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異世界転移モノの序盤でやられる悪役盗賊の頭、公爵令嬢を人質に転移勇者からトンズラかまして新天地を目指す!  作者: ポンコツロボ太


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第67話 捕まったマシラ

 真っ白な何もない空間。

 そこで俺は誰かと何かを話してる。こんな光景、頭の中をどこをどう探しても記憶にはない。でも確かに在ったような気もする。


 その誰かさんは俺に何かを頼んでいる。それは尊大で偉そうで俺は心底腹が立つ。

 だから、俺はソイツに向かってアカンベーをして言ってやる。


「絶対、やだね!!」


 ◇


 目が覚めて思ったことは、俺はまだ生きているということだった。

 しかし、手を後ろに縛られ、足も両足を揃えて足首でギッチギチに縛られていた。


 パッカパッカと馬の(ひづめ)が鳴り、地面がすいすい流れていく。

 どうやら、俺は馬の尻にうつ伏せで荷物のように積まれているらしい。

 このまま王国に連れ戻されて処刑ってのがお決まりのコースかな?


 はぁ……あともう少しだったのによ。惜しむらくはエルとヴィーの行く末だ。

 あそこまで俺についてきてくれたんだ。この先も強く生きてくれることを願おうじゃねえか。


 俺は今の状況がどんなものか、薄く目を開けて確かめる。


 俺が積まれた馬を先頭に騎士が列になって街道を行進中だ。俺の位置から見える一番後方には、豪華な馬車が一台。

 おそらくそこにエルが乗ってんだろう。


 流石にこの状況で逃げ出すのは無理そうだ。


 俺は気がついているのがバレると面倒なので、再び目を閉じて気絶しているフリを続けることに決めた。


 しばらくすると、一頭の馬がこちらに近づいてくるのが馬の足音で分かった。規則正しく地面を蹴る足音が次第に緩やかになり、俺が積まれた馬の(ひづめ)の音に重なる。


「サイ!一体どういうことなんだ、これは!!?なぜ、行き先がキルスティンなんだ!!?」


 おうおう、お怒りのヴィーがご登場だ。どうやら、近づいてきた馬に跨るのはヴィーだったらしい。


「これは公爵様の命令なんだ。私も一刻も早く王国に戻り、この男をさっさと処刑したいのだが……。公爵様からエレオノーラ様を発見し次第、ゴルバス様の所へお連れするように言い付かっているんだ」


 おやおや?行き先は王国じゃなく、エルの婚約者ゴルバスのいる街らしい。

 

「なっ!!正気なのか!?エルは、今までこの男に誘拐されて連れ歩かされたんだぞ。一度お屋敷に戻って体調を整えてからでも遅くはないだろ?」


 ケケケ。旅の後半お前らも楽しんでたくせに、酷い言いようじゃねぇか。

 まぁ、それで良い。どうせ処刑される俺をかばう必要なんざ無ぇのだ。


「ヴァレリー……君の心配も分かる。しかし君が、一番に忠誠を誓うべきなのは公爵家……バルドバラス様のはずだ。エレオノーラ様の境遇には同情するが、私にはどうにもできないよ」


「そ、そうか……わがままを言ってすまない」


 声の質からして相当落ち込んでやがるぞ?確かサイってのは、ヴィーが惚れている男のはずなんだがな。


 俺はうっすらと目を開いて手綱を握る男を見る。


 斜め後ろからだが、ハッキリと分かるほど綺麗な顔立ちをした男だ。あんがいヴィーも面食いらしいな。


 大人しく後方へ下がるヴィーにサイが声を掛けた。


「ヴァレリー!!君が無事で本当に良かった。君までいなくなったと聞いたときは心臓が止まる思いだったんだ!!」


 お?これは愛の告白ってやつじゃねぇか?


