第31話 たくらみ
俺は部屋の隅を向き膝をかかえて座った。
「すまん、すまん。あまりに嫌がるお前がおかしくて、つい。な?」
「マシラ。ごめんね……そんなに落ち込まないで、ね?ぜんぜん大丈夫。もう血も出てないし、傷口も綺麗よ……」
「そうだろうよ……ジジイが舐めたみたいに綺麗になってるだろうよ……俺はお前らが裏切ったことを一生忘れねえからな。お前らも覚えてろよ」
俺の深い深い恨みと悔しさをじぃっとりと湿った目に込めて、にらみつけてやった。
しかし、そんなものどうでも良いとジジイの笑い声が鍛冶場に響き渡る。
「ガハハ!いやぁ、久々に大笑いさせてもらったわい。それで、小僧!なんの用でここに来たんじゃ。聞いてやる、話してみい」
「聞かれんでも教えてやるわい!!」
俺はマジックバッグの中からバンチから盗んだ金庫を取り出す。
「どうだ!あんた、これ開けられるか?」
煉瓦の床に置かれた金庫をドゥーイは腕を組んで見下ろす。
「ほう……こら、ワシでも無理じゃな」
このじじいチョロっと見ただけで無理だとぬかしやがった。
「なっ!なんだとっ!!!遠路はるばる危険を冒して、こんなとこまで来てやったってのに、ちょっと見ただけで出来ないなんて抜かすんじゃねえ!!!開けろよ!お前のハンマーは、なんのためにあるんだっ!!」
「やめろ」
今まさにジジイに殴り掛かろうとする俺をヴィーが止めに入った。
「わしのハンマーはな、熱い鉄を打つためと、エレオノーラ様に失礼を働くボケナスの頭をつぶすためにあるんじゃ。それに見ただけじゃない、これを作ったんはワシじゃ。だから分かる……壊すのは無理じゃ」
「なんだとぉ!ジジイがこの金庫を作ったぁ?開けられないからって嘘も大概にしろよ!」
「嘘なもんか!よぉく見てみろ。ここにワシの刻印が刻まれとるだろ」
たしかにドゥーイが指差す場所にハンマーをモチーフにした刻印が刻まれている。
「どうしても開ける事は無理ですか?」
エルは小動物を思わせる潤んだ瞳でドゥーイを見つめた。
「むむむぅ……エレオノーラ様の願いなれば叶えてやりたいのは、やまやまなんですが……これを作るよう依頼した者に自分でも破ることのできない金庫を作ってほしいと頼まれましてな。金庫の金属にはオリハルコンとミスリルを含んだ合金を使って、構造的にもろくなりがちな蝶番部分には、高純度のアダマントを使用しとるんです」
ミスリルにオリハルコン?さらにはアダマントぉ?
こりゃ、金庫を鋳潰して売った方が金になるかも知れん。そんな考えと一緒に俺は頑丈な金庫を作るように指示した人物が、ふと頭に思い浮かんだ。
「なあ、じいさん。その頼んだ奴ってのは、もしかして、ウォンカ〈ザ・オープンセサミ〉ウェストハンドか?」
「おお、その通りよ。最近の若い奴にしちゃ、よく知ってるじゃねえか」
「やっぱりか……」
「マシラ、そのウォンカって人誰なんです?」
「無法都市の先代だ。どんなもんでも盗むことができた大盗賊でな、腕っぷしだけじゃなく鍵開けなんかも超一流だったんだよ。知らねえか、カンタタ大金庫を破ったのもウォンカの仕事だぜ?
そんな大盗賊様が自分でも破らることのできない金庫を作らせたってことは、マジで正規の方法以外で開けるは難しそうだな……」
もう絶望的だ。
今更無法都市にもどって「金庫空けてくださいな」なんて頼めるわけもなし……
作った張本人でも、開けることができないとくりゃ……こりゃお手上げか?
「はぁ……」
ため息を漏らしながら俺は金庫の上に座り込む。
「そんなに落ち込むな。もともとは、お前の物じゃないんだから、マイナスにはならないんだから良いじゃないか」
「そうよ、ね。初めからなかったと思って諦めましょ?」
こいつら何にも分かっちゃいねえ。盗んで自分の手元にありゃ、それはもう俺の物だ。
近くにあって手に入らない物ほど欲しくてたまらなくなるのが世の常ってもんだろ?
「ばかやろーー!!」
俺のケツの下に鎮座まします金庫様に一発拳をお見舞いしてやるが、びくともしない。
逆に殴った俺の手の方がジンジンと痛み出す。
「アホなことするでない。お前ごときの拳骨じゃ、傷一つ……いや、凹み一つ付けることは出来ん!まあ、この金庫を破ろうとするのなら、それこそ神剣でも持ってこないとなあ」
「神剣?」
聞き馴染みのない言葉に俺は、そっくりそのまま聞き返す。
「ああ、創世神話にあるだろ?神様が自分の骨から鍛えた剣の話。地上すべての魔を払い、如何なるものも切ることができたとされる神剣トルーカじゃ」
「しらね」
自慢じゃねえが生まれてこの方、勉強も読書もしたことねえ。字も読めねえ。
そんな俺がソーセーシンワなんて高尚なもん知ってるわけがねえ。
「ええ!?有名な話ですよ?」
「お前、どれだけ学がないんだ……」
相当有名な話らしく、俺は二人から憐みの目を向けられた。が、それよりも少しひっかかることがある……
なんでも切れる剣?
俺、そんな感じの剣、どこかで見たことあるぞ……
「…………」
懸命に記憶の中を漁る俺を怒ったものだと勘違いしたエルがオドオドしだす。
「あの、気に障ったのなら謝りま……」
謝ろうとするエルを制して俺はドゥーイについて尋ねた。
「この町に来た新人冒険者のこと知ってるか?」
「ああ、その男なら、ちょうど昨日わしのとこに来て鎧を作ってほしいと頼んできおったわ。
本当なら断ってやろうと思ったんじゃがの、懇意にしとるイズナルディの奴がどうしてもと頼むんで作ってやることにしたんじゃ。
おかげで今朝までワシは働きづめじゃったわい」
「それで、そいつの剣って見たか?」
「刀身までは見なんだが、立派な装いの……まさか、あれが!!」
俺の考えが伝わったのか、ドゥーイは大きく目を見開いて俺に詰め寄ってくる。
「分からんが、あの剣で俺の仲間の剣を溶けたバターみたいに切りやがった。あんな芸当普通の剣じゃ無理だと思うぜ……ケケケケ」
「お前いったい何考えているんだ!!?」
少し怒気の孕んだヴィーの声。おそらく俺の考えを読んだのだろう。
「何って俺は盗賊だぜ?考えることは一つしかねえじゃねえか」
「え?どうしたの、ヴィー?いったいマシラ何するつもりなの?」
おそらくエルだって俺が何を考えているのか分かっているはず。それでも、俺のやろうとすることが信じられないのかヴィーに縋りついて説明を求めてやがる。
正直、あの男の前に立つのは二度と御免なんだが危険を冒さにゃ金が入らねえってんなら、俺は鼻歌交じりでそこに飛び込んでやろうじゃねえか。
「じいさん、金庫は諦めてやる。その代わり作ってほしい剣があるんだ」
俺は、悪党らしくニヤリと嗤ってみせる。
「……ったく。どんな剣じゃ?言うてみい」
「神剣だ。神剣そっくりの剣を作ってくれ」




