第20話 再会
いやぁ、八人相手に遊ぶのは骨が折れた。
森の中に隠れては殺し、隠れては殺し。
最後の一人には、丁寧にお願いをして、追手がどれほどいるのかを確認した。
今この辺りにいるのは、こいつらしかいないようで一安心。
夕日が沈む前に俺は合流地点の大杉の生える山頂に到着することができた。
エルとヴィーはなぜか俺が出てきた方向とは真逆を向き、何やら黄昏ていやがる。
ここは一つ感動のご対面を演出してやろうかね。
ということで、わざわざスキル『隠密』を使用して、こっそりと女たちの背後に回り込んでみることにした。
「ねぇ、ヴィー?マシラは大丈夫かしら?」
大丈夫に決まってんだろ。ほーれ、後ろにいるぞお?
「まぁ、首輪が消えてませんから生きてるのは確かです」
こいつは、冷静でかわいげのない奴だな。
シュッ、シュッ。ヴィーを殴るふりをしてみる。
「……ヴィー、一度森の中に戻りましょう」
やめろ、やめろ。お前らじゃ迷子になるのが関の山だ。
「それはダメです。マシラが敵からどう逃げたのか分からない状況で森に入っても探しようがありません。それに、じき夜が来ます。悔しいですが夜の森は、あの男がいなければ私でも迷ってしまいます」
んん~。よく分かってるじゃないか。やっぱりマシラ盗賊団のナンバー2は出来る女だぜ。
さすがにそろそろ気づいてもらわにゃ、この遊びに飽きてきた。
俺は思い切って二人の会話に混ざってみることにした。
「そうだぜ。それにお前らに助けてもらうほどマシラさんは落ちぶれちゃいねえ」
「でも……」
「あの男とは付き合いは短いですが、あの手の男は殺したって死にません」
「おうおう、騎士様に褒めていただき光栄の至りってもんだ」
「「ん?」」
やっと俺に気づいて二人が振り返る。
笑顔で俺を迎えてくれる……なんてこと考えていたわけじゃないが、エルの顔がドンドン青くなっていく。
「だ、だいじょうぶですか?」
「なにが?」
自慢じゃないが傷一つない。
「血……血だらけです……」
今にも卒倒しそうなエル。
逆にヴィーは俺が何をしてきたのか察しが付いているらしく極めて冷たい視線を俺に送ってきた。
そう、この血は最後に会った追手のものだ。丁寧なお願いにゃ、多少の流血がつきもの。最後にゃ泣いて俺に何でも話してくれた。
まあ、言わぬが花か。
「こりゃ、俺の血じゃねえ」
それだけ。それだけ教えておいた。
「そ、そうですか。よかったあ」
本当にこの女はどうかしてる。どうして、こうも純粋に俺のことを心配できるのか分からない。
だから、ヴィーに「なぜだ?」と尋ねるように目線を送るが、肩をすくめるだけで何も返事はない。
分からんもんは放っておくのが一番。
会話を一旦切り上げ、血で汚れた服とズボンを脱ぎ捨てる。
「きゃっ」
エルが顔を背ける。
「なんだよ、おぼこいヤツだな。チンコみせたろか?」
俺は冗談でパンツに手を掛け、少しずらしてみる。
「おまっ!!」
すぐさまヴィーの蹴りが俺の尻に飛んできた。
「痛えなぁ!本気で蹴るんじゃねえ!ただの冗談じゃねえか!!」
「冗談でもな、していい冗談とダメな冗談があるだろ!!レディに向かってパンツを下ろす奴がいるかっ!!」
ちぇっ!笑えると思ったんだが、俺のハイセンスな冗談は生娘にゃ、まだ早かったらしい。
小動物のようにヴィーの背にエルは隠れちまった。
「それにしても、すごい傷の跡だな」
「ん?」
改めて自分の体を見る。
ガキの頃を合わせりゃ、そら数えきれない無数の傷がある。
が、どれがどの傷なのかは忘れちまったし、怪我自慢しても仕方ない。
俺は黙ってマジックバッグから比較的新しい服一式を取り出して着替える。
