第37話 露店市
町の広場では露天市が開かれ、多くの人で溢れかえっていた。
「わあ……お祭りみたい」
「そうですね。はぐれて迷子にならないでくださいよ」
「私、そんなに子供じゃないわ。ヴィーの方こそ迷子にならないでね」
二人の会話を聞きながら俺はどんな露店が出ているのか広場を見渡してみる。
食い物の屋台に、異国の特産品を売る店。さらには魔物の素材や魔石の加工屋に武器や防具を売る店なんかもある。
エルの言った通り広場はお祭り騒ぎのようだった。
俺はじゃれ合う二人を置いて、雑踏の中に足を踏み入れる。
特に買う物も無く冷やかしで店先を歩けば「ちょっと見て行ってよ、お兄さん」「うちの素材はカンタタ・ダンジョン産の一級品だ四」と多くの露天商から威勢の良い声がかかる。
その中の一つ魔石加工を生業とする露店で足を止める。
露店先には魔法使いが使うロッドや杖、魔法的加護を受けるためのペンダントなどが並べられてる。
「お?旦那、お目が高い。オイラの店はそんじょそこらのちんけな露店とは違いますよぉ」
おそらく店主であろう背の低い獣人の男が話しかけてきた。
「どの辺が違うんだ?」
店主はわざとらしく、あたりを見回し俺に顔を寄せ小声で話しかける。
「ここだけの話、オイラの店は共和国の四大商家からの流れてきた一級品ばかり。ちと型は古いが品質は最高級ですぜ」
どこも売り文句なんて大抵こんなものだ。いちいち店主の言を本気にするつもりは無いが、並ぶ商品の中に少し気になるものがあった。
俺は毛氈に置かれた短剣を手に取る。
「さっすが、旦那!!こちらは、ここの柄頭にお客様のお好きな魔石を嵌め込ませていただく商品なんですよ。もちろん刀身もきちんと研がれてます。どうです?」
短剣を色々な角度に傾け出来を確かめてみる。
店主が自慢げに言うだけあって刀身は鋭く磨かれ、俺の顔を写した。
「ふーん……これ、いくらだ?」
「特注の鞘を付けまして、さらに魔石の加工賃も合わせて……本当は八千のところを七千に!!」
「………………」
俺は黙ってジッと露天商の目を見る。「まけてくれ」なんて乞い願うなんてのは素人のやり方だ。
「…………どう……でしょ?」
「………………」
「だめ?」
「………………」
「分かりました!六千!!」
「………………」
「だ、だめですよ。これ以上下げたらオイラ赤字になっちまいますよ!」
「………………」
「そんな目をしてもダメですよ。これ以上は安くなりません」
「………………」
「……じゃあ、五千五百!これでどうですか!!いくらなんでもこれ以上下げるのは無理ですよ」
涙目になった店主がすがるように俺を見つめる。
そろそろ潮時か……
「……五千だ!」
「五千なんて殺生な!お客さん、いくらなんでもそれは……」
「待て待て。俺もそこまで鬼じゃねえ。いいか――……」
俺はある条件を出して、どうにか五千になるように値切ってみる。
最初は渋っていた店主も、頑として譲らない俺に仕方なしと了解した。
「わかりました!はあ……これじゃ商売あがったりだよ。旦那、オイラ、これから魔石を取り付けるんで、ちょっと待っててくださいよ」
そう言うと店主は露天の裏に置かれた机に向かって、俺の指定した魔石を短剣に取り付け始める。
俺は取り付ける魔石をクズとすり替えられないように男の手元を凝視していると、後ろから声がかかる。
「何買ったの?」
「エルか?ちょっとな……」
エルは俺の目線の先にある短剣を見つけ「なんだ武器買ったんだ……」と興味なさげに店先に置かれた他の商品に目を移した。
「旦那、できましたぜ」
特注だというだけあって、意味は一切分からねえが綺麗な紋様が施してある中々洒落たレザーの鞘。それにきっちり納められた短剣を店主が俺に向かって差し出す。
俺はそれを受け取らず、足元にしゃがみ込むエルを名を呼ぶ。
「ほれ、エルのだ。自分で受け取りな」
魔石の取り付けられたアクセサリーを見ているエルに短剣を受け取るように促した。
「えっ!!なんで?」
「なんでって、お前も自分の身は自分で守れるようにならんとな。いいか?五千メルクもしたんだから、しっかり使えよ」
「あ、ありがとう」
エルは受け取った短剣を鞘から取り出して分かりもしねえくせに、いっちょ前に様々な角度で確かめる。
「お嬢さん。その取り付けられてる魔石は、魔法を多少増強する効果がついてますから、魔法を使われるときは肌身離さず使われることをお勧めしますよ」
魔石は薄く紫に輝く。
「マシラ……私、大事にするから!!」
「大事になんかせずに、しっかり使え!いいか、何かあったときにゃ、迷わず相手に突き刺すんだぞ」
俺の忠告を聞いているのかいないのか、たいそう大事そうに短剣を胸に抱く。
「私は、たまにお前が良い奴なのかと錯覚しそうになるよ……よかったですね、エル」
こんな嫌味を言うのはヴィーしかねえ。いつの間にかエルの背後に立って温かい目で俺たちを見つめていやがる。
俺は店主から二本目の短剣を受け取り、それをヴィーに渡す。
「ほれ、お前にも」
「え!?私にもあるのか」
ヴィーは、嬉しさよりも驚きのほうが勝ったようで、目を大きく見開いた。
「ケケケ。姉妹なんだろ……?エルのとは違ってお前の短剣に付いてる魔石は身体強化だ、安心しろ」
ついている魔石はそれぞれ違うものの俺が二人にやった短剣は自体は同じモノだ。
二本買うことで一本五千メルクまでまけてもらったと、ここで言うような野暮はしねえ。
「す、すまない」
ヴィーは本当に申し訳なさそうに短剣を受け取ると、慣れた手つきでベルトに付ける。
「なぁに構わねえよ。お前らにも、これから一仕事してもらわなきゃならねえから、その報酬とでも思ってくれ」
「なんだ、その一仕事とは?」
「ケケケ、心配するな。簡単な仕事だ。その時が来たら教えてやるよ。さ、それまでは大いに楽しもうじゃねえか」
訝しむような目をするヴィーにエルが能天気に微笑みかける。
「お揃いね、ヴィー」
「え、ええ。そうですね」
「マシラ、本当にありがと!」
エルは満面の笑みを浮かべて不審な顔をするヴィーと並んでお揃いの短剣を掲げて見せてきた。
「ケケケ。かまやしねえよ。それよりも他の露店も見るんだろ?」
「うん」
俺達は再び露店の立ち並ぶ広場の中へと入って行った。




