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異世界転移モノの序盤でやられる悪役盗賊の頭、公爵令嬢を人質に転移勇者からトンズラかまして新天地を目指す!  作者: ポンコツロボ太


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第54話 葡萄踏み

「……たのしそう」


 ポツリとそうエルが呟いたのを俺は聞き逃さない。


「なら、お前も行って来いよ」


「だめよ」


「なんで?」


「だって私、よそ者だし……やったこともないし……」


 それは、やらない理由を探しているようで俺はむしゃくしゃしてくる。


「誰もエルがよそ者かどうかなんて気にしねえし、やったことあるもないもただ桶の中で足踏みするだけだろが!今、肝心なのはお前がやりたいかどうかだろ?」


 俺は、エルをまっすぐ見る。


「……やりたいな」


 本音が漏れ出るが、それでもエルはモジモジとその場を動こうとはしない。

 

 あと一押しってところか。


「ケケケケ。じゃあ、()()だ。思う存分楽しんで来いよ」


 それは首輪の強制力を発動しないただの言葉。しかし、エルの一歩を踏み出させるには十分な魔法の言葉だった。


「なら……仕方ないよね」


 俺の言葉をきっかけにエルは靴をいそいそと脱ぐと、ヴィーにそれを手渡す。


「行ってくるね」


 エルは跳ねるように広場の中央へと駆けて行く。

 その後姿を大丈夫かと心配してみていれば、走った勢いそのままに大桶の中に飛び込んじまって、案の定、桶の中の葡萄に滑って尻もちをついたのが見えた。


「ああっ!」


 俺の隣にいるヴィーが思わず声を上げ、大桶の中の女たちはエルの姿に笑い声を響かせた。


 桶の縁が邪魔して、こけたエルの姿が見えず心配そうに見つめるヴィーをよそに、エルは元気に立ち上がって、こちらに手を振る。


「あはははは!マシラー!!私、ころんじゃった」


 せっかく俺の買ってやった服が紫色に変わっていた。

 それでも楽しそうにエルは笑う。


 俺は見ていたぞと、アピールするように手を上げて答えてやると、より一層を激しく手を振り返してくる。

 その姿に尻尾を振る犬みたいだと思っちまった。


 桶の縁から身を乗り出し、こちらに手を振るエルに同い年くらいの娘達が話しかけた。

 一瞬エルの顔に困惑の色が浮かぶが彼女たちと一言二言話をすると、再び笑顔が戻る。そのまま手を引かれる形で、大桶の中央へ進むと娘たちと一緒に葡萄踏みを始めた。


「礼を言う」


 ぼんやりとエルの姿を眺めていると、突然ヴィーが改まって俺に頭を下げた。


「なんだよ、もう酔ってんのか?」


「そうかもな……。だけど私は嬉しいんだ。エルがあんなに楽しそうに笑うのが。今こうしてエルと共にいられることも……。

 いつだってエルは、ああやって笑いたいと思っていたのに我慢していたんだ。私はそれを分かっていながら何もしてやれなかった」


 こんな明るく楽しい音楽の流れる中、慙愧(ざんき)の念からか、ヴィーはとても悲し気な表情をしていた。


「あっほくさ!!」


 俺はそれを一蹴してやる。


「……すまない」


 いつも通り怒り出すもんかと思っていたが、余計にシュンと落ち込みやがる。辛気臭ぇったりゃありゃしねぇ


「あのよぉ。俺ぁドゥーイのじじいにも頼まれたぜ、エルを笑わせてやってくれって。俺はそん時も断った。笑うも泣くもエルが決めることだってな!!だいたい、お前らはいったいどんだけエルを爆笑させたいんだよ」


「そういうつもりじゃ……」


 おっかしいなぁ、そろそろ怒り出すかと思ったが言葉を重ねれば重ねるほど、その言葉が重さを増していくようにヴィーはどんどん肩を落としていく。


「だいたいな、人間いつも笑ってられるようにできてねえんだから、いちいち気にしすぎなんだよ、お前らは」


「私もお前のように考えられたらよかったのにな」


 なんだか、俺の思慮が水たまりのように浅いとバカにされたみたいで少し腹が立つ。

 しっかし、いつになくしおらしいヴィーの態度に調子が狂う。これ以上ヴィーにかけてやる言葉が見つからない俺は、頭を掻きむしりながら辺りを見回す。

 するとエルと目が合い、良いことを思いついた。


 俺はエルにジェスチャーで、ヴィーもそっちに誘えと伝える。


「……?」


 最初は、何のことか理解できないでいたエルも俺の必死の身振り手振りで、やっと意図が伝わる。

 俺は伏し目がちなヴィーの肩を叩き、エルを見ろと促した。


 エルはヴィーに向けて手招きをして、一緒にやろうとアピールするが、ヴィーは首を横に振って誘いを拒否する。

 自分のズボンを指さし、汚れてしまうから、そちらには行けないと、俺よりも遥かに上手いジェスチャーでエルに伝えると、エルの表情に陰りが差す。


「あーーー!!!俺にはエルを笑わせてくれって言ったくせに、お前はそういう態度を取るのかぁああ。ふぅうーーん」


 どうせ、断るだろうなと予想していた俺はすぐさまヴィーを(あお)る。


「し、しかたないだろ。私はズボンを履いて……?」


「ギシシシシ。ズボンじゃなきゃいいんだろぉぉお???」


 俺の隣にはいつの間にか葡萄酒を運ぶ給仕をしていたおばちゃんが、ニッコリと佇んでいる。


「マシラ、彼女は、いったい誰なんだ?」


「紹介しよう。彼女は、この村のおばちゃんだ。この人がお前に服を貸してくれるってよ。ケケケケケ」


 実はこのおばちゃん、仲良くなったハゲオヤジの嫁さんだ。ちょうど俺たちの傍を通りかかったんで、「どうしても葡萄踏みをしたい奴がいるから服を貸してくれ」と頼んだら快く了解してくれたのだ。


 俺はヴィーに愚図る暇を与えず、背中を押して着替えるように促す。おばちゃんもなかなか押しが強く有無を言わさずヴィーを連れて行ってくれた。


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