「なぁ、お前のマジックバッグの容量はどのくらいなんだ?」
「んー、違法に改造してるからなぁ……たぶん、大型魔物の胃袋くらいは、あるんじゃねえか?」
シャツを着ながら俺は答えてやる。
「それは、なかなかの物だ」
「ケケケケ!だろぉ?自慢のマジックバッグだぜ!なんたって改造代込みで八十万メルクの代物だい。見てみろ」
俺は自慢のマジックバッグが褒められて嬉しくなり、気分良くポイっと、ヴィーにマジックバッグを投げてやった。
ヴィーは、しっかり両手で受け取ると、重さを確かめるように掌の上で数回ポン、ポンとマジックバッグを跳ねさせる。
「なかなか、重いな」
「もとは安もんだからなぁ。重量キャンセルがイマイチなんだよ」
ヴィーは、一通りマジックバッグを確かめると再び俺に投げ返した。
俺は受け取ったマジックバッグの口ひもを腰ベルトに結わいつける。
「あのぉ……」
俺が着替え終わるのを見計らって、エルがヴィーの背中から顔を出す。
「ん?なんだ?」
「その袋の中には、女性物の服はないですよね?」
「ねえなぁ」
「出来れば私も着替えたいんですけど……」
見ればエルのドレスは出会ったころよりも汚れやほつれが目立っていた。
生足にはいくつも小さな擦り傷もある。
「そうだな。一時凌ぎだが、これでも着てな」
俺が取り出したのは一番小柄だったヒョッコリが着ていた服。安物のシャツに、分厚い生地で出来たズボン。
「マシラのマジックバッグには何でも入ってるのね」
おずおずとヴィーの背から出てきて俺から服を受け取る。
「俺たちが持ってたマジックバッグは、これ一つだったからな。仲間の荷物を全部これにぶち込んであるのさ」
エルは受け取った服を広げまじまじと観察していた。
「なんだよ、文句あんのか?」
「ち、違います。スカート以外の服を着るのは初めてなので……」
「ギシシシ!なら、いいじゃねえか!!何事も挑戦だ、エル!」
「はいっ!私、着替えてみます」
何がそんなに嬉しいのかたかだか服の着替えを高らかに宣言すると、その場でワンピースドレスの裾を持ち上げる。
「おお!!」
突如始まるストリップに俺の目がエルに釘付けになる。
パンツが見えそうだぜ!
「エルをスケベな目で汚すな」
良いとこでヴィーの指が俺の目玉を突いた。
「ぐぞぉ!!」
ヴィーのやつマジでやりやがった。
あまりの痛みに地面に倒れ込んで目を押さえる。
次から次へと涙が溢れてくるぜ、ちくしょう。
しかし、おかしい!
隷属の首輪は、主を傷付けることが出来ないはずじゃないのか?
これぐらいスキンシップの内なのか?
それとも奴隷に殴られて喜ぶ変態仕様の首輪が施されてんのか?
あのババア適当な術式こさえやがって!!
俺が四方八方に恨みを向けていると――
「どう、マシラ?」
エルが上機嫌に俺に自分の格好を見せびらかす。
未だ涙でしょぼくれる目を使ってエルが立っているであろう場所を凝視してやればピントが徐々に合ってくる。
そこには、少しズボンがダボついてはいるが駆け出しの女盗賊といってもいい小汚い恰好のエルが嬉しそうに立っていた。
「髪ぃ、結んだのか?」
「うん。ヴィーに髪留めを借りたの。この方がそれっぽいでしょ」
オシャレを自慢する女みたいにクルリとその場で回って見せる。その瞬間、輝くようなブロンドの髪が夕焼けの赤を反射した。
溢れ出るエルの若さからか、それとも眩しい夕焼けのせいか俺はエルから目をそらす。
「けっ!馬子にも衣装ってとこだな」
「まったく、ひねくれた男だ……とってもお似合いですよ、エル」
「フフフ。ありがとう」
なんだか、この二人間にいると俺まで花畑の住人になっちまう気がしていたたまれない気分になる。




