第6話 山猿盗賊団アジト
無法都市のドーム状になった壁に伝う足場を登り自分達のアジトへと向かう。
もともとは、ミスリル採掘のために作られた作業用の足場だ。仲良く三人で散歩できるほどの広さもなければ落下防止の柵もない。
俺達は仲良く一列になって切り立った足場を歩いた。
「たっ、高いな」
最後尾を歩くヴァレリーが足場からおっかなびっくり下を覗く。
今歩いているのはドームの中腹あたりだが、それでも地表は遥か下。
俺のすぐ後ろを歩くエレオノーラはヴァレリーとは正反対に足元など気にする様子もなく物珍しげに青白い光を放つ蛍光石に触れながら歩いた。
そうやって何個目かの蛍光石を指で撫でていると、不意にエレオノーラが足を滑らせ、バランスを崩す。
「きゃっ!」
「エル様っ!」
ヴァレリーがとっさに手を伸ばすが距離があるため間に合わない。
仕方なく俺が落ちていくエレオノーラの腕を取り、胸の中へ引きいれる。
死の恐怖からか俺の腕の中でエレオノーラは激しく呼吸を繰り返し、心臓の鼓動を抑えるように胸に手を当てた。
「す、すみません」
申し訳なさそうに顔を伏せ謝るが俺は迂闊なエレオノーラに腹が立つ。
「けっ!お前が死ぬのはかまねぇ!けどな、死ぬなら俺が自由になってから死ねっ!!」
俺はエレオノーラを壁に突き飛ばし、目的のアジトまで進む。
歩き出した後ろでヴァレリーが心配げにエレオノーラの肩を抱いていたのが一瞬目の端に映った。
勝手に仲良しごっこでもしていろ。俺は二人を待つことなく先を急いだ。
俺のアジトの入り口は周囲と同じように人ひとりが通れるほどの横坑。
薄いベニヤで作られた飾り程度の扉を開き中に入れば、途端に懐かしい我が家の臭いが鼻につく。
「うぐっ」「ぅっ」
エレオノーラもヴァレリーもその臭いに顔をしかめ、部屋に足を踏み入れない。
二人を外に置いたまま、部屋の中に入る。窓一つない我が家は完全な暗闇。
俺は手探りで何とか燭台の置いてあるテーブルにたどり着くと、マッチをこすり蝋燭に火を灯す。
ぼんやりと暗いオレンジ色の灯りが部屋の中を照らし出した。
そこには服やパンツがどれも床に脱ぎ捨てられ、いつ誰が食べたのかもわからない皿に乗ったナニカに蠅が集る。
扉なんて上等なものはついていない丸出しの便所。壁には至る所に喧嘩で飛び散った黒く変色した血の跡。
ここが我が城、山猿盗賊団のアジト。かつて七人の仲間と共に暮らした愛しき我が家だ。
突然の帰宅にヒョッコリのペットだったネズミが驚き、扉目掛けて駆け出していく。
「「ひっ」」
二人は仲良く抱き合い足元を這うネズミを避けた。
「さっさと入って来い」
それが俺の主としての最初の命令だった。
どれほど部屋に入るのが嫌なのか、仕掛けた隷属の首輪が発動して二人は軽く苦痛に顔を歪めながらいやいや入室となった。
俺は床に散らばるゴミを足で払いながら、部屋の中を歩き回る。
「何をしているんですか?」
部屋の隅で突っ立ているエレオノーラが俺に尋ねた。
俺は視線を床から外すことなくそれに答える。
「金目の物を探してんだよ。あいつら絶対どこかに隠してるはずなんだ。お前らも探せ」
それを聞いたエレオノーラは素直に床に膝をつくとサンタナの寝床の毛布を捲り金目の物を探り出した。
しかし、ヴァレリーの方はなぜか俺を軽蔑するような視線を送ったままその場に立ち尽くす。
「死んだ仲間の物を盗もうとは、お前には死者を悼む気持ちや盗賊としてのプライドはないのか?」
くそみたいな問いに俺はヘドが出そうになる。
「はっ!!プライドだとぉ?んなもん、毎朝クソと一緒に放り出しとるわ!だいたいなぁ、プライドで飯は食えねぇって知らねぇのか?下らねえこと言ってないで、てめぇも探せ!」
「これだから、品位のないゲスな盗賊は……」
この赤毛女完璧に調子に乗ってやがる。俺はヴァレリーに詰め寄った。
「なんだと?てめぇのご主人様が誰だか、しっかり教えてやらねぇとならねぇみたいだな」
息がかかるほど顔面を寄せ、睨み合う。生意気なことに赤毛女はちっとも視線を外しやがらない。
険悪なムードが部屋中に漂う中、エレオノーラの声が俺達の間に割って入った。
「あ、あのぉ。ここ変です」
俺とヴァレリーは床に這いつくばるエレオノーラを見る。
エレオノーラは、そのままの姿勢で床のある一点を軽くノックする。
するとコンコンと軽く乾いた音が鳴る。
「どけっ!」
俺はエレオノーラを押し退け、同じ様に床を叩いてみる。
他の場所とは違い、そこの一部だけ中が空洞になっているようだった。
手先の器用なサンタナらしい隠し場所だ。
おそらく正しい開け方があるのだろうが、そんなこといちいち考えるのは面倒だ。
俺は大鉈の柄頭を床に叩きつければ石の床が砕け空洞部があらわになった。
「ハハッ。やっぱりな」
中には小さな麻の布にくるまれた数枚の金貨。ざっと三万メルク。
俺は自分のマジックバックにその金貨を入れる。
「おい、こっちもだ」
不満たらたらだったヴァレリーもバブズの本棚の中の一冊を取り出し、中を開いて見せる。
本のタイトルは『聖書』。
分厚い聖書の中身を切り抜き、バブズも数枚の金貨を隠し持っていた。
「よしよしよしよしっ!!」
この発見を皮切りに出るわ出るわ。ネズミの巣穴に便所の天井裏、水瓶の中にわざわざ対水魔法の結界なんて張って隠しているヤツもいた。
手に入れた金はなんと合計九万と七千メルク。普通なら三月は遊んで暮らせる額だ。
まだ、隠し財産があるんじゃないかと散らかった机に手を掛けた時、突然扉が蹴破られる。
「キャッ!」
飛んできた扉がエレオノーラの足元に落ちた。
「だれだ!?」
小さな入り口を塞ぐように立つ巨体。額からは大きな一本の角が生え、下顎からは二本の鋭く大きな犬歯が覗く。
オーガ族のイッカクだ。
厄介なヤツが来たと、俺はため息を吐く。
「ボスが……呼んでる」
それだけ伝えるとのそのそと帰っていく、イッカク。
「ボス?」
ヴァレリーが尋ねる。
「ここを取り仕切ってるクソ野郎だ。チッ、あらかた金の催促だろ」
あの豚野郎に会わなければならないと思うと胃の奥がとたんに重くなる。が、今は問題を起こすのは不味い。
俺には今後の計画がある。
仕方なく俺は二人を連れて無法都市の一番上にあるボスの部屋へと向かった。




