第3話 謎の医師と魔導士の密室
王都の朝は、霞んだ光と共に静かに始まった。
だが、静寂の奥に潜む異変を、私はもう見逃さなかった。
「璃子、また事件か?」
廊下で待っていたのは、王都の若き魔導士アレン。情報屋も兼ねる彼は、茶目っ気たっぷりに微笑んでいるが、その目には鋭い洞察が光っていた。
「どうやら、王都の薬局で謎の死があったらしい」
私は手帳を取り出し、昨日集めた情報と照らし合わせる。死因は不明、密室状態で、誰も現場に入った形跡がない――典型的な閉ざされた状況。
「つまり、魔法の可能性もあるけど……普通の毒でも説明できる。まずは現場検証ね」
アレンは肩をすくめて笑った。
「君がそう言うと説得力あるな。じゃあ僕は証拠収集に走る」
現場に到着すると、医師のエリオがすでに待っていた。王都でも評判の高名な医師だが、何かを抱えている雰囲気がある。
「……これはただの事故ではないね」
エリオの声は低く、慎重だった。
「状況証拠は少ない。だが、微細な毒の痕跡は確実に残っている」
私は観察する。
窓の鍵、机の引き出しの位置、薬瓶の微妙な傾き。すべて、死者が自ら倒れる前に動かせなかったものだ。密室の中で動く者――犯人は内部にいたと断定できる。
「ここだ、証拠は揃った」
私は小さな粉末の跡と、窓の外の微かな足跡を指さした。アレンは驚き、エリオはわずかに眉をひそめる。
「なるほど……完全に計画された事件だ」
犯人は、密室内で薬を混入させ、死者を操作するように見せかけていた。動機は単純な利益目的ではなく、王都の権力者たちの動きを混乱させるための策略だった――つまり、国家レベルの陰謀の一部。
ルーカスが背後で頷く。
「さすがだな、聖女でもあり、探偵でもある」
「聖女は祈りの象徴。でも、祈りだけでは人は救えない。真実を見つけ、守ること――それが私の使命」
事件は解決したが、胸騒ぎは消えない。王都には、まだ私の知らない“七つの嘘”の断片が散らばっている。そして、彼ら――騎士、魔導士、医師――との関係は、これから大きな物語に絡んでいくのだ。
夜の王都の空に月が浮かぶ。光は柔らかくとも、影は濃い。
私は思った。
「この街の闇を、全部解き明かす――」