第63話 スラムの子供たち
「ここだ。ちょっと待ってろ」
そう言ってガキンチョはボロボロのバラック小屋の中に消えていく。
しばらく待っていると、ガキンチョの代わりに中から一人の少年が現れた。
こいつがガキンチョの言ってたアグルの兄ぃかね?
年は、さっきのガキンチョより二、三個ほど上に見えるが、まだ子供と言っても良い。両腕には仲間内で彫ったのか不格好な刺青が施されている。
「あんたら、金をくれるんだって?」
声変わりも済んでいない声だ。ガキなりにすごんでいるところがカワイイぜ。
「ゲルダってやつの所に案内してくれるなら金をやってもいい」
「二百だ」
何とも、まあ強気な値段設定だ。たかだか道案内に200メルクも払うバカはいねえ。
「十だ。十やる。居場所知ってんなら、さっさと教えろ」
「…………」
アグルは、品定めでもするかのように黙って俺を見る。
「わかった。二十で手を打ってやるから、その代わり前金でくれよ」
アグルは金を催促するように手を前に出す。俺は出された手を握ると、アグルを俺の方へ引く。
「ちょっと、マシ……」
俺が何かしでかすんじゃないかと、エルが声を上げるが、俺の意図を読んだのかヴィーがエルの肩を抑えてそれを止める。
「俺ぁよぉ。嫌いなもんが二つあるんだよ」
嘘だ。嫌いなモンは山ほどある。が、ここは一丁、世間の厳しさを教えてやるのが先達としての務めだろう。
俺はエルほどの身長しかないアグルの耳元に口を寄せ囁く。
「な、なんだよ……」
さすが、この辺のガキを束ねているだけあって、顔に恐怖を張り付けながらも強がって見せる。
「それはな……俺から金をぼったくろうとする奴と、俺を騙そうとする奴だ。お前はどっちかなぁ?」
俺のにちゃつく口がアグルの恐怖心を更に煽る。
「べ、べつに俺は、あんたからぼったくる気も騙す気もねえよ」
「そうか?じゃあ、この下手糞な気配消去は何だ!!?俺の勘違いか?」
俺はアグルをつかむ手に力を籠めてやると、アグルの顔が苦痛にゆがむ。
しかし、俺は力を緩めることなく更に続ける。
「お前の汚ぇ墨の入った腕を肩口から切り取って、野良犬にでも食わしてやろうか?それともテメェのイチモツ千切って、嘘垂れるその口に突っ込んでやろうか?」
俺は腰から大鉈を取り出し、アグルの肩に、股間に刃を押し当てる。
「や、やれるもんならやってみろ!!」
冷や汗をダラダラと流しながら、まだ虚勢を張る元気があるらしい。しかし、その眼には薄っすらと涙が浮かぶ。
「こちとら、お前と同じ年頃から命はって盗賊してんだ。ガキだからって俺が容赦すると思うなよ」
俺の周りを取り囲む連中に聞こえるように声を張る。
「隠れてる奴はさっさと出てこい。お前らの大事な兄ぃが死んじまうぞぉ!!!」
その言葉を合図に出るわ、出るわ。
ぞろぞろと路地やバラックの窓や屋根から、総勢二十を超すガキどもが湧いて出てきた。
「おーおー。なかなかのリーダーっぷりだね。アグル君よ」
俺たちを取り囲むガキから次々に「兄ぃを離せ」と非難の声が上がりまくる。
はたから見りゃ俺は完璧に悪役だな。実に気持ちがいいぜ。
しかし、これに耐えられなくなったのは、お優しいエルだ。
「マシラ。その子を離してあげて」
「バカ言うな!!お前は黙って見てろ!!」
最近エルの奴は俺を優しい男とでも勘違いしている節がある。俺はどこまで行こうとちんけな盗賊だと分からせてやらねえとな。
俺に怒鳴られ、エルは小さくうつむく。
「この中でゲルダの居所を知ってるやついるか?」
俺の質問に誰が答えるのかと、ガキどもは互いの顔を見合うだけで返事をしない。
「さっさとしろ!!てめえらの口は何のためについてんだ!!」
俺の怒声にビクリと肩を震わせ、一人のガキが手を上げた。
「た、たぶん、オレ知ってる」
「どこだ?」
ガキは路地の先を指さす。
「ここをまっすぐ行って、突き当りの家の二階に住んでる。ギルド証とかをギゾウしてる人……」
間違いねぇ、俺の探してたゲルダだ。
俺は、アグルを解放してやる。
恐怖から解放され力が抜けたのかアグルは、そのまま地面に四つん這いになって大きく肩で息をしていた。そのアグルを皆が取り囲んで心配している。
「大人気だね。アグル」
俺はしゃがんでアグルと向き合う。
「くそったれ!!さっさと行きやがれ」
アグルは悔しそうに顔を歪めながらも、涙を一滴もこぼさなかった。
「そんな怒るなよ。切った張ったの世界だろ、スラムは。それに、ほれ。約束の報酬だ」
俺は握られたアグルの手に取ると、無理やり拳を開かせ中に金を握らせてやる。
「あ、あんた。これ?」
心底不思議なものを見るように俺の顔を除く。
「ケケケ。それで仲間と美味いもんでも食うんだな。気張って生きろよ!!」
ひらひらと手を振ってやり、特に名残惜しくもねぇガキどもに別れを告げ、ゲルダの住処へと歩き出す。
「…………」
未だエルはふさぎ込んだまま。見かねたヴィーがエルの隣に並んで声を掛けていた。
「ふざけた男ですよね?」
「……うん」
「マシラがあの少年にいくらあげたのか見ましたか?」
「いいえ、見てないわ。でも、二十メルクでしょ?」
エルの答えにヴィーは静かに首を振る。
「もしかして、十メルク!?」
「フフフ。ね?それくらいだと思うでしょ?でもね、本当は……」
秘密をささやくようにエルの耳元で俺がアグルにいくら握らせたのか答えを教えた。
答えを聞き終わるや、エルは驚きの表情を浮かべヴィーと見合う。
「うそ?」
「本当です」
ヴィーはしっかりと頷いて、その事が確かな事実であると告げる。
すっかりエルの顔には笑みが戻り、なぜか俺に駆け寄って俺の腕を取る。
「マーシラっ!!」
「なんだよ、鬱陶しい。くっつくな」
「フフフ。いいじゃない」
「よかねえ。歩きにくいったらありゃしねえ」
まとわりつくエルを引きはがし、俺はゲルダの住むバラックまで歩いた。




