第48話 絶望の只中
ゴンズイのニヤけた面、目掛けて神剣を振り下ろす。
「こいつで、とどめだ!!死ねええ!!!」
俺の振る神剣がゴンズイの鼻先に迫る。
勢いそのまま、神剣はゴンズイの頭のてっぺんから、まっすぐに股座までを切り裂いてうめき声の一つも上げずゴンズイは死ぬ。
それが無法都市の大幹部、偸盗のゴンズイ、最後の瞬間だと確信していた。
しかし現実は上手くいかねえ。
神剣が頭を割る瞬間ゴンズイは俺に嗤いかけた。
「へっ!その剣、いただくぜ」
その刹那、俺の手から剣は消え失せ、ものの見事にゴンズイの目の前の空を切る。
そのまま俺は態勢を崩し、固い石畳の上を無様に転がった。
なんとか重い体を引きずるように起き上がり、ゴンズイを見据える。そこにいるゴンズイの姿に俺は自分の目を疑った。
「なっ!!?なんでお前が……」
俺の手の中にあったはずの神剣をなぜかゴンズイが持っていた。
「どうも、ありがとよ。マシラ」
得意げに神剣を肩に担ぎ、相変わらずニヤケ顔のゴンズイが俺を見下すように突っ立っていた。
俺は魔力の枯渇とあまりの衝撃から、その場で膝をつく。そんな情けない姿を見て、ゴンズイの手下たちが一斉に笑い出した。
追い打ちをかけるように雨も降り出してきやがる。ぽつぽつと降り出したかと思えば瞬く間に雨は本降りに変わった。
「な、なんだよ、そりゃ?」
絶望の中俺がやっと振り絞って出したのは、なんのこたぁねえただの疑問。
「無法都市に暮らしてて知らねえのか?これが俺の力『盗みの手だ。俺に盗めねぇ物はないんだよ」
俺から盗んだ神剣で俺の頬をペチペチと叩く。
おそらく盗みの手とは掏摸スキルの行きつく先。手に届くもの全てを掠め取る垂涎もののスキルだ。
ゴンズイの能力を知り呆けている俺の首筋にさっきまで仲良く遊んでいた神剣の刃が当てられる。
「んなの卑怯すぎだろ!」
「そりゃ盗賊の俺には褒め言葉だぜ?」
神剣から伝う雨粒が俺の肝まで冷やしやがる。
こうなりゃ仕方がねえ。
「頼むぅ!!見逃してくれ!!金か!?金が欲しいのか?それなら、マジックバッグに入ってる!逃がしてくれるなら全額お前にやってもいいんだ!!」
俺は、泥で汚れるのも厭わずゴンズイの足元に縋り付いて命乞いをする。しかし、そんな事で絆されるような奴が五悪道なんて名乗れるはずはない。
案の定ゴンズイは縋る俺を無慈悲に地面に蹴とばした。俺は今できたばかりの水たまりに顔面から落ちて、泥水を美味しく啜る。
「別にお前を逃がさなくたって、お前から金を巻き上げる事なんて簡単なんだよ。
それよか、お前をこれから生きたままルシラの所に運ばなきゃならねえのが面倒だ。
ようし、ここはいっちょ逃げられないように一工夫だ」
そう言ってゴンズイは俺の右の太ももに神剣をゆっくりと刺しやがった。
「ぐううううっ」
「お?なかなか我慢強い!ハハハハ!!じゃあ、次は反対の足だ」
太ももに刺さっている剣が刺された時以上にゆっっくりと抜かれる。
「がぁああああああ」
一思いに抜け、くそ野郎!!そう言いたいが口から出るのは意味のない叫び声だけだ。
やっと刃が太ももから抜けると、ねっとりとした俺の血が糸を引いていたのが、見える。
流れ出る血は、雨と混ざり地面に消えていく。
「ほれ、次だぞ」
俺の体温で生暖かくなった切っ先が左の太ももにピタリとつく。
「待て待て待て!!」
俺は慌ててそれを止めに入る。
「なんだ?殺しはしないから、命乞いしても無駄だぞ」
「はあ……はあ……。違う……だ」
俺は小さく要望を伝えるが、雨音でゴンズイにはそれが聞き取れなかったようだった。
「なんだ?はっきり言ってみろ。俺は優しいから、きちんと頼めば、ある程度の要望なら聞いてやるかも知れんぞ?」
俺を見下す様に嗤うゴンズイに聞こえるように声のボリュームを仕方なくあげてやる。
「はあ……はあ……。だからよお……刺すところが違うって言ってんだ、バカ野郎!ちゃんと右と左、同じ場所に刺せよ。左右でズレてたらかっこ悪いだろが!!まったくセンスのねえ糞ダサ野郎だぜ」
俺もゴンズイにならってニヤリと嗤ってやる。
ゴンズイの野郎、でこに青筋たてて怒りやがった。ケケケケ、ゆかいだねぇ!
