違うことは無いはずだから」


「待て!!お前、何をする気だ!!?」


「何もしねぇよ。少し、この世界を正しくするだけだ」


「何それ!!そんなことしなくたっていいよ!いつもみたいに逃げる準備してよ!!……お願い!お願いよ。逃げてよ!」


「泣くなよ。分かってるって。俺が出来るのは逃げ出すことだけだ。心配すんなって」


 俺はエルの流れる涙をそっと拭ってやる。


「約束!!約束したでしょ!?魔界領に付いたら、気持ちを聞かせてくれるって!私はマシラの事……」


「ケケケケ。残念だったな。俺は、お前の事、仲間としか見てねぇよ。だから……ちゃんと良い人見つけろ。俺みたいな奴じゃなくて……」


 初めてだった。嘘をついて、こんなに胸が苦しいのは。泣きたくなるのは。

 そこにいるエルを抱いて、愛していると伝えたかった。

 ヴィーにも感謝を伝えてやりたかった。


「うわぁぁぁぁぁあああ!うそつき!うそつき!!」


 慟哭にも似たエルの泣き声、突き刺さるようなヴィーの視線。


「ケケケ。実に気持ちの良い展開だぜ。じゃあな」


 どうにか皮肉をひりだして俺は、二人を置いて前方、カケルの待つ道の先へ歩いて行く。

 その途中、テルトと顔を合わせる。


「俺は少し用がある。悪いけど、後ろの二人を領地まで運んでやれるか?」


「……うん」


 さっすが男の子だ。強い眼差しで答えてくれた。


「……さてさて、お待ちかね、マシラさんが来ましたよ。カケル君」


「…………」


 おー、怖っ!怒りを通り越して憎しみすら感じる、その視線。


 お互い距離を取って見合う。その横を、荷馬車が道を外れて通り過ぎて行った。

 それを黙って通す辺り、心底俺の事が憎くて仕方ないと見える。


 遠く離れる馬車からエルとヴィーの声が響く。


「マシラ!私達ずっとマシラを待ってるから!!」


 それを俺は無言でやり過ごす。


「良いよな、お前は……。仲良く美女とスローライフでも気取ってんのか?」


 久しぶりに聞いたカケルの声は低く怒りに満ちていた。


「そう思うかい、転移勇者君?お前も、主人公補正で仲良くヒロインたちとキャッキャやってたみてぇじゃねぇか?」


 その言葉にカケルは驚きの表情を浮かべた。


「なぜ、それを!!?」


「さっき思い出したんだが……俺もな、転生者らしいんだわ?」


「な……なんだと……」


「まぁ、お前と違って神様の言う通り何て糞喰らえしてやったっら、まあ最悪(このざま)よ。生まれ落ちた先は、貧乏百姓の(せがれ)。その家も燃やされ両親は死んで、気づけば、お前に殺される盗賊になり果ててたぜ」


 そう、俺のこのカケルに対する過度の恐怖心、神に対する謎の嫌悪感は、ここに起因していたらしい。


 神様は俺に真っ白な部屋で、魔王を倒す勇者になれと命令してきやがった。俺はそんなのまっぴらごめんだとアカンベしたら、このざまさ。

 どうやら神様ってのは、寛容を良しとしない心の狭い奴らしい。


「ま、そのお陰でこうやって楽しい異世界旅行ができたぜ。ケケケ」


「それはよかったな。俺は、お前を殺して、物語を軌道修正してやる」


「くっだらねぇな……神様ったって自分勝手な奴じゃねぇか。あれだろルミシラは、自分の信仰の邪魔な魔族を殺したいだけの、我が儘な女じゃねぇか。そんな奴の掌の上で踊ってて楽しいのかね?」


「そんな事どうでもいい!!俺は……俺が……この世界の勇者なんだっ!!!」


 ダメだね、こりゃ……

 話が通じねぇ。


 俺は、大鉈を取り出し構える。

 カケルもそれに答えるように神剣を構えた。


 あの剣の威力は身をもって知っている。大鉈で受けるのも命取りだ。俺は全神経をカケルへと集中する。

 

 カケルが踏み込むのが分かる。それは、神速を超える速度。そのまま俺に突っ込んで上段から剣を振り下ろす。

 俺にはそれが直感として理解できた。おそらくこれがヴィーの水下推霓すいかすいげつってやつだ。


 俺は、左に体をそらせてそれを躱す。


「チッ!」


 カケルは直ぐ様、剣の軌道を俺を追う様にくるりと変える。

 しかし、それも俺には見えて……いや、感じる。


 鼻先をかすめるように巻き上がる剣の圧。


「インフェルノ!」


 器用な奴め。振り上げた剣の死角から広範囲の上級者火炎魔法をぶっ放ちやがった。


 こりゃだめ。避けきれねえ。


 俺は致命傷を避けるため、なるべく魔法をくらう面積を最小限にしようと体を横に向ける。

 馬鹿みてぇな火力の魔法が俺の右半身をこんがりと焼いてくれる。

 すぐさま俺の手は足は焼けただれて使い物にならなくなった。


 その隙にさらにカケルは剣戟を繰りだす。

 まっすぐ……まっすぐに俺の心臓を目掛けて……


 わかっちゃいるが、避けられないし、避ける気もさらさら無ぇ。


 あっさりと俺の胸のど真ん中に突き刺さる神剣。俺はそれごと抱きこむようにカケルを胸の中に収める。


「は、はなせ!!」


「まぁ、最後なんだ……仲良く……しようぜ? すこし付き合ってくれよ。……どうだった?異世界は?楽しかったか?良いよな……すげえ力を持って美女を(はべ)らせて良いことするのはよぅ……でもな、この世界は……俺たちの遊び場じゃ、ねぇんだ」


