表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封蓮貴  作者: 如月皇夜
第一章 旋律
30/41

第3夜 旋律09

「……愛羅、出来た」


「うん、上出来だ。ありがとう紫苑」


力を込め終わった紫苑は、依り代となった人形を愛羅に手渡した。

受け取った依り代を、今度は少女の方へ差し出す。

差し出された人形に、少女は首を傾げ、愛羅に視線を向けた。


「これに手を添えて。中に入るイメージをしてごらん」


愛羅は優しい声でそう促すと、少女は恐る恐る手を人形に添えて、言われたようにした。

すると、少女の体は見る見るうちに人形へ吸い込まれていき…とうとう彼女は人形の中へすっぽりと入ってしまった。

その途端、ポンッと音を立てて人形が、先程までの彼女の姿と大きさに変化した。

少し違うとすれば、髪の間からぴょこんっと生えてるウサ耳ぐらいだ。


『えっ?えっ?ウサ耳??』


「うん、まずまずかな。依り代の元が兎の人形だから、ウサ耳が残っちゃったみたいだけど」


ぴょこんっとその存在を主張するウサ耳に触れながら、愛羅は苦笑する。

即席で作った依り代で人型に変化できただけ上出来か…とも思ったが、やはり少し悔しい。


『私…触れる?』


ペタペタと周りにある楽器に触れながら、少女は驚いていた。

今まで幽体だったから、『物に触れる』ということは出来なかった。

それが、驚きに拍車をかけているんだろう。


「今の君は『依り代』という器に入ってる状態だから、物に触れることは可能だよ。勿論、ピアノを弾くことだって出来る。ただし、一時的な器だから、『生き返る』なんてことは出来ないけど」


『ありがとうござます』


「お礼を言われることじゃないよ。えと、君の名前は?僕は緋守愛羅」


『あっ、私は白城花音シラキ カノンです。そちらの方は…?』


「あぁ、僕の式神の紫苑と紅林。この子は相棒の焔。あっちは、従兄弟の紅弥とその式の律と炎珠だよ。紅弥、挨拶ぐらいしなよ」


「…緋守紅弥」


愛羅に促され、どこか不服そうに名を告げる紅弥に、愛羅は苦笑を零す。

もう少し素直になれないのかよ…、と律が呟いたが、幸いなことに彼の耳には入らなかった。


『緋守……?えと、お二方はあの有名な『緋守家』の方々なんですか?』


「よく知ってるな。確かにこいつらは、その『緋守家』の人間だ」


焔の言葉に、少女―花音は「そうですか」と軽く頷いた。


『有名ですから…物の怪(私達)の間では特に』


「あぁ、お前達にとって俺達はある意味天敵だからな。知らないほうがおかしい」


紅弥は素っ気無く告げると、コツコツと部屋から出ようとした。


「紅弥、どこ行くの」


「どこって…決まってんだろ、そのコンサート会場だ」


「…紅弥、急いては上手く行く事も上手く行かないよ?」


余裕そうな態度を見せる愛羅に、皇夜は眉を顰めた。

今の状況は、余裕なんて持つことが出来ないはずだ。

あの少女だって、何時また負の力に侵されるか分からないというのに。

それなのに余裕なのは、お前にそれだけ実力があるからって言いたいからか、と紅弥は心の中で毒づく。


「お前は随分と余裕そうだな。いくら依り代に入ってるとはいえ、何時また負の力に侵されるか分からないっていうのに」


「余裕ってわけじゃないけど…帰ってくるのを待ってるんだよ」


紅弥の刺々しい言い方に愛羅は苦笑を漏らすしかなかった。

彼の言い分も分かる。

事実、愛羅には『余裕』なんてものは全然ない。

何時また負の力が彼女を侵し始めるか分からない、時間が勝負だ。

だからこそ、愛羅は『彼女』が帰ってくるのを待っている。


「待ってる?」


いったい何を、と言いたげな紅弥に、愛羅は小さく笑って視線を上にあげた。

するとそこに大きな鏡が出現し、中から琥珀が現れた。


「お帰り、琥珀」


「ただいま戻りました、愛羅。例の件はあちらで進めてくれるそうなので、そのまま現場まで行けとのことです」


「そう。なら、いつもの通り頼むね琥珀。紅林は一旦戻って」


「また後でね、愛羅」


紅林はそう一言言い残しフッと消えた…いや、宝玉へ戻ったというほうが正しい。


「成る程、琥珀の『移動能力』を使うのか。確かに、足で赴くよりそいつの力で飛んだほうが早い」


「だから待ってたんだよ。言っとくけど、今の僕には余裕なんてものひとかけらも残ってないからね。あぁ、勿論紅弥も連れて行くから式達を一旦還しなよ」


「…律、炎珠、一旦戻れ」


「おう、後でちゃんと呼べよ」


「…ふん、呼んだら来てやらなくもない」


二人も一言残し、フッと消える。

それを見届けると、焔は愛羅の肩に飛び移り、愛羅は左腕で紫苑を抱えた。


「花音、君も行くんだよ」


ほら、と差し出された愛羅の右手に、花音は恐る恐る手を添えた。

そんな彼女の手をきゅっと握り、ふんわりと笑って見せた後、愛羅は琥珀に視線を向けた。


「琥珀」


「分かりました。道を開けます」


ヴォンッと、先程よりも大きな鏡を造り出す。

愛羅達は、その鏡の中にずぶずぶと入っていく。

全員が鏡の中に入った瞬間、ヒュンッと鏡は消え、その場は静寂に包まれた…。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