第1夜 依頼07
―パキンッ
旧校舎の中は昨日と変わらずガラスの破片が床に散らばり、窓ガラスは割れていた。
あれから人が訪れた様子は見られない。
ただ、昨日に比べ、霊気が濃くなっているのは、肌で感じた。
「まず、カガミを探さないと…」
「…カガミの気配、分かるか?」
ヒョイッと愛羅の肩に乗りながら、焔は問う。
愛羅は、眉を顰め、暗闇を睨みつけた。
「……ここにある霊気に、消されてるみたいだね。全然、カガミの気配が感じ取れない」
これじゃ探しようがない、と愛羅は小さく呟いた。
焔も同じ意見なのか,ヒョンッと尻尾を一振りして、暗闇を睨む。
「…あいつ、呼んだらどうだ?」
「…あの子を?」
焔の提案に愛羅は考え込んだ。
確かに、未だ状況が分かっていない中二人だけで行動するのは危険だ。
焔の言い分は正しい…が。
「焔、あの子と仲悪いんじゃなかった?」
「……この際、我慢してやる。呼べ」
ムスッとして言い張る焔に、ホントかなぁと思いながらも呪符を取り出し、前へ翳す。
「月の加護を受けし者よ、我の道を示し、力となれ―妖月・月花!!」
ボッと呪符が燃え、現れたのは白銀の髪に金色の瞳の少女。
「久しぶりね、マスター。中々呼んでくれないから、忘れられたかと思ったわ」
「ごめんね、月花。忘れてたわけじゃないんだよ」
「知ってるわ、マスターは優しいもの。どうせ、そこの獣が呼び出さないようにしてたんでしょ?」
スッと眼を細め、焔を睨みつける月花に、愛羅は苦笑を零すしかなかった。
「勝手な言いがかりは止めて貰おうか、青二才が」
「まぁ、獣が何て口を聞いてるの」
「はっ、チビが粋がるなよ」
「なっ、失礼にも程があるわよ?!」
「何だと?!」
「はいはい、二人ともストーップ!!」
口喧嘩が激しくなりそうな二人の間に入り、喧嘩を止める愛羅。
だから、月花を呼び出すの躊躇ったんだよ…。
この二人、顔を合わすと口喧嘩が絶えない程仲が悪い。
その仲裁に入るのも中々骨が折れる。
「そうね、折角呼んでもらったんだもの。喧嘩なんて馬鹿な真似してる暇、ないわ」
「それはこっちの台詞だ」
「二人とも、本当に止めてくれる?今は、そんなことしてる場合じゃないんだ」
ねっ、と有無を言わさない笑顔を向けられ、月花も焔も口を閉じた。
それを確認して、愛羅は月花に事の次第を話して聞かせた。
「つまり、調査に出たカガミが帰ってこないうえに、この霊気であの子の気配が読めないってことね?」
「うん、カガミだけじゃない。ここには霊気があるだけで気配は感じ取れないんだ」
「まぁ、これだけ濃い霊気なら、気配を消すことは可能でしょうね…。分かったわ、私はあの子の気配を探して辿れば良いのね?」
「頼めるかな?月花しか出来ないんだ」
「勿論よ、マスターの為なら喜んで力を貸すわ」
ニッコリと嬉しそうに笑った月花は、ポケットから黄色い粉が入った小瓶を取り出すと、キュポンッと蓋を外し、粉を振りまいた。
すると、振りまかれた粉は、操られたように一本の道を作り、奥へと続いていった。
「この粉を辿れば、あの子の元に辿りつける筈よ」
「ありがとう。じゃぁ、行こうか焔、月花」
愛羅は道筋のように床に落ちた粉を辿りながら奥へ向かった。
その後を、焔と月花も追う。
―パキンッ
「…………」
その後ろに、怪しい影がたっていたとも知らずに……。