第5話 聖女の決断、七つの嘘の影
王都の空は鉛色に沈んでいた。
警報の鐘が鳴り響き、市民たちは慌てて家路を急ぐ。王都中心部の宮殿付近で、異変が起きている――ただの事件ではない。国家規模の陰謀の匂いが、私の鼻をかすめた。
「璃子様、急報です! 王宮の執務室で重要文書が消失しました!」
アレンが息を切らせながら駆け寄る。
「文書……? これが奪われたとなると、国の存亡にも関わるわね」
ルーカスは剣を握り締める。
「敵は内部にいるのか? それとも外部の諜報者か?」
「両方かもしれない」
私は唇を引き結び、冷静に状況を整理する。
前世で培った捜査官の直感が告げる――これは単なる窃盗や権力争いではない。王国の歴史に深く刻まれた「七つの嘘」の断片が絡んでいる。文書の中身は、古代の契約と、王家が隠してきた事実に関わる証拠のひとつに違いない。
「アレン、エリオ、ルーカス。各自、手分けする。私は王宮の人間関係と証言を整理する」
夜の宮殿は、複雑な回廊と重厚な扉に囲まれて迷路のようだった。私は歩きながら、使者や側近たちの微妙な表情を観察する。視線、口調、仕草――どれもが隠された真実を語っていた。
やがて、文書を奪った者の足取りを突き止める。内部の者が外部勢力と通じ、王都を混乱させようと画策していた。策略は精密で、誰も気づかないように計画されていたが、私の推理力はそれを解き明かす。
「なるほど……」
私は小さく息をつき、ルーカスに向き直る。
「この陰謀は、ただの権力争いじゃない。王国の根幹を揺るがす“七つの嘘”の一部よ」
アレンが微笑む。
「やっぱり聖女だけど探偵でもあるな」
私は頷き、手袋をきちんと整える。
「祈りも大事。でも、真実を暴くことの方が、時には国を救う」
事件は一応解決した。文書は取り戻され、王都の混乱は最小限に抑えられた。しかし胸騒ぎは消えない。七つの嘘の断片は、まだ六つ残っている――そして、次にどの断片が動き出すかは誰にも分からない。
夜空に浮かぶ月は柔らかく街を照らすが、影は深いまま。
「私は、この街の闇を全部解き明かす――」
心の中で再び誓う。聖女として、探偵として、そして転生者として。
この王都での物語は、まだ始まったばかりなのだから。
お読みいただきありがとうございました。