「そんなに傷口が気になるなら、はじめっから無きゃいいだろ!!」
神剣が俺の太もも目掛け振り下ろされる。こりゃあれだ。俺の足を切断する気満々だ。
絶体絶命の中、俺は目を閉じ、足とのお別れに備える。
「ぎゃあああああ!!!!」
悲鳴が上がった。
それは俺の断末魔の叫び……のはずだったのだが、どうも離れた方から聞こえてきた気がする。
俺は恐る恐る目を開けると、やっぱり俺から出た叫び声ではなく民家の屋根で俺を狙っていた弓の使い手の叫び声のようだった。
遠く離れている俺からも見て取れるほどの血しぶきが射手から上がっている。
「い、いったいなんなんだ、これは!!!?」
ゴンズイは混乱の只中に陥れられる。
それもそのはず、俺たちの周りを囲む手下が次々と死んでいくのだ。それは、斬殺であり、魔法での焼殺だった。
ああ……ついに俺の想い人がやってきてくれた。
あまりのスピードに俺の目をしても捉えられないが、誰が来てくれたのかは理解できた。囲む男を一通り殺し終えると、それをしでかした男が俺の目の前に現れる。
その瞬間、雨は止み空から光が一筋、男に向かって差し込んだ。
それは、まさに神に愛されし男……
カケルだ。
「大丈夫ですか?」
怪我をする俺に対して優しく微笑みかけてくれる。
なぜ、S級の実力者である剣姫イズナルディがこの男に惚れているのか、今ならわかる。この圧倒的な主人公感。
「はわわわ……だいじょうぶですぅ」
こいつになら一晩抱かれても良い!!
まあ、半分冗談だが、マジでこいつの強さは味方になれば頼り以外の何物でもない。
しかも、今、神剣を手に持っているのはゴンズイだ。
「よくも俺から剣を盗んでくれたな。しかも盗んだ剣で他人を傷つけるなんて何て奴なんだ!許さないぞ!!!」
カケルから放たれる怒気に場が一瞬で凍り付く。
しかし、うまい具合に勘違いしてくれてやがるぜ。
ゴンズイもカケルの怒りに触れ、今まで浮かべていたムカつくニヤケ面が消え去った。
「ちが……この剣は……こいつ……が」
しどろもどろにゴンズイが剣の事を説明しようとする。
このままじゃ、盗んだのが俺だとばらされちまう。
俺は慌ててゴンズイの言葉を遮って、カケルに縋りつく。
「と、突然、この男が金目の物を出せって俺を切ってきたんです。俺、こいつ知ってるんです。無法都市で暴れまわっている犯罪者なんです。ああ何て恐ろしいんだああああ」
「こ、このやろっ」
俺の迫真の演技にゴンズイがぶち切れ、剣を振り上げる。
おっと、そいつは悪手だぜ、ゴンズイちゃん。
「ぎゃああああああ!!!!!!」
ゴンズイの叫び声が響く。
バギバギバギッ!!
カケルが振り上げたゴンズイの手をすかさずひねり上げ、折ったのだ。手から離れた剣は地面に落ちる前にカケルが掴み取る。
あーぁっ、これで鬼に金棒の復活……か。
内心複雑な気持ちではあるが、しかたない。命が助かっただけでも良しとしよう。
ただ、ここからどう抜け出すのかが問題だ。




