第4夜 現れた敵04
―愛羅と紅弥の間に友情が育まれている頃、焔と大蛇は互いに睨みあい、威嚇していた。
お互い相手の動きをみているのか、微動だにしない。
「言葉も話せない三下が、俺に刃を向けるとはな」
「―シャァァッ!!」
焔の挑発を真に受け、先に動いたのは大蛇の方だ。
ブンッと尾を先程と同じように焔へ向けて振り下ろされる。
「同じ事しか出来ないのか、やはり三下だな」
そう嘲笑いながらゴォッと焔の壁を作りだし、大蛇の尾を跳ね返す。
「シャァッッ」
跳ね返された大蛇の尾は、焔の壁によってジュゥゥゥッと音を立てて焼き爛れていた。
「グルルルル...」
大蛇の睨みに、焔はフンッと鼻を鳴らす。
『水の眷属』であろうと、焔の炎に耐えられるのは稀。
それほどに焔の力が強く、妖の中での地位が高いということ。
悔しそうに唸る大蛇も自分と相手の力の差を感じ取ったのだろう、それ以上攻撃をしようとはせず頭を垂れた。
それは、降伏を意味していた。
しかし、それで許すほど彼らの世界は甘くはない。
「ふん、やっと俺とお前の力の差に気付いたのか。…だが、もう遅い」
キラッと焔の瞳が黄金に光る。
それと同時に、大蛇の身体が炎に包まれた。
「ギシャァァァァァァ!!!!!」
ゴォォォォッと凄まじい炎が大蛇の身体を焼き尽くす。
大蛇は雄叫びをあげ、炭になって消えた。
「お前は、敵対する相手を間違えた。これが、その結末だ」
風に流されていった灰を見つめ、ポツリと呟くとポンッといつもの姿に戻る。
「焔っ!!」
ドタドタと駆け寄ってくる愛羅と、その後ろをダルそうに歩いてくる紅弥に気付き、焔はニッと笑みを浮かべた。
「どうだ?俺の勇姿、ちゃんと見たか?」
「ちゃ、ちゃんと見たよっ」
どもりながら焔を抱き上げる愛羅に、紅弥が近づいた。
「おい。どうやら、結界が解けたようだぞ」
紅弥の言葉に視線を扉の方へ向けると、扉は完全に開いていた。
どうやら、この空間の鍵の役目を担っていたのは先程の大蛇だったようだ。
それが焔によって消え去り、鍵を失った結界が姿を保てなくなり解けた…ということだろう。
「早く、旧校舎に戻らないと…!!」
「あぁ。『夜叉姫』を目覚めさせるわけにはいかないからな」
「お前らぐだぐだ喋ってないで乗れ。急ぐぞ」
再び元の姿に戻った焔の声に応えるように、二人は焔の背に飛び乗った。
「行くぞ!!」
2人が乗ったのを確認した焔は駆け出そうとした。
が、キィィンッっと甲高い音共に焔達の前に現れた結界。
不意に現れた結界に、焔は舌打ちを打ち、愛羅は眼を細めた。
「―姿を見せたらどう?」
愛羅の声に応えるように出てきたのは、蜂蜜色の髪に藤色の瞳の青年だった。
その姿を見た愛羅達は、剣呑さを増した。
青年の持つその『色』は、先程出会った少年と良く似ていた。
「……君は、誰?」
愛羅の問いに、青年は藤色の瞳に憂いを浮かべ、名乗った。
「―――地藤、大樹」