第13話 無法都市からの大脱出
この話、すでに読まれた方おられるかもしれませんね。
12話よりも先に13話を投稿してしまいました……
すみませんでした。
目指すのはエレオノーラとヴァレリー、二人と落ち合う約束をした奴隷商人の店前だ。
俺は下へ下へと狭い足場の通路を急ぐ。
道中あちこちでヴァレリーに仕掛けさせた時限式の爆裂魔法がさく裂し、無法都市の中は混乱の極みといった様相を呈していた。
崩れる足場に運のない奴が巻き込まれ地の底に落ちていく。それを尻目に走っていれば爆裂魔法に巻き込まれ火だるまになる間抜け野郎が俺に向かってくるから、華麗に避けて、これまた地の底へとダイブ。
そんなこんな楽しいピクニックをしていると、一つの横坑から顔中煤にまみれたヴァレリーが現れた。
「おお、楽しそうな格好してんな」
俺は足を止めることなくヴァレリーに言葉を掛ける。ヴァレリーも俺に合わせて走り出す。
「すまん。邪魔が入って爆発のタイミングが早まった」
「いや、最高のタイミングだったぜ!おかげでうまい空気が吸えた」
何のことかわからないヴァレリーは俺から責められないことを不思議そうにしながらも俺の後に続いて走る。
その間も至る所の横坑から爆発と悲鳴があがった。
そんな中、俺の部屋の前を通りすぎる。
五年程バカな仲間と過ごした、なんだかんだ愛着のある場所だ。
そんな俺たちの部屋からひときわ大きな爆発が起きるのを後ろで感じた。
それを見たヴァレリーが慌てて俺に弁明をする。
「なっ!私じゃないぞ!あそこには仕掛けてないならな」
「わかってる。俺が仕掛けたヤツだ」
思い出なんざ、これからの旅にゃ重荷で仕方ない。悪いな、山猿盗賊団《俺たち》のすべてをここに捨てていく。
俺は振り返ることなく下を目指した。
「ヴィー!!」
集合場所で律儀に突っ立てるエレオノーラが俺とヴァレリーの姿を見つけ声を掛ける。
我慢ならなかったのだろう、ヴァレリーが通路を飛び降りエレオノーラの元へと急ぐ。
「エレオノーラ様!!よくぞご無事で」
「ヴィー……ごめんなさい。私……わたし……あなたに怒ってしまって」
「良いんです。良いんです」
二人は抱き合い感動の再開をこの地獄絵図の中おっぱじめやがった。見るに見かねて俺も足場から飛び降りる。
ズン!地面に着地をかますが、足先から脳天を突き抜ける稲妻のような痛みが全身を駆け巡る。
でも、あいつらには弱みを見せるわけにはいかない。
何食わぬ顔を必死で作る、俺。
「何抱き合ってんだ。さっさとずらかるぞ」
二人は感動の再開を邪魔されたのがムカつくのか俺をゴキブリでも見るかのような目で睨んできた。
女は二人集まると結託してたまらん。
そうこうしていれば、連続して爆裂魔法が上の方でさく裂する。それと同時に天井が剥がれ落ち、巨大な岩盤が降り注いだ。
「エレオノーラ様行きましょう」
「ええ」
二人は俺を置いて出口に向かった。おかしい、俺が主のはずなんだけど……
俺も二人を追う形で出口に向かう。が、坑道の崩落が予想以上に速い。
「ばかやろう!!なんで爆発がこんなに早いんだ!!!指示したとおりにやれ!」
先を行くヴァレリーに怒鳴ってやる。
「なっ!?さっきは最高のタイミングだったと言ったじゃないか!!」
「それはそれ!これはこれだ!!さっさと走れ!!崩落に巻き込まれるぞ!!」
「し、しかし……」
足を止めることなく走り続けているが、それでも全速力には程遠い。理由は簡単、エレオノーラにペースを合わせて走っているからだ。
嬢ちゃんのお上品にスカートの裾をもちあげて走る様はまさに御貴族様の鏡。
だがここじゃ気品や優雅さなんぞケツ拭く紙より役に立たねぇ。
「仕方ねえな」
俺は少しばかりペースを速めエレオノーラと並ぶ。
「じたばたするなよ」
「えっ?」
俺はエレオノーラを肩に担ぐ。
「おまっ!エレオノーラ様を肩に担ぐなんて――」
「うるせえ!黙って着いてこい」
ヴァレリーは、さらに何か言いかけたが崩れる坑道を前に文句を腹の中に流し込み「わかった」と告げて走る速度を上げる。
狭い坑道の出口には逃げ惑う無法都市の住人がひしめき合っていた。
俺はひょいっと飛び上がりそいつらの頭を踏みつけ先に進む。そこらの有象無象のバカどもは俺の足場にちょうどいい。
「ごめんなさい。すみません」
それなのに担がれた嬢ちゃんときたら俺が頭を踏みつける度、律儀に土台となったバカどもに詫びを入れる。なんて損な女なんだと、俺は呆れた。
踏みつけてるのは俺なのだから知らん顔してればいいものを……
それをわざわざ謝るもんだから、踏まれた奴が図に乗って嬢ちゃんに文句を垂れる。
「ぶっ殺すぞ!!人の頭をなんだと――ブッ!!」
が、その口もすぐにふさがる。なぜなら俺の後を同じようにヴァレリーが踏みつけてやってくるからだ。