「あぁ。心配かけてすまなかった」


 ちくしょう!!ヴィーがどんな顔しているのか見えないのが口惜しい。きっと照れて赤くなってるに違いねぇ。


「それでだな……一つ忠告なんだが、エレオノーラ様の事をエルと愛称で呼ぶのはやめた方が良いと思うよ。あくまで私たちの関係は主従の関係なんだから、きちんとその辺は(わきま)えよう」


「そうだな……忠告、痛み入る。では」


 これは、ヴィーの顔を見なくても分かる。絶対に落胆している奴だ。

 俺は、背筋をピンと伸ばしたサイの尻に嚙みついてやろうかと思った。せっかくの好感度を稼ぐチャンスをこいつは棒に振ったのだ。


 さては、こいつ童貞だな……。ここは、一つ甘い言葉を囁いて、ズドンと一発しけこむところだろーがよぉお!!


 これだから頭の固い騎士はダメなんだ。

 馬のケツに揺られながら気づけば俺はサイに有りっ丈の悪態をついていた。


 ◇


 その日の夜は、街道に立つ宿屋へ泊ることになったようだ。

 もちろん、俺にもフカフカのベッドが用意され……るわけもなく宿の庭先にある大きな木に括り付けられ、しっかり見張りが一人付けられていた。


「なぁ、飯はねぇのか?」


「…………」


「じゃあ、水!水くれよ。喉が渇いちまって死にそうだ。このままじゃ、俺、自分の小便飲んじまうぞ?」


「…………」


 見張りの兵は俺と楽しい会話をしたくないようで、ずっと黙っている。実につまらん。


 そこへ珍しい来客が現れた。夜闇さえ(きら)びやかに色づいてしまいそうなほどイケてる男サイだ。こいつの綺麗な顔を見ると殴られた顎が痛み出す。


「これは、これは、サイ殿。こんな小汚いところまでご足労、痛み入ります。このような状態でして頭が下げられず恐縮の至り。本来なら茶の一つでも入れて差し上げたいんですが、あいにく茶葉を持つような身分ではなく……」


「少し外してくれないか?」


 俺の小粋な口上を華麗に無視して、見張りの兵をどこかにやると、サイは俺の目と鼻の先に片膝をついて顔を近づけてくる。


「キスでもすんのか?」


 俺の息は、とんでもなく臭いのかサイが顔をしかめる。


「お前は、いつもそんなに巫山戯(ふざけ)て居るのか?」


 静かな口調ではあるが、その中にははっきりと怒りが含まれているのが分かる。が、そんなもん怖くもなんともない。


「ふざけるなんて、めっそうもない。サイ様の顔があんまりに綺麗なもんで、ちょいと魔が差しただけで……なぁんてな。ケケケ。冗談だよ。何か俺に用があるんだろ?」


 なんとなくサイの聞きたいことには、察しがついている。


「ああ。本当ならお前みたいな者とは話もしたくはなかったんだがな。どうしても確認したい事がある。正直に答えてもらおう」


「任せてくれよ。俺のモットーは『何事も正直』になんだぜ」


「じゃあ、聞かせろ。お前は……あの……、ヴァレリーを、その……だなぁ」


 肝心なことを言い淀むサイにまどろっこしくなって俺は助け舟を出してやることにした。


「ヴィーを抱いたか聞きてぇんだろ?パッと聞けよ、それくらい」


「き、聞けるわけがないだろう!!それで、ど、どうなんだ!?言え!!」


 みっともねぇったらありゃしねぇ。そんなに女の処女が大切かね?

