第47話 マシラ、一人で奮闘
俺の提案を聞いて隣に並ぶエルが息をのむ。
「だ、大丈夫なの?」
「わからんっ!!だが、このままじゃジリ貧だ。俺が死ぬ前にさっさと行け!!!」
俺たちを取り囲む輪がジリジリと小さくなっていく。
「ちっ!仕方ない。マシラ、私たちが戻るまで死ぬんじゃないぞ」
「ケケケ。俺の心配なんかするんじゃねえ!俺が死んだ方が、お前たちにゃ都合良いだろ?」
俺の皮肉にエルが糞真面目に反論しようと試みるが、それをヴィーが遮る。
「エル、バカに構わないで、魔法で道を開いて下さい!!」
俺たちを囲む男達の先、ギルドへと続く道をヴィーが指さす。
俺への言葉を飲み込んでエルは男達に向かって魔法を放たんと呪文を唱え出した。
「踊るは風精。なびく裳裾が風を断つ……風刃!!!」
戦う意思を固めたエルに躊躇いはない。標的目掛け大きく腕を振ると、それに倣ってバカでかい風の刃が前方へ飛ぶ。
しかし、さすがに詠唱と予備動作でバレてたのか追手どもは上手く魔法を躱し、目標を失った風刃は町の境界を表す木製の柵を切り裂いた。
まあ、目的である活路を開くことは出来たんだ。良しとしよう。
「よくやったぞ、エル!!さっさとカケルを連れて来いよ」
追手どもが開けた道をエルとヴィーが走り去っていく。
「このアマぁ!!!」
単純バカな男が一人、エル達を追おうとするが、ゴンズイから「待て」がかかる。
「女は放っておいて構わん」
「でも、兄貴……」
口答えする手下をゴンズイはギロリと手下を睨みつけて黙らせる。
「俺たちの仕事はマシラの捕獲だ。その後に女を頂いても遅くはねえだろ?」
何を想像してるのか知らねぇが、ゴンズイが汚く舌なめずりをする。
「兄貴ぃ。俺らにも楽しみを残しておいてくださいよ。兄貴はいっつも無茶して女を壊すからなあ」
糞ほども面白くねえ会話に男どもは一斉に下卑た笑い声をあげる。
俺の人質を玩具にしようなんていい度胸してるじゃねぇか。
俄然俺のやる気に火が付いた。
「俺を捕まえる前から、終わった後の相談たぁ、いい御身分だな。ゴンズイよぉ!!」
俺は大鉈を腰に戻す。
「どうした、武器なんぞしまって?もしかして大人しく捕まれば楽に殺してもらえるなんて甘い考えじゃねえよな」
二十対俺。やる気あるなし関係なく、どう考えても負け戦だ。
気に食わねえが、この後どうなるかは全部カケル頼みだ、ちくしょうめ。
半ばやけっぱちの俺はマジックバッグの中から神剣を取り出し、両手で構える。
「てめぇらに大人しく捕まってやる気はねぇよ。それよりも、さっさとかかって来やがれってんだ。俺ごとき三下盗賊にビビってんのか?」
俺を囲む敵をおちょくるようにステップを踏んで見せる。
すると一人、気の早い奴が俺に突っ込んできた。それに続けとばかりに一人、二人と俺に向かってアホどもが襲い来る。
「おーおー。人気者はつらいねぇ……よっと」
横に薙ぐ剣を体を『く』の字に曲げて避け、その体制のまま剣を振り下ろす。
普通であれば、こんな無茶な姿勢で剣を振るっても、たいして相手にダメージを与えることはできない。
しかし、そこは神剣様様。
見事に、当たった肩からズバッと斜めに相手を真っ二つにしてくれる。
「ひゅう~……すげえ」
その芸当を目の当たりにした男たちは、驚きの表情を浮かべるが、すでに神剣の間合いに入っている。
俺は、ぐるっと円を描くように三百六十度俺の周りを適当に切ってみる。
すると、あら不思議。簡単に俺を囲んでいた三人の男が上半身と下半身にお別れを告げる間もなくこと切れていく。
「おお!!こいつは凄えや。売るのはやめにして、俺のモノにしてや……ぐっ!!」
左肩に焼けた火箸を付けられたような痛みが走る。
油断しちまった。左の肩口に矢が刺さってやがる。
そのままほったらかしでも良いが、このままだと動きにくいったらありゃしねぇ。
俺は射手を探しつつ、肩から矢を引っこ抜く。
「んぐっ!!」
肩に空いた穴から血が吹き出し、矢じりの返しに、俺のお肉が少々持っていかれた。
矢を地面に投げ捨てた時には、矢なんて抜くんじゃなかったぜと、後悔の波がビッグウェーブとなって押し寄せていた。が、そんなアホなこと考えている時間も余裕もない。
前方からキラリと何かが光る。
「うぉっ!!」
顔をそらしギリギリで矢を避け、矢の飛んできた射線上に射手を見つける。
射手は、はるか遠方の民家の屋根の上に陣取っていた。あそこまで離れられると魔法を使えない俺には攻撃の手段がない。
打つ手のない俺は的を絞らせないように動き回ることを選択する。
出来るだけ不規則に射手の予想を裏切る動きをしながら、近くにいる敵を切る。
さすが神剣ちゃん!振れば確実に敵を倒してくれる。
こんなの初めてぇ!!!
もしかして俺ってば強い?
敵は剣で俺の攻撃を受けることもできず、背を見せ逃げ惑う。
「……はぁ、はぁ」
調子に乗って走り回ったツケなのか、息が上がり、どんどん体が重くなる。
おかしい。この程度でバテるほど体力は落ちてないはず。もしかして血の流しすぎかとも考えたが、感覚的に何か違う気がする。
どちらかと言えば、魔力の枯渇に似ている。
「……まさか?」
俺は手に持つ神剣を見る。
こいつ、もしかして魔力を吸ってんのか?
そう考えれば、あの馬鹿げた切れ味にも納得が行く。
とんだ不良品だぜ……
もともと魔力量の多くない俺だ。おそらく振れるとしても、あと二、三回が限度とみて間違いない。
しかし、俺の回りには、まだ敵が十人以上いる。
このままでは体力も魔力も底をつくのが目に見えている。
俺は、一発逆転を狙って相手方のボス、ゴンズイに狙いを定めることに決めた。
奴は、出会った時と同じ場所に同じポーズで俺が必死に戦ってる様をニヤけた面で眺めてやがる。
その顔があんまりにも腹が立つもんで、真っ直ぐゴンズイの元へ走る。
俺のあまりに見え見えの動きにゴンズイの手下が一人、進路に割り込んできやがるが、神剣の前じゃ大した壁にもならねえ。
力を入れることなく、神剣を振り上げれば、男の肘から先が剣を持ったまま虚しく空へと飛び立つ。
上がる血飛沫と悲鳴を後ろに聴きながら俺は、ゴンズイの顔面に神剣を振り下ろした。
「そのニヤけた面ぁ、取ったぞ!!」
もう避けることも、受けることも不可能だ。
恐らく、鏡のような神剣の刃にゴンズイの断末魔が映ってることだろう。カケルと対峙した、あの時の俺のように……




