第1夜 依頼06
―カガミは翌朝になっても帰ってこなかった。
調査が難航しているのか、それとも何かあったのか。
今回、分からないこと尽くしだ、と愛羅は深く溜息を吐いて旧校舎を見上げた。
昨日は蓮に見つかったしまったから、と早朝に門を越えてきたのだ。
「愛羅、微かだが…霊気が濃くなってるぞ」
「……この気配は、カガミのものじゃないな」
と言うことは、ここにいる何かが成長したのか。
何処か不穏な雰囲気を醸し出す旧校舎を睨みあげる。
そのとき
ヒュッ
グサグサッ
どこからともなく放たれた短刀を、後ろに軽く避けた。
ギラリ、と朝日を浴びて光る刃には梅の紋様が。
「……紅弥か」
「ふんっ、やっぱり避けたか」
ガサッと茂みから出てきたのは空色の髪に紅眼の青年。
悔しそうに舌打ちして、地面に刺さった短刀を抜き、鞘に収めた。
緋守紅弥…愛羅の従兄弟で、彼もまた次期当主候補だ。
「いきなり攻撃とか…相変わらずやることがせこいね、紅弥」
「せこい?これも戦法の内だろう」
「そう?まぁ、僕相手で良かったね。一般人だと、確実に当たってたよ」
「ふん、俺は素人に投げる馬鹿じゃない。お前だと知ってるから投げたんだ」
ギンッとキツク睨んでくる紅弥に、やれやれと頭を抱えた。
この従兄弟は、何が気に入らないのか、事ある毎に絡んでくる。
何が目的なのか分からないが、どうやら等主の座が欲しいというわけではないらしい。
毎度の如く絡んでくる彼に慣れつつある愛羅だったが、今は関わってる暇はない。
正直言えば、邪魔以外何者でもなかった。
「で、一体用は何?」
「お前、ここの依頼を受けたんだってな」
「―…それが?」
「俺も、ここの依頼を受けた。これがどういう意味か、分かるよな?」
意味有り気に笑う紅弥に、愛羅は物凄く嫌そうな顔を見せた。
相手の言いたい事が、分かったからだ。
「…また、あれをやる気?」
「そうだ、この依頼、どちらが早く解決できるか勝負だ」
あぁ、面倒な事になった…と愛羅は深く溜息を吐いた。
焔も、呆れた様に紅弥を見やる。
「…勝手にすれば?僕は、君に構ってる暇はないんだ」
投げやりな愛羅の返事にムッとするも、紅弥は絶対勝つ!!と言い残して、新校舎の中へ入っていった。
「一体何しに来たんだ、あの餓鬼」
「さぁ…?大方、またジャレに来たんじゃない?」
今はそんなこと構ってられない、と愛羅は旧校舎に向き直る。
旧校舎は、依然として濃い霊気が渦巻いていた。
「―行こう」
帰ってこないカガミも心配だ、と一歩一歩旧校舎の中に入ってく愛羅達。
旧校舎は、愛羅達が完全に中に入ると、バタンッと完全に口を閉じた…。