第2話 聖女の推理、失踪の謎
祭りの喧騒が収まった夜、私は王都の静かな路地を歩いていた。
「見つかった?」
後ろから声がする。幼馴染であり、国守りの騎士であるルーカスが、私の後を軽く走ってきた。彼はいつも冷静だが、今夜は少し焦った顔をしている。
「まだよ。だけど、手がかりはある――目撃証言と、微かな足跡。それに、祭りの屋台から消えた品々」
私は小さな紙片を指先で揉みながら呟いた。前世で培った捜査官の勘覚が、確かにここでも働いている。
ルーカスは眉を寄せ、私の指先を覗き込む。
「それって……本当に解決できるのか?」
「大丈夫、証拠がある限り、私は諦めない」
その夜、私は事件現場に向かう。祭りの屋台、消えた令嬢の部屋、子供たちの遊ぶ広場……すべてを観察し、頭の中で筋道を組み立てる。
小さな違和感――祭りの屋台の配置、道端の足跡の不自然な曲がり方、影に隠れるように置かれた落とし物。すべてが、失踪者の行動を示す証拠だった。
「なるほど……」
私は小さく呟くと、ルーカスに向き直った。
「犯人は、祭りの喧騒に紛れて屋台を移動させ、逃走経路を隠した。足跡はすぐに消えるよう工夫されている」
ルーカスは目を丸くする。
「どうやってわかったんだ?」
「勘じゃない。証拠をつなげただけ」
その推理の通り、私は失踪者の足跡を追い、暗い路地裏の小屋に辿り着いた。扉の隙間から、微かに聞こえる声。
「ここだ……」
中に入ると、祭りで行方不明になった子供と令嬢が無事に座っていた。犯人は捕まり、事情を聞くと、単純な窃盗目的だったことが判明。王都の治安が完全ではないことを再認識する。
ルーカスは感嘆したように言った。
「やっぱり、聖女だけど探偵でもあるんだな」
私は笑う。
「そう、聖女としての役目もあるけど、真実を見つけるのはもっと大事」
その夜、王都の空は静かに光っていた。しかし、私は知っていた――この小さな事件は、王国を揺るがす「七つの嘘」の断片のひとつに繋がる序章にすぎない、と。