俺たちは人を踏みつけ無法都市の外へと飛び出した。
すでに外には中から逃げ出した人間や何が起きたのかと外のバラックで暮らすジャンキーが見物に現れ、怒声が飛び交う。
さらには、あちこちで殴り合いの喧嘩に刃傷沙汰。魔法の打ち合い、なんでもござれのドンチャカお祭り騒ぎ。
「カカカ。こいつあ景気が良いねえ。俺たちの門出にゃもってこいだ!!」
身に降りかからない火の粉ほど楽しいものはない。
ようは花火と一緒だ。
人を掻き分けながら喧騒を進む。
「最低です。人が傷つくのを喜ぶなんて……」
人が楽しんでいるのに肩に担いだエレオノーラが水を差してきやがった。
「けっ!つまらん女だな。いったい何が楽しくて生きてんだか……」
「……楽しかったことなんて一度もありません」
嬢ちゃんがポツリと言葉を漏らす。俺は嬢ちゃんの声がしっかりと聞こえていたが、それに返してやる言葉を持ち合わせちゃいない。
担ぐ者と担がれる者、互いに黙りこくって人ごみの中を通っていく。
「あっ!!」
突然黙りこくっていた嬢ちゃんが何かを見つけて声を上げた。
何を見ているのか俺もそれに視線を合わせる。
嬢ちゃんの目線の先にいたのは奴隷商人のとこにいた獣人のガキだった。その周りにはガキと同じようにボロを着た大人たちがいる。
不思議なことにその周りには奴隷商人はいない。
やつらどうやったかは知らんが奴隷商人からうまく逃げだしたみたいだ。
獣人のガキはエレオノーラと目が合う。その瞬間、檻の中にいた時とは打って変わって眩しいほどの笑顔をエレオノーラに向け、大きく手を振った。
なるほど、嬢ちゃんの仕業か。
エレオノーラも獣人のガキに向け大きく大きく手を振ってみせる。その顔には獣人のガキにも引けを取らない笑った顔がひっついてやがった。
それを見て俺はなぜだかケツの穴がむず痒いような気分になった。
「俺の目の前でブンブン手を振るな!邪魔なんだよ!」
「少しくらい良いじゃないですか。あはははは!元気でねーーー!!」
奴隷たちの集団は喧騒の中に溶けるように消えて行った。
「けっ」
俺は人があらかた捌けたスラムの端でエレオノーラを肩から降ろす。
「嬢ちゃん、金はちゃんと取ってきただろうな?」
「はい、ここに」
エレオノーラは握った右手を俺に差し出す。
反射的にそれを受けるように手を出すと、陶器で出来ているかのような白い手の中から数枚の金貨が俺の掌に落とされた。
きっかり四万メルク。ずっと握りしめていたんだろう、手汗でじっとり湿ってやがる。
ま、金は金だ。糞がついてても俺は気にしないね。
「でかしたぞ、嬢ちゃん!これで晴れてお前は新生マシラ盗賊団の一員だ!!」
「え!?」
心底嫌そうな顔をするエレオノーラ。
「何を言っているんだ。勝手に私たちをお前の仲間なんかにするんじゃない」
ヴァレリーが保護者を気取ってエレオノーラの前に出る。
「なあに言ってんだよ。十分俺の仲間の素質ありだろ。あのババアのとこから俺たちの金を取り返してきたんだ。それに、あの獣人のガキなんで檻の外にいるのかなぁあ?」
俺の意地悪い質問に「うぐぅ」と体を小さくするエレオノーラ。
何のことか理解できない察しの悪いヴァレリーは「獣人の子供とは一体何のことだ?」と俺に詰め寄る。
「キシシシ!まあ、俺と嬢ちゃんの秘密ってとこだな?」
俺の問いかけを無視して嬢ちゃんはそっぽをむいちまった。からかいがいのある嬢ちゃんだ。
「むむむむぅ……」
俺と嬢ちゃんの秘密がよほど気に入らないのか拗ねるように俺を睨むヴァレリー。そんな目で見られたところで痛くもかゆくもない。
「まぁそんなにいじけるな。お前も嬢ちゃんと同じくマシラ盗賊団の団員だ。それもナンバー2の座をくれてやろう」
パチパチパチと俺一人の拍手がむなしくスラムに響く。
「そんな不名誉なもの願い下げだ。体はお前の自由になろうとも、心だけは誉ある騎士だ」
そう高らかに宣言してみせる。立派立派、じつに立派な心意気。
「見てみろよ。誉れ高き騎士殿」
俺はわずかばかり離れた不法都市を内部に孕んだミスリル鉱山を指さす。
「あれがどうし……たぁぁぁああああああ!!」
ヴァレリーが振り返るように視線をミスリル鉱山に向けると、なんとミスリル鉱山全体が大爆発を起こした。
多分だが、どこかにあったガス溜まりに爆裂魔法の炎が引火、大爆発を引き起こしたのだろう。
爆風がバラックをなぎ倒しながら俺たちの元まで到達する。
「「…………」」
二人はあまりのことに大口を開けて固まったまま。
「さすがナンバー2。仕事が派手だねえ」
呆気にとられたヴァレリーの肩をポンポンと叩いて、俺は固まったままの二人を背に無法都市からおさらばを決め込むことにしたのだ。




