第21話 目指す先
「お前もその恰好どうにかせんとな」
俺はヴィーの鎧姿を見る。
白銀の甲冑はどうにも目立つ。その上、胸の中央には騎士団のエンブレムまでついているのだ。
「むう……」
騎士のアイデンティティーたる鎧をいじくるのは相当抵抗があるらしく渋い面を作って見せる。
「まあ、お前に関しちゃ、サイズの合う服がねえからな。しばらくは、そのままだ」
「そ、そうか?それならば、仕方ないな」
そう言いながらも嬉しそうな顔のヴィー。
エルは、何やら言いたげにヴィーの甲冑に隠されている胸元を見る。
その通りだ、エルよ。身長だけなら合う服はある。
しかし、ヴィーのでかい乳を収めることのできる服が無えのよ。
俺は決して平らではないエルの胸と甲冑に納まるヴィーの胸を交互に見る。
その視線に気づいたエルの非難がましいジットリした目線に、なぜか気圧され俺はあらぬ方向を向くこととなった。
「まあ、格好のことは、よその町に着いたら考えるとするか……」
「なあ。そのことなんだが、お前これからの行き先をどうするのか決めているのか?私たちは、いったいどこまで行けば解放されるんだ?」
「ん?言ってなかったけか?」
二人は息ぴったりにそろって首を左右に振る。
「俺たちはこれから、東に旅する。目的地は新しくできた魔界領だ!!俺はそこで自分の領地を買う」
「な、なに!!魔界領だと!!?お前、気は確かか?」
「当たり前だ!」
何を隠すことがある。俺は胸を張って答えた。
「ヴィー、どういうことなんです?」
こういう時に真面目な騎士は役に立つ。めんどくさい説明を勝手に買って出てくれたんだからな。
「……エルも知っての通り、私たちの今いるレムリア大陸とその東側にある大陸『魔界』は、現在戦争の真っただ中です。
もともと小さな小競り合いこそあったものの、ここまで大規模な争いはありませんでした。
しかし、近年現れた魔王なる存在が魔界全土を統一したのを皮切りに、レムリア大陸にも、その魔の手を伸ばしてきたのが始まりです。
魔王軍の力はすさまじく獣人連合とソルト共和国の一部を瞬く間に下し、そのままレムリア大陸東側を占領、魔界領としてしまったのです。
それをこの男は、いけしゃあしゃあと、人類の敵たる魔族側に付き、あまつさえそこの領主になるなんて抜かしているんですよ」
「それって大丈夫なの?」
「だあいじょうぶだって!!んな、何でもかんでも心配してたら何も始まらん!
それに噂じゃ、魔界領は今、金欠で金を積めば自分の領地をくれるらしいからな。
これはチャンスなんだ!!こんなケチな盗賊稼業とは、おさらばして俺は悠々自適に領主様ライフをエンジョイするんだ!!」
そのために山猿盗賊団は、分不相応にも金貨輸送を襲い、公爵家の馬車を襲撃したのだ。仲間七人で描いた野望を俺は一人になっても諦める気はなかった。
「はぁ……じゃあ、そこまで行けば私たちは無事に解放されるんだな?」
「おうよ!!このマシラ、魔界領まで逃げ延びることができたらお前たちを解放することをこの命に懸けて誓ってやる」
「わかった。お前が魔界領でどうなろうと私の知ったことではないからな?魔界領に一歩でも足を踏み入れた暁には、隷属の首輪、解呪してもらうぞ」
「へいへい。何度も言わせんなって。だいたい追手の連中が魔界領まで追ってこれるとは思えんからな。そこまで行けりゃ、お前たちなんぞ必要ないわな」
それを聞いてエルが遠慮気味に手を上げる。
「あの……領地を買うっていくらくらいなんですか?」
「ん~……噂じゃ一億から三億くらいで買えるらしいな」
「らしいな、って……お前、それがどれほど大金なのかわかってるのか?」
「分かってるに決まってんだろ。三億は三億だ」
「私のところの今年の税収が10億くらいって聞きましたから、その三分の一ですよ?」
そう言われると大金な気がしてくる。大貴族である公爵領の税収の三分の一とは、とんでもねえ額だ。
もしかして魔王もぼったくってんのかね?
「まあ、なるようになるだろ。それに俺にはこいつがある」
そう言ってバンチん所から、盗ってきた金庫をマジックバッグから取り出す。
「これは?」
「バンチが貯め込んでた金が入ってる金庫。どうにか開けれないもんかね……」
改めて地面にどかりと鎮座する金庫を確かめる。
マジックバッグがなければ、男十人でも担ぐことは無理そうな重厚な金庫だ。
拳で叩いて返ってくる音は、おそらくミスリルやオリハルコンが含まれた合金。
カギはダイヤルと魔法錠。
ダイヤルだけなら時間をかければ何とかなるが、魔法錠は厄介だ。持ち主の魔力パターンでしか開けることができない。
金庫空けの知り合いはいるにはいるが、どいつもこいつも無法都市の息がかかってやがる。
下手に頼めばすぐに知らせが無法都市の奴らに飛んで、俺は捕まっちまうだろう……
はぁ……俺の方じゃ八方ふさがり、打つ手がない。
「なぁ、お前らの知り合いで、これ開けられそうな奴、知らないか?」
ダメでもともと。聞くのはタダだ。
なんの収穫も期待していなかったが、エルが「ん~……」と何やら思案する様子が見られた。
「ねぇ、ヴィー。ドゥーイのおじさまは、どうかしら?」
「……まあ、あの人ほどの名工なら、なんとかなるかもしれませんが……」
「おいおい!知り合いに金庫開けがいるのかよ!?」
「ち、ちがうんです。ドゥーイのおじさまは昔、公爵家《私の家》に仕えてくれていた鍛冶師なんだけど……」
「おうおう!鍛冶師だろうと曲芸師だろうと、この際、金庫が開くなら何でもいいや!!さっさとそいつのところに行こうぜ!」
提案したくせになぜだか気乗りのしない様子のエルは顔面に暗い影を落として下を俯く。
「なんだよ?」
「ドゥーイのおじさま、私を恨んでるかも知れないんです……」
「エルを恨むことなんてありませんよ。あの件は、公爵様が悪いと私は思います」
「おいおい、どういうことなんだよ」
「……」
言い淀むエルの代わりにヴィーが事情を話し出した。
「エル様の境遇は昨日の夜、説明しただろ?ドゥーイ殿は、私以上にそのことを憂いていてな。エルの父上である公爵様に強く抗議されたのだ。そのことで公爵様と奥様の反感を買い、放逐されてしまったのだ」
なるほどね。エルは自分のせいでそのドゥーイだかってやつが辞めさせられて恨んでるんじゃないかと心配してるわけか……あほくさっ!
「エルよ。他人の気持ちなんぞ、いくら考えても分かるわけねえんだから、適当に良いように考えろよ。ドゥーイのおっさんはお前のことはこれっぽちも怒ってねえし、俺は魔界領で領主になれる!!最高!!おわり」
「お前はなぁ……」
呆れ顔のヴィーが何やら文句を垂れたそうに俺に向かってくるが、それをエルの「クスクス」と笑う声が止めた。
「そうよね。うん!そう思うことにする。ありがとう、マシラ」
ん~、こいつのこういうとこが俺はニガテだ。
俺は返事をすることなく、頭をボリボリと掻いてエルの礼には答えないことに決めた。
一章おわり




