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異世界転移モノの序盤でやられる悪役盗賊の頭、公爵令嬢を人質に転移勇者からトンズラかまして新天地を目指す!  作者: ポンコツロボ太


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第49話 遠い夢

 ちょうどその時、エルとヴィーが俺の元へと戻ってきた。

 俺の状態を見て、エルが思わず声を上げる。


「マシッ……!!」


 とっさにヴィーがエルの口をふさいでくれる。

 あっぶねえ、カケルがいる前で俺の名前を呼ぶ奴があるかっ!!と怒鳴りつけたい俺はエルに無言で睨んで不満を訴えるが、それを無視してエルは俺の元にしゃがみ込んで体中に付けられた傷を悲し気に見つめる。


「ひどい怪我……」


 その目から涙がポロポロと落ち、今にも俺を抱きしめそうな感じだ。

 情けないが俺は女を慰めるような言葉を持ち合わせちゃいねえ。


「お、おい。泣くなよ。おぉい、エルよぉ……」


 かっこ悪く狼狽える俺はエルをどうにかしてくれと、目線でヴィーに救助を求める。

 ヴィーは「仕方ないな」と呆れ半分でエルの肩にそっと手を置く。


「エル。その辺にして……」


 ヴィーが何かをエルの耳元で囁くと、エルは涙を拭いて立ち上がりゴンズイを捻り上げているカケルと向き合う。


「仲間を助けていただきありがとうございました」


 エルはカケルに向かい俺に変わって頭を下げる。今まで泣いていたくせに貴族の令嬢だけあって優雅にお辞儀をするもんだと、感心しちまった。


 カケルの方もエルにつられる形でゴンズイを捕まえたままエルに礼を返す。


「いえ、もう少し俺が早く来ていれば彼もここまで酷い怪我を負わなくてもすんだのに……」


 憐れむような眼でカケルが座り込む俺に目線を送る。まったく居心地が悪いったらありゃしねえ。


 俺はなるべくカケルと目を合わせないように地面にねじ伏せられるゴンズイを見る。

 そこには血走り怨嗟(えんさ)のこもった何とも心地の良いお目目で俺を睨んでいるゴンズイ君。


 まいったね……さっさとこの場から離れないと、折角ゴンズイに着せた濡れ衣が俺に戻ってきちまいそうだ。


 俺は這うようにゴンズイに近づき、耳元で小さく囁く。


「ケケケ。遁逃(とんずら)だ」


「ぎっ!!」


 俺のユニークスキルが見事に決まった。逃走のために傷の痛みが引き、ゴンズイは硬直して固まった。

 

 誰もゴンズイに起きた異変に気づくものはいない。


 今のうちにこの場を離れようと俺は立ち上がるが、足の傷のせいで踏ん張りがきかない。


「あぁ……。ちょ、ちょっと待ってて」


 エルが俺の右脇に無理やり頭を突っ込んで肩を貸してくれる。


「お、おお。すまねえな……おっととと」


 しかし、貧弱なエルにゃ俺をうまく支えることが出来ない。


 仲良く肩を組んでふらつく俺とエルに、カケルが心配そうに「大丈夫ですか?」と声を掛ける。

 それに俺が答えるよりも早くなぜかヴィーが俺の前に立ってそれに答える。


「あっはっは!!大丈夫です。こいつは、こう見えてかなりタフな男ですから!!」


 俺の背中をバシバシと叩くと叩きながら高らかに笑う女。消えていた痛みが再び俺に猛威を振るいだす。


 こりゃ、あれだ。カケルに色仕掛けをさせた俺への意趣返しとしか思えねぇ。


「ちょっと、ヴィー!!」


 心優しき麗しのご令嬢であらせられるエルが、毒婦ヴィーをたしなめてくれる。

 その慈愛たるや、まさに女神のごとし!!


「すまない、すまない」


 絶対に微塵たりとも「すまない」とは思っていないヴィーが言葉だけで謝りつつ、俺の左に回って腕の下に潜り込む。

 どうやら、エルだけではなくヴィーも肩を貸してくれるってことらしい……が余計なお世話だ!!!!


