第40話 完成した神剣モドキ
神剣モドキが出来たと知らせを受けたのはそれから二日後の事だった。
偸盗のゴンズイ君は飽きもせず、せっせと町のあちこちで俺を探しているようで、知らせが来るまで俺は一日のほとんどを部屋の中で過ごすこととなっていた。
二日ぶりの外出。外は曇天。
ぱっとしねぇな……
エル達を連れ町の外れの外れにあるドゥーイの家を訪れる。
「邪魔するぞぉ」
勝手知ったるドゥーイの家。返事を待たず玄関くぐれば、ドゥーイのジジイがすでに俺たちを待ち構えていた。
ドゥーイは、連日不眠不休で神剣モドキの製作に励んでいたのか、数日前に見た時より明らかにやつれていた。
それでも、じいさんはエルの顔を見れば元気を取り戻す。
「おお、エレオノーラ様。再びご足労かたじけない。……む?ヴァレリー服を変えたのか?前の服はセクシーでよかったのにのお……」
相変わらず俺の姿が目に入らねぇじいさんだな。
俺はエルとドゥーイの間に入り込む。
「おい!じじい!剣の出来栄えはどうなんだ?」
「なんじゃ、藪から棒に。せっかくワシが楽しくエレオノーラ様と会話をしてるのに邪魔するんじゃないわい!」
ガミガミとジジイが怒鳴れば唾が俺に飛んでくる。
「いいから、さっさと剣を見せろ」
「はぁ。ったく忙しのない小僧だの。ほれ、そこに置いてあるだろう」
指差された先には作業台が設置され、その上にボロ布に包まれた何かが置かれている。
俺は作業台に近づき、布を剥ぎ取ると中から剣が現れた。
その瞬間、ゾクリと背筋に寒気が走る。
ジョニー、キッド、サンタナ、バブズを切った剣。俺の鼻先に迫ったあの冷たい刀身が脳裏に甦る。
「……マジかよ」
冷や汗が頬を伝う。
「ガハハ!どうじゃ、なかなかの代物じゃろ?」
悔しいがジジイの大きく明るい笑い声にホッとする自分がいる。
「あ、あぁ。良くここまで似せることが出来たな」
「当たり前じゃ。ワシは一度見た剣の拵えを忘れたりせん」
さも当たり前のように、とんでもない芸当をさらっと言ってみせる。
「腕は落ちていないようですね、ドゥーイ殿」
「おじさまに会えて本当によかったわ」
さすが元公爵家付きの鍛冶師ってことか。エルもヴィーもこれっぽちもジジイの剣の出来を疑っていないようだった。
「いんや、ワシの方こそエレオノーラ様にお会いできてよかったです。どうか、この先も息災で。
ワシは、これから剣の代金の事で小僧と話がありますゆえ先に出ていてください」
「そうですか……。分かりました。おじさまもどうかお元気で」
エルは名残惜しそうにしながらも、ドゥーイに笑顔で別れを告げた。
「では、私もこれで。マシラ、ドゥーイ無茶を言うんじゃないぞ」
毎度毎度、ヴィーは俺に世話を焼かねえと気が済まないのか?
「へいへい。お前達は先に冒険者ギルドに行っててくれ」
「わかった」
一度だけドゥーイにペコリと頭を下げてヴィーもエルの後に続くように出ていった。
「さて、じいさん。やりますか?」
俺は気合い一発。値切りに値切ってやるぞ、と腕まくりをしてドゥーイの対面に立つ。
しかし、ドゥーイの方は二人が出ていった扉をじっと見つめて喋り出そうとしない。
「おーい。耄碌しちまったのか?」
「誰が耄碌じじぃじゃ!?」
やっと、扉から目が離れたかと思ったら、眼光鋭く俺を睨む。
「なんだよ?やんのか?」
ジジイにゃ一度痛い目見てるからな。
俺は臨戦態勢を取る。が、しかしドゥーイは思わぬ行動に出た。
「どうか、どうか。エレオノーラ様を頼みます」
そう言って俺に深々と頭を下げたのだ。
「おい、どうしちまったんだ、じいさん。本当にボケちまったのか?」
俺とエルの関係はすでに知っているはず。
俺はエルを人質にして、隷属の首輪までしている男だ。簡単に言えばただの悪党。
そんな男に頭を下げるなんて正気の沙汰とは思えなかった。
「いや、ワシは真面目じゃ。再びエレオノーラ様のあのように明るい顔が見られて……ワシは、ワシは幸せなんじゃ。エレオノーラ様は母君を亡くだれて……」
またかよ。
正直、この話はヴィーからも聞いているし、他人の不幸話なんぞ聞きたくねえ。
俺はじいさんの話を遮るように会話に割り込むことにした。
「俺とエルの関係は誘拐犯と人質だ!それ以上でもそれ以下でもねえ。ジジイに指図されて仲良くなんぞ、するわけねえだろ」
俺の悪態に爺さんが怒り出すかと思ったが、なぜか穏やかな顔で俺と向き合う。
「……そうか、それでも良い。お前が本当の悪党ならエレオノーラ様もああして笑っておらんじゃろうて。じゃから、どうか、どうか今のままで良い。エレオノーラ様に少しでも多くこの世界を見せてやってくれ」
「知らん知らん!俺は俺のやりたいようにやる!だから、じじいもいちいち俺に頭を下げるんじゃねえ!!調子が狂っちまうぜ」
自慢じゃねえが人に怒られることはあっても、褒められることがほとんどない俺はジジイの話を聞いて頭が無性に痒くなってきた。
「わかった。じゃあ、取引じゃ。その剣は小僧にくれてやる。その代わりエレオノーラ様を沢山笑わしてやってくれないか」
普段の俺なら一も二もなく了解の返事をするはずなのだが、なぜかこの先エルが笑って旅が出来るのか想像し、適当な返事が口から出やがらねぇ。
「……エルが泣こうが笑おうが、それはエルが決めることだ。俺の知ったこっちゃねえ。
だけど、だけどだなぁ……俺が好き勝手してエルが笑うんなら……それはそれで良いんじゃねえかと思う……ぜ?」
これが俺の精一杯の返事だ。途中で気恥ずかしくなってきやがって、声が小さくなっちまったがジジイでも聞き取れたはずだ。
じいさんは顔を上げるとニッカリと笑う。
「あい分かった!これで取引成立じゃ!!」
じいさんは俺に神剣モドキをぶっきらぼうにグイッと差し出すので、俺もそれを無遠慮に受け取った。