 ついつい純情なサイをからかいたくなってきた。


「そりゃあもう、盛りの付いた猫のように毎晩やりま……ぐがっ!!」


 突然拳が顔面に飛んできた。後頭部をそのまま木の幹にぶつけて意識が飛びそうになる。

 どうやら口の中が切れたらしく血がダラダラとこぼれ出るが、俺はそのまま話を続ける。


「良い声で鳴くんだな。ヴィー……がはっ!!」


 再び拳が飛んでくる。それでも俺はやめる気はない。


「ケケケ。いっつも言ってたぞ。サイのは、小さくて良いところに届かないのぉ~ってよぉ」


 ついに、蹴りまで飛んできやがった。

 サイのつま先が俺の腹のど真ん中に突き刺さる。


「グゥウウウ……」


 痛みよりも苦しさで、うずくまりたくなるが木に縛られている俺はどうにもできず、ゲロを足元に吐き散らかす。

 俺のゲロがサイの靴にもついたらしく、俺のカッコいいズボンに擦り付けるように拭く。


「ケケケ。騎士様もしょせん、ただの男ってことかい?安心しな。今までのは全部冗談。ヴィーの奴にゃ、これっぽちも手を出しちゃいないさ」


「本当だな?」


「ああ。本当だ」


 サイは少しだけ安堵の表情を浮かべ、この場を立ち去ろうとする。だから、俺は去っていくサイに一つだけ問うことにした。


「なぁ。お前は、もし、ヴィーが俺に犯されていたらどうした?ヴィーにがっかりしたか?」


「…………」


 サイは後ろを向いたまま立ち止まり何も答えない。だから、俺もサイから返事が来るまで黙っているのだが、その沈黙を破るものが現れた。


「な、なぜ何も言ってくれないんだ、サイ?」


 あーりゃりゃ。いつの間に来たのかヴィーが来ていたらしい。


「こ、これは、ちがう!ちがうんだ。もちろん、何があっても気持ちが変わることなど……」


 しどろもどろに答えるが、それは逆効果だ。もう、何をどう言ったって言い訳にしか聞こえない。


「ケケケケケケケ!!!愉快だ、ああ実に愉快だねぇ!!」


 俺の笑い声が響く。それにむかっ腹が立ったのかサイが詰め寄ってきた。


「この野郎っ!!」


「おーいおい、八つ当たりはやめてくれよ。だいたい、あんたおかしいぜ?お前がヴィーを好いてるのは分かったが、気にするのはそこじゃねえだろ?まずは、エルの身を心配するのが騎士様ってもんじゃねえのかねぇ??

 ケケケケ。やっぱり、惚れた女は特別か?自分はヴィーに弁えろなんて言うくせにな!!ちっちゃなイチモツぶら下げてる男はこれだから困るぜ!!」


「やめるんだ、マシラ!!」


「うるせえ!!ヴィーは黙ってろ!俺は、このぼくちゃんと話をしてんだよ!!

 なぁ!!てめぇは、惚れた女が犯されたかどうか心配するより、無事でよかったと抱きしめてやりゃ、良いんじゃねえのか?もし犯されちまったんなら、大丈夫だとにっこり微笑んでやればいいんじゃねえのか?

 それができねぇならお前は騎士失格!いいや、人間失格だね!!!

 お?悔しいか!?悔しいよなぁ??ケケケ!ちんけな盗賊ごときに説教なんざされてようケケケケ!!」


 キレるぞ、キレるぞぉ!!ほらキレた!!


 怒り狂ったサイは身動き取れない俺の襟首をつかんで自分の顔に引き寄せる。


「お前に、お前に何が分かる!!」


「ガキじゃねえんだ。自分の苦労を人に分かってもらおうとすんじゃねぇ!!」


 隙丸出しでいらっしゃるサイの鼻っ柱目掛けて頭突きを一発。

 サイの鼻から血が流れ出る。


「ケケケ。鼻血が垂れても男前だねぇ」


 サイは確かめるように鼻から流れる血を人差し指と中指で軽く(すく)う。

 その血を見るや、サイは腰に下げた剣を抜き、俺に襲い掛かってきた。


「サイ、やめろーーー!!」


 あーあー、ヴィーのヤツ必死になっちゃって。何も心配いらんのに。

 もうカウントはすでに3だ。


 俺は激昂するサイに嗤ってやる。


遁逃とんずらだ」

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