第46話 乱闘
俺に向かってくる追手を見てヴィーが「マシラは人気者だな」と軽口をたたく。
「男に好かれても嬉しくねえや。少しばかりお前に分けてやろう……かっ!!?」
人が楽しい会話をしてるって時に、邪魔が入った。追手の一人が俺、目掛けて矢を放ったのだ。
俺は、それを空いている左手で受け止め、一番槍の男の剣を捌くと手に持っていた矢で男の首に突き刺した。
戦闘に慣れているヴィーの方は、その場を動くことなく突っ込んでくる追手をいなしながら会話を続ける。
「生憎、ここにいる男共は私の趣味じゃないんで勘弁だ。もちろん……お前、含めて……なっ!!」
予め相手の動きを知っているとしか思えないような華麗な動きで、チンピラを切り捨てる。
「ひゅ~……やるねえ」
俺には到底真似できるとは思えない芸当だ。
ま、猿は猿らしく、泥にまみれろってことかね。
俺は、迫る剣をバク転で剣を躱し、空中で体を捻って矢を避け、ついでに手に握り混んだ砂を相手の目を狙って投げつける。
怯んだ相手を大鉈で切りつけ、また躱す。
その繰り返し。
しかし、相手も相手。大幹部ゴンズイの手下だけあって一筋縄どころか二筋縄でも上手くいかねえ。
致命傷は避けているが傷が増え、服が血に染まり始める。
「マシラ、大丈夫!?」
ヴィーに守られ、箸にも棒にもかからねぇエルが俺を心配する。
「これが大丈夫に見えてんなら、おめえの目は腐ってるぞ!」
必死に敵の攻撃を躱しながらエルに答えてやる。別に怒ってるわけじゃねぇが、戦闘の興奮で声を抑える事が出来ない。
しかし、エルはそれを怒られたと勘違いして小さく縮こまる。
「マシラなんて心配しなくて大丈夫ですよ、エル。あの男はゴキブリ並みに生命力が強いですから。あの血だって本物か……どうかっ!分かりませんっ、よ!!」
ヴィーは見事に敵を斬り伏せながらエルにフォローの言葉を入れる。
「どう見たって本物の血!うぉ!!危ねぇじゃねえかっ!!馬鹿野郎!俺が話してる途中だろがっ!!」
会話の途中だってのに図体のでかい男が、これまたお似合いのでかい剣を振ってきやがった。
それを間一髪で躱すと、こそこそと俺の背後に近づいていた他の追手が真っ二つに両断される。
ラッキー、ラッキー!!
血飛沫が舞う凄惨な光景に、エルが小さく悲鳴を上げる。しかし今は誰もエルに構う余裕なんてない。
目の前の大男が体勢を整え再び剣を振り下ろす。見るからに重たそうな一撃。
こいつは、やべえ!!
どう避けても、どこか取られちまいそうだ……
仕方ねえ、左腕をくれてやろう。
瞬時に判断を下し、大鉈を上段に構えて左腕をその下に宛がう。
こうすりゃ、左腕は折れちまうが脳天割られて死ぬことはねぇはず。
しかし、いつまでも俺にその一撃が降ってこない。
「ん?」
見れば、大男の動きが剣を振り上げた状態で止まり、ゆっくりと前に倒れてくるじゃねえか。
ズシン……と重い音を立てて倒れた男の後ろには、俺がやった短剣を手に持つエルの姿があった。
震える短剣は男の血で染まり、切っ先からポタリと血が滴り落ちている。
「っ!!!」
あんなに嫌がってた癖に……馬鹿野郎がっ!!
怒りがこみ上げてくる。
それは、俺を勝手に助けに入ったエルに。
そして、エルの子守りであるはずのくせにエルを守らず戦っているヴィーに。
何より腹が立つのは、この場で一番弱いエルに守られた弱い俺自身に!!
咄嗟に俺の口から「何やってんだ!!!?」とエルに対して怒声が飛び出しそうになるが、エルの顔を見てその言葉が引っ込んだ。
エルの今にも泣きそうな目が、血に濡れる手と、今殺した男を行ったりきたりしているのだ。それは、まるで道に迷う子供のように見えた……
そう思っちまったら――
「エル……助かった。ありがとう」
戦いの最中、俺の口から、こんなに優しい音が出るのかと自分でも驚いちまうほどの声を発していた。
震えるエルも、俺の言葉に反応して目線を上げる。
その瞬間、俺は一体どうかしちまったのか、エルに向かって笑いかけていた。
俺はエルを安心させてやりたいと思っちまったのか?
そこでエルの白い顔にやっと血の色が戻る。それと同時にヴィーがエルの元へと戻ってきた。
「すみません、エル」
エルが手に持つ血に濡れた短剣を見てヴィーは暗い影を落とす。
「大丈夫よ、ヴィー。私も戦えるから!」
未だ青い顔をしているが、エルの目には先ほどとは違い覚悟の色が宿っていた。
「ケケケ。頼りにしてるぜ、エル」
俺たちは三人仲良く肩を並べ、取り囲む敵を見据える。
エルが倒した男を含め、こっちはやっとこさ十人ほどの追手連中を黙らせたところだ。
残りの連中は依然、元気にピンピンしてやがる。
逆に俺はすでに切られた箇所は十を越え、忘れていた痛みがジンジンと激しく自己主張し始める。
この調子で、あと二十人とゴンズイ相手はどう安く見積もっても無理がある。
その事はヴィーも承知のようで、ギリリと奥歯を噛み締め、渋い顔で周りの敵を睨み付けていた。
「はぁ……しかたねえ。奥の手を使うかな」
俺が独り言のようにボソリと呟くと、ヴィーの怒声が飛ぶ。
「おまっ!そんなものあるなら、さっさと使え!!」
しかし、これは本当に奥の手。マジで使いたくない。
でも、ここで死ぬより、ましか……?
俺は向こうに聞こえないようにヴィーとエルに声を小さく言葉を伝える。
「二人でカケルに神剣が盗まれてるとバラして、この場に来るように言ってこい。
たぶん、奴らは俺を狙ってるから、お前ら二人ならこの場を抜け出せるはずだ」
それを聞いてヴィーの顔が驚きの色に変わる。
「な、なにを言っているんだ、お前は?そんなことしたら……」
「ああ、分かっちゃいるが、こうなったら一か八かの賭けよ!」
そう、何を隠そう俺の奥の手とは、カケルによってこの場をしっちゃかめっちゃか混乱に陥れる事なのだ。




