第4夜 現れた敵09
(―――ん?)
魔兎李の様子に、愛羅は違和感を覚えた。
状況的には愛羅達の方が遥かに有利なのにも関わらず、魔兎李は余裕そうに口元に笑みを浮かべている。
何か策があるのか…先程から嫌な予感がしてたまらない。
「主、何か気になるのか」
耳に届いた声に、愛羅は視線を風雅に向けた。
「向こうの様子が少し…ね。状況だけ見れば、こちらが有利なんだけど……」
「――確かに、あの小僧…異様に落ち着き払ってるな」
「うん…だから何か隠してるんじゃないかと思って。相手はあの梔子家だ。どんな手法を使ってくるか予想出来ないし、油断出来ない」
そういって魔兎李を睨み付ける。風雅も愛羅と同じように視線を向けた。
「慎重にいくしかあるまい。鬼姫は未だ奴の手中にある。下手に攻撃出来ん」
「そうだね、そうなんだけど…それは難しいかも……」
ちらりと視線を横に向ける。
そこにはやる気満々の紅弥と眼をギラつかせ電流を纏う雷電の姿がある。
好戦的な二人のことだ、慎重に事を運ぶ、なんて選択肢は無いだろう。
「――元々雷電は好戦的な奴だが、アレは奴の主の影響でますます攻撃的になってるな…。アレでは冷静な判断など出来ん」
深い溜息と共に呆れた視線を同胞へ向ける風雅に、愛羅は苦笑いしか出来ない。
「―――ここじゃぁ、流石に狭いよね」
突然告げられた言葉と共にグニャリと周りの景色が歪み、見渡すばかり荒れ果てた荒野に変わった。
「……異空間移動か。それにしちゃぁ随分趣があるな」
「ふふっ、いくら異空間化したとしても元々小さな部屋のあそこじゃぁ暴れにくいでしょ?僕も、君達も、ね」
ここなら存分に暴れられるよ、と魔兎李は意味深に笑って紅弥を挑発する。
(あー…紅弥の奴、絶対挑発に乗っちゃう)
案の定、紅弥は簡単に挑発に乗った。
瞳をギラつかせ、雷電へ命令する。
「雷電、お前の雷で鬼共を蹴散らしてやれ!!」
「言われずとも」
紅弥の影響で攻撃的になっている雷電の放つ雷は、白い閃光となってドンッと鬼達へ落ち落とされた。
肌で感じられるほど苛烈な雷を受けた鬼達は、体のあちらこちらを焦がしながらも、しっかりと立っていた。
「――流石属性持ち。持ち前の属性で咄嗟に防いだんだね…そう簡単にはやられないって事か」
「それもあるが…雷電め、頭に血が上って雷を使い分けていない。その所為で、威力も半減したのだろう」
冷静さを取り戻さねば無理だと言うのに、と呆れ果ててる風雅に、愛羅も頷く。
もう少し冷静になってくれたら、少しは状況が変わって相手の企みも分かるかもしれないというのに。
相手の挑発に乗って頭に血が上っている二人にいくら説いても無駄だろうが、言ってやりたい。
「――おい、愛羅、風雅。変だと思わねぇか?」
「え?焔、今更気付いたの?」
もうとっくに気付いてると思ってたんだけど、と今まで黙っていた相棒に思わず呆れた声で返してしまった。
その声に、焔は不愉快そうに顔を顰め
「違和感は最初から気付いていた。そうじゃなくてだな、奴ら…攻撃を防ぐだけで、こちらには手を出そうとはしない。――何故だ?」
その問いに、愛羅は視線を魔兎李に向けた。
鬼達はこちらの攻撃を防いでるものの、こちらへは一切仕掛けてこない。
殺気は凄まじい位放ってるのに、だ。
「こちらの出方を伺ってる…?」
「もしくは…何か企んでるか、だな」
でなきゃ、あんなに余裕そうにしないだろうよ、と焔は尻尾をヒュンッと振った。
「―――主、どうする」
「……とりあえずは様子見。今の紅弥達には何を言っても意味無いだろうし、相手の出方を見たい」
愛羅は、じっ……と魔兎李を睨み付けて、そう告げた。