第25話 朝食の調達
エルから送られる羨望の眼差しに俺はたまらなく恥ずかしい気持ちになって森の中へ足早に戻った。
その道中、エルが俺の隣に並んで歩く。
「ねえ、マシラ。他にも教えて」
会った時とは違って、エルは人懐っこい目で俺を見上げるように見る。
何となく、その目に俺も答えてやりたくなった。
「そうだな……気配探知なんてどうだ?」
「知りたい!どうやるの?」
「簡単だ。自分の魔力を薄く外に広げてやるんだよ。あんまり濃い魔力を出すなよ、薄くだ。じゃなきゃ逆に敵に感知されちまうからな。……見てろよ」
俺は立ち止まって、気配探知のスキルを使う。
俺を中心に魔力の波が半球状に広がった。
「わ、すごい。魔力の薄い膜みたいなのが私を通り過ぎた」
「今回はエルにも分かりやすいように、ちと濃い目に魔力を飛ばしたからな。どれだけ魔力を薄めて放出できるかが腕の見せどころだ」
やってみろと目でエルを促す。
エルは緊張した面持ちで「やってみる!」とエルは目を閉じて体の中で魔力を練る。
それを体全体を使って外に放出した。
エルの魔力が俺の体を透過したのが、ゾクリとした気配でわかる。
「ケケケ。濃すぎだな。そんなんじゃ、敵にここにいますって知らせてるみたいなもんだ」
「はぁ……やっぱり上手くいかなかったかあ……」
「ま、魔法使いにゃ、なかなか難しいと思うぜ。お前らはバカでかい出力でバンバン魔法出してなんぼだからな。俺のように繊細な作業は向いてねえんだよ。べー」
「もう、いじわる」
そう言ってむくれるエルに俺は内心、驚いていた。普通、気配探知だけでなく、どんなスキルだって教えてすぐに出来るもんじゃない。
それをエルは出力の問題だけで、気配探知は完璧と言ってもいいできで使いやがった。
かぁ~……これが才能ってやつかね。うらやましいぜ、ちくしょう……
俺は心の中で一つ愚痴を垂れる。
なれない魔力の使い方をしたからか、それとも毒消しが効いてきたのか分からないが、突如「キュルルル」とエルの腹の虫が鳴いた。
「す、すみません」
顔を真っ赤にして下を向いて謝る、エル。
「なにが?」
「だって、お腹が鳴っちゃって……」
「だから、それの何がいけないんだって?」
「え?でも……不快にさせたかも知れないから……」
「エルよ……屁でもこいたならまだしも、たかだか腹が鳴ったくらいで謝るな!人間、誰だって腹が減りゃ、腹が鳴るもんだ。んな当たり前のことで、いちいち謝ってたら、いつかお前は頭の下げすぎで、首から上が取れちまうぞ」
「じゃ、じゃあ、どうすれば良いんですか?」
「簡単だ!俺なら、お前のせいで腹減ってんだぞ、って面するんだよ。それで、飯が出てくりゃ御の字よ。な?」
なんなら屁だって、俺は相手のせいだと言って見せる。
「私、そんな厚かましいことできません」
「軟弱な奴だなあ。……それで、腹が減ってんのか?」
「……うん、少し」
「ケケケケ。んじゃ、ちと遅いが朝飯の調達だ」
俺は、もう一度気配探知を行う。今度は小動物まで見つけられるように魔力の膜をより薄く精度を上げる。
「すごい。私のとは全然違う……」
「こんなもんは慣れだ。それよりも見つけたぞ、こっちだ」
気配探知に反応があった大木まで向かう。
「ねえ、マシラの気配探知はどのくらいの広さまでわかるの?」
「ん~、そりゃ内緒だ」
エルは「なんで」と少し、ふてた顔をしているが、気配探知は俺の生命線と言っても過言ではない。
それをおいそれと他人に教えるわけがない。
「そんなふててねえで、ついてこい」
そう言って俺は一番太いホホハズリの木の幹に手をかけ、ひょい、ひょいと木に登る。自分の伸長と同じ高さくらいの枝に一旦、腰掛けエルを呼ぶ。
エルはどうすれば良いのか分からないようで、手を胸の前でモジモジとさせてその場にとどまっていた。
「なにしてんだ。ほれ、お前も来いよ」
「でも……」
「でも、じゃねえ!腹減ってんなら自分の飯くらい自分で用意するのは当たり前のことだ。腹減ったってピーチクパーチク口開けて待ってりゃエサを運んでくれるなんて思うなよ」
「そ、そんなこと思ってない!」
「それじゃ、さっさと来いよ」
エルは、おっかなびっくり木に手を掛けるが、そのまま動こうとしない。
しかたなく俺は枝から飛び降り地面に降り立つと、木にしがみつくエルの腰を掴んで、無理やり木登りをさせてやる。
「えっえっえっ!ちょちょちょちょっと!!!きゃーーー!!」
「叫んでないで、そこの枝に登れよ!」
ペシッ!
ちょうど目の前にあったエルの形のいいケツを叩いて気合を入れてやるれば「きゃっ!!」と小さい悲鳴をあげて、一番低い場所に伸びる太い枝の上にどうにかエルがよじ登る。
「ケケケ。やれば出来るじゃねえか」
「ひどい!私、木に登るのなんて初めてなのにぃ……」
俺も再び木を登り、すぐさま半泣きのエルより高い位置にある枝に到達する。
「ほれ、腹ペコちゃん。さっさとここまで登って来いよ」
俺のスパルタが効いたのかエルは、どうにかこうにか枝に手をかけ、幹に開いた洞に足かけ、俺と同じ高さまでやってくる。
「はぁ……はぁ……た、たかいよぉ。こ、これ降りる時どうするのぉ」
もうすでに地表は随分と下にある。下手に落ちれば死んでもおかしくはない高さだ。
だが、今はそんな事はどうでもいい。
「お前、降りる時の事なんて考えるなよ。ほれ、見てみろ。あそこにある鳥の巣がわかるか?」
「うん、見える」
「ありゃ、白頭雉の巣だ。白頭雉はな、同時に何か所も巣を作って卵を産むんだよ。そんで、その中の一つの巣だけ大事に温めるんだ」
「じゃあ、他の巣は?」
「囮みたいなもんなんだろ。大事な一個を守るために他は捨てるんだと。そのお陰で俺らは美味い卵にありつける。……よっと」
俺はぐいっと木の幹を支えに巣から卵を一つ取る。
「ほれ、エルもやってみな」
エルのヤツも、自分の立つ枝から身を乗り出して巣に手を伸ばす。しかし、俺よりも身長の低いエルでは、なかなか巣に手が届かない。
「んーーー届かない……キャッ!!!」
もう少しで手が届くかと思ったら、エルは足を滑らせて木から落ちた。




