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封蓮貴  作者: 如月皇夜
第一章 旋律
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第1夜 依頼02

――龍神学園


文武両道の精神、和と洋の中和を重んじ、いついかなる時も精神統一を掲げる格式高い学園である。

エスカレータ式のこの学園は、幼等部、初等部、中等部、高等部、大学部と施設が分かれている。

因みに、ペット同伴が可能と、結構フリーダムな部分もある。



「で、今回事件が起きてるのは高等部らしい」


「お前にぴったりの依頼だな」


「………煩い、焔」


足元でクックッと動物らしからぬ笑い声をあげている焔をキッと睨み付ける愛羅は、紺のブレザーとスカートを身に付けていた。


「しかし、ほんと似合うよな女の制服」


「……僕は着たくて着てるんじゃない、言い付けだから仕方なく着てるんだ!!」


愛羅は忌々しそうに己の制服を見下ろした。

彼は立派な男児だ。

いくら顔立ちが女性寄りだろうと、体が華奢だろうと、彼は男。

しかし彼の一族は、彼に女装を強要していた。

文句を言いたかったが、当主の言葉は覆すことなど出来る筈がなく。

物心ついたときから今まで、日中は‘女性’として過ごさなければならなかった。


「何で女として過ごさなきゃならないんだよ」


「知らん。その事に関しては親父さんに訊くのが一番だろ」


焔はそう言うとピョイッと愛羅の肩に飛び乗った。


「あの人が教えてくれるはずないだろう」


いつだって、肝心な事は言わずスルリと抜けていく父親を思い出して溜め息をひとつ。


「なら考えるのは止めとけ。今は依頼を最優先させるぞ」


「そうだね」


とりあえず現場に行こう、と足を宿直室のある旧校舎に向け進もうとすると、


「愛羅」


ガシッと腕を捕まれ、グイッと引っ張られてしまった。


「……おはよう、蓮」


愛羅を引っ張った張本人―水城蓮は、睨んでくる愛羅をものともせず、ニカッと笑った。

彼は、愛羅の唯一の自称親友だ。


「はよ、愛羅。そっちは旧校舎だぜ?」


「ちょっと用があって」


「倉庫化してる旧校舎に?」


「まぁね。それより遅い登校だね、蓮。

朝練は?」


蓮は弓道部に所属していて、毎朝欠かさず朝練に出ていた。

そんな彼が、こんな時間に登校なんて珍しい。


「あー…顧問が入院してさ、今日の朝練無くなったんだよ」


「入院?」


「なんでも宿直室から飛び降りたんだと。

幸い、両足の骨折程度で済んだらしいけど」


「…顧問の先生の名前って何だっけ?」


「確か、柳原拓郎ヤナギハラ タクロウだった気がするけど」


「柳原拓郎…」


確か、渡された書類の犠牲者の中にそんな名前があったな、と頭の片隅で思い出す。

焔も同じことを思ったらしく、愛羅に視線を向けていた。


「なんだ?また家の仕事か何かか?」


愛羅の家系の仕事を大体は知ってる蓮は、考え込み始めている愛羅に尋ねた。


「ん?あぁ、まぁそんなところかな」


「そっか、まぁ『緋守家』は特殊だしな…。けどあんまり無理すんなよ」


お前は女の子なんだからな、と頭を撫でてくる蓮に、愛羅は苦笑いした。

蓮は、知らないのだ。

いくら愛羅の家系の事を知っていても、愛羅自身の事は、何も知らない。

当たり前だ、愛羅は、何も言っていない。何も話していない。

知らないほうが、蓮にとって幸せなのだ、と思っているから。


「―…愛羅」


焔の声に愛羅は分かってると眼で伝え


「蓮、僕は依頼をこなさなきゃならないんだ、だから…」


「分かった、こっちは何とかしてやる」


「ありがとう、助かるよ」


「そのかわり、無茶だけはするなよ」


「うん、約束する」


約束な、と愛羅の頭をもう一度撫で、蓮は校舎に向かった。

それを見送る愛羅の眼には、微かに寂しさが見え隠れしているのを、焔は見逃さなかった。

けれど、彼は口出しをしたりしない。

これは、本人の問題で、自分が何を行っても意味がないと悟っているから。


「……行くぞ、愛羅」


「―――うん、とっとと終わらせよう」


愛羅はキッと旧校舎を睨んだ後、中に入っていった…。




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