第1夜 依頼03
―旧校舎
ギィィィィィ…と扉を開くと、奥は薄暗い廊下が続いていた。
倉庫化しているだけあって、中は埃が舞い、窓ガラスはひび割れ、破片はその辺に散らばっていた。
「酷い有様だな」
「仕方ないよ、ここは倉庫として使われ始めて20年近くは経ってるようだし。
掃除なんてする人、いないんじゃないかな。」
「で、なんでここに宿直室があるんだよ」
最もな問いに、愛羅は苦笑を漏らした。
「前は新校舎にあったんだけど…色々問題が起きてね。
問題を起こさない為に、こっちに移したって聞いてるよ」
「問題ねぇ…、教師による盗難か何かか?」
「あ~…まぁ、そんなところかな」
それ以上は口を割りそうにない愛羅に、焔もそれ以上聞きはしなかった。
「で、その宿直室とやらは?」
「この廊下を進んだ先だよ」
愛羅の指差す方向は、暗闇に満ちていた……。
パリン、パリン。下に落ちているガラスの破片を踏みながら廊下を進んでいく。
愛羅も焔も夜目が聞くから、懐中電灯などは必要ない。
宿直室までの廊下には一つも電灯はなく、薄暗い。
「よくこんなところに寝泊りできるな」
「仕事、だからじゃない?」
薄暗い中を進みながら話す二人の顔は真剣な表情になっていた。
奥に進むに連れて、空気が重くなり気温も低くなっていく。
フワリフワリと空気が愛羅に纏わりつく。
「……霊気が濃いな」
「ここまで濃いとなると…やっぱり悪霊の仕業かな」
「さぁな…。ま、大物には間違いないだろうな」
「……それにしては、霊の気配がないよね」
「言われてみれば…こんなに濃い霊気があって気配がないってのはおかしいな」
気配はおろか痕跡も一つとしてない。
これは、おかしい。
霊がいるのなら気配ぐらいあるはずなのだが。
もし仮に霊が一匹もいないとなると、この霊気は何だ。
「調べて見るか…」
すっと懐から取り出したのは、一枚の霊符。
「あいつを呼ぶのか」
「うん、あの子の得意分野だからね」
愛羅は霊符を前に翳すと、スゥッと深呼吸をして唱え始めた。
「全てを見透かす者よ、我が命において姿を見せ、我が命に従え―妖鏡・カガミ!!」
ボッと、霊符が燃え、愛羅の目の前には子供の姿をした少女が現れた。
ウェーブのかかった金色の髪を靡かせ、翡翠色の瞳に愛羅を映し出す。
「久しぶり、マスター」
「久しぶり、カガミ」
「……ここ、不思議なところね。霊気が充満してるのに、霊達の気配がないもの」
「うん…カガミ、その原因を探ってきて欲しいんだ」
「分かったわ、マスター。しっかり調べてきてあげる。
だから、マスターは今日は戻ったほうが良いわ」
「え、どうして……」
「どうしても。焔、マスターをお願い」
「―――分かった」
じゃぁ、また後でねマスター、と言ってカガミはフッと姿を消した。
「ほら、愛羅戻るぞ」
「えっ?!ちょ、焔?!」
襟を引っ張られ困惑する愛羅に、早くしろと急かす焔。
仕方なく、焔の言う通り旧校舎から出た。
「ねぇ、何でそんなに急かすの?」
「……後で話してやる」
そう言って口を閉じた焔にそれ以上何も聞けない。
仕方なく、愛羅は授業に出るべく、新校舎の方へ歩みを進めた。