「うるさいっ!うるさい!!俺が好きに遊んで何が悪い!!魔王を倒すんだ!その実力だってある!!女が俺を好きになったっておかしくないんだ!!」


「そりゃ、てめえの力なら文句はねぇさ……。でもな、んな神様からもらった力で威張られちゃ、俺なら恥ずかしくて外もあるけねぇよ……」


「だまれぇぇぇえええええ!!」


「はぁ……はぁ……言われんでも、もう喋る元気もねえよ……でもな、ケケケケ一緒に嗤おうじゃねぇか!!!!」


 俺は、嗤う。この糞ったれな世界に。むかつく神様に!!


遁逃とんずらだ!!!!」


 俺は俺自身の敵、世界と神から逃げ出すことを選択した。


 世界は一転して真っ白な世界。


 そこに俺とカケルは立ちすくんでいた。目の前にはいつか見た神さんが立ってる。


「な、なんてことをしてくれたのですか!!?」


 神さまがどうやらお怒りの様子だ。


「何って俺は逃げ出しただけさ。異世界からな」


「それがどういうことか分かっているのですか?」


「分かってるに決まってんだろ!異世界に入り込んだ異分子を取り除いただけよ」


「違います!いずれ人間が魔族に脅かされ……」


「脅かされるのはお前の立場だろ?人間賛歌を謳うお前のな。これからあの世界はきっと良いようになるさ。魔族も人間もいろんな種族が手を取り合って。

 お前は、それが気に食わんのだろ?あきらめろって」


「バカを言うな!!こんなこと!こんなことがあって良いはずが……」


「良いんだよ。きっとあいつらなら上手くやってくれる。ちと……寂しいがな……」


 あまり長居は出来そうにない。神が俺達に手を出せないのは、俺の遁逃とんずらが効いているからだ。


「じゃあな、くそったれの神様よ」


 俺は茫然自失に陥っているカケルの手を引く。どこに行けばいいのかは、なんとなく分かっている。

 真っ白な空間をただただひたすら歩く。歩き続ければ、辺りが光に包まれていった。


 ◇


 (かける)が目を開けるとそこは、片側一車線の道路の横の歩道。

 トラックがけたたましいクラクションを鳴らし、すぐ横を通り過ぎて行った。


 ボールを抱えた小さな子供が、無言で翔を見上げているが、しばらくすると子供は礼も言わず、道路向こうにある公園へと駆け出して行ってしまった。


 長い長い夢を見ていたような感覚に陥り、カケルは上がった息を整えるように大きく深呼吸を繰り返す。


 そこに一人の男が話しかけてきた。


「大丈夫だったかい?子供助けるためにトラックの前に出るなんて、あんた勇気があるね」


「え?あ……はい。ありがとうございます?」


 突然気安く話しかけてきた男に、翔は驚く。


「その勇気があれば、この世界でも楽しく生きられるさ。ケケケ」


 みすぼらしい、どこかの工場の作業着を着た男はそれだけ言うと、立ち去って行った……


 ◇


 魔界領のほんの小さな一角にマシラ領という一風変わった領地があった。

 誰もその領地の領主を見たことがない。

 ほとんどの執務をこなすのは美しきエレオノーラという女性。


 いつも彼女はボロボロになった革張りのノートを持っていた。そこにはお世辞にも上手とは言えない絵や字が書き殴られている。

 とあるページには、アンスルの町のすばらしさが。あるページにはいつか飲んだ葡萄酒のおいしさが。祭りの楽しさが、子供が書いたような字で書かれているのだ。


 ことあるごとにその文字を愛おしそうに撫でるエレオノーラが、目撃されている。

 

 彼女が治める町は建物と建物の間隔が広く取られ、どこかのんびりとした印象を受ける。

 町の外には大きな麦畑が広がり、秋には実った麦が一面金色の海のようになる。その農具を直すのは大陸一の名工と言われた、ドワーフの職人ドゥーイ率いる鍛冶職人たち。

 驚くべきことにドゥーイは、その仕事のほとんどを無償で行っているらしい。


 麦の収穫祭も盛大に行われ、魔界領だけでなく、同盟や共和国からも多くの人が訪れる。


 不思議なことにこの領地は、カーンバーニュからワインの輸入を唯一許されており、それを魔界領に輸出することで、かなりの税収を得ることが出来ていた。


 いつも彼女の傍らには赤毛の騎士が付き従い、時には厳しくそして時には優しく微笑み、マシラ領の守護の筆頭となっていた。


 彼女たちは、麦が金に染まるころ、いつも麦畑を二人で歩いた。それは誰かを探し彷徨う様に。


 何年も何年も……


 その姿に、誰も声を掛けることが出来なかった……


 しかし、無神経な者はどこにでもいる。伸びっぱなしの髭にボサボサ髪のみすぼらしい恰好をした男が二人に声を掛けた。


「おうおう、お二人さん!寂しそうにどこかにお出かけかい。ケケケケ」


 おわり

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