「んぎぃい痛ぇええ!!この(アマ)、俺の肩口、見て分かんねえのか!!穴が開いてんだぞ!!」


「なんだ、こんな所にも傷を負っていたのか?」


 しらじらしい!!


 無理やり腕を上げられたことによって、スキルで止まっていた血が新たに滲み出すが、俺は歯を食いしばってそれに耐え、カケルと向き合う。


「助けてくれてありがとう。俺達は行くことにする」


「大丈夫ですか?少し休んでから出発した方が良いんじゃないですか?」


 俺もそう思う。でもな、お前がいるから休めねえんだよ……。


 内心で独りごちながらも、なんとか平静を装う。


「ああ。急ぎの用があるからこれで失礼させてもらう。今日は本当に助かった」


 それだけ伝えて俺はアンスルの町、そしてカケルのもとを後にしたのだった。


 ◇


 アンスルを離れて、どれだけ歩いただろう……

 一日中歩いているような気もするし、我慢していた小便を出し切った程度の時間しか歩いてない気もする。


 意識がもうろうしながらも、俺を挟んで歩くエルとヴィーから甘い匂いがするのを感じていた。


 正直、もう歩くのは限界だ。右足は痛みを通り越して感覚がねえ。ちゃんとくっついてるのか自分でもわかっていない。


「すまん、もう無理だ」


 一応肩を貸してくれている二人には断りを入れてぶっ倒れる。


 遠く薄れる意識の中、エルが必死に俺の名前を呼ぶ声が聞こえていた。間違いかも知れねえが、一度だげヴィーの泣きそうな声まで聞こえてきた時にゃ、いよいよ俺も死ぬのかと闇の中で考えていた。


 堕ちていく闇の中で俺は、夢を見る……それは遠い過去の夢。


 真っ赤な夕焼けに染まって金色に輝く麦畑。そこを母ちゃんの背中に背負われながら麦の穂に手を伸ばす。

 風に柔らかく揺れているから、ふわりとした感触を期待していたのに意外とチクチクする穂先が面白い。


 その様子を振り返って覗く母ちゃんと目が合う。

 特に意味もなく母ちゃんは俺に笑いかけ、俺も同じように笑う。


 ああ……このころに戻りてぇなぁ……


 どこにでもある小さな村の農民の家。

 背負われながら大きな声で「ただいま」と言えば、母ちゃんが「おかえり」に続けて「ただいま」と笑いながら言う。

 だから、俺は背中から「おかえり」って母ちゃんの背中に力いっぱいしがみついて言ってやる。


 ただの日常の一つ。だが、もう手に入らないモノ……


 場面は変わる。


 夜だ。真っ暗な闇夜に真っ赤な炎が燃え盛る。


 燃えているのは俺の家。周りの家も火がつけられ同じように闇夜を明るく照らしている。


 あんなに綺麗な麦畑も踏み荒らされ、火がつけられている。


 このころは、魔族との戦争で敗れた兵士たちが野盗に落ち、あちこちで悪さをしていた。だから、なんの珍しいことでもない。

 悲劇として語られることもない、世界中探せばどこにでもあるただの平凡な出来事の一つ……


 村が野盗に襲われると分かるや母ちゃんは「遠くに逃げるのよ」と言って窓から外に出してくれた。

 それでも、甘ったれだった俺は家から離れることが出来ず、草葉の陰からじっと家を覗いていた。


 生まれながら農民育ちの親父が家を守ろうと奮闘する姿を俺は見た。


 それを野盗が笑いながら簡単に殺すのを俺は見た。


 家の中から引きずり出され、殴られる母ちゃんを俺は見た。


 家に火をつけた奴が俺の母ちゃんを犯しているのを俺は見た。


 首を絞められ身じろぎ一つせず、瞬きもしなくなった濁った瞳の母ちゃんに俺は映らない。


 その時、幼心に願ったことが思い出される。


 どうか……どうか……母ちゃん、死んでてくれ……と。


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