第4夜 現れた敵06
焔の背に乗って旧校舎急ぐ愛羅達。
「…さっき渡された巻物、いったい何が書いてあるんだ?」
「見てみる?」
そう言って、愛羅は巻物の紐を解き、少し開いてみた。
「これは………!!!」
そこに書かれていたのは、あの少年が夜叉姫を使って起こそうとしている『計画』の詳細だった。
「――焔、急いでっ。彼に『夜叉姫』を渡すわけには行かない!!」
「おい愛羅っ、いったいなんて書いてあったんだ?!」
凄まじい気を纏いながら指示を出す愛羅に答えるように、走る速度を上げながら問う。
しかし、答える余裕がないのか愛羅は何も言わない。
これ以上聞いても答えないだろうと踏んだ焔は、走る速度を最速にし旧校舎へ向かう。
*
「これは……?!」
「空間が、歪んでるっ?!」
「しかも、禍々しい気で満ちてるな…」
到着した愛羅達の瞳に移ったのは、すっかり変わり果てた旧校舎の姿だった。
禍々しい気を纏い、空間の歪みが目視出来るほど酷い。
そして、彼らの耳には一つの旋律が流れ込んできた。
「この音は……」
「花音、だ。そうか、あの子が花音を『駒』として態々迎えに来たのはこの為か」
「そうだろうな。あの女の音に呪力を乗せて、この土地全体に流し込み、空間に歪みを生ませる。そこからまた歪みを生み…この世界を向こうの世界と完全に繋げようって魂胆か」
そんな事をしたら普通の人間は死滅するぞ、と苦々しげに焔は言った。
その言葉に、紅弥は眉を寄せ、旧校舎を睨みつける。
そうこうしている間にも歪みは徐々に広がっていく。
「それが目的なんだよ、あの子の…。あの子は、夜叉姫を使ってこの世界を『向こう』と完全に融合させ、人間を一掃させるつもりだ」
「…そんなことしたら、そいつ自身危険なんじゃないか?まさか、俺達のように『向こう』に対抗する術を使うのか、そいつも?」
「…術は多少なりとも使えるだろうね。さっき式を出したのが良い例だ。だけど違う、彼は根本的に『僕ら』とは違うんだ」
「…それはどういう――」
「話は後で。今は、花音を助けて『歪み』をこれ以上進めないようにしないと」
そう言って旧校舎の中に入っていく愛羅に、紅弥達も急いで続く。
進んでいく中、次々と歪み『向こう』と繋がっていく空間に、愛羅は険しい顔をした。
このままだと、世界が融合してしまうのも時間の問題だ。
それは避けなければならない、と愛羅は旋律の聞こえる方へ足を進めていく。
「―――ここだ」
旋律の元凶…花音の奏でる音が聞こえてきたのは、音楽室。
歪みの酷い空間の中で、まだ正常を保つ音楽室に違和感を覚えながら扉を開ける。
ガラッと扉を開けて眼に飛び込んできたのは、苦しそうに音を紡ぐ花音と…
「やぁ、遅かったね」
ニヤリと笑う少年と、少年の腕に抱かれた…白銀の少女。
その少女は『あの時』皇夜の邸で見た少女だった。
「その子はっ……!!」
驚愕する愛羅に、少年は笑みを浮かべたまま告げた。
「この子が、僕が求めていた―――『夜叉姫』だ」