第3夜 旋律07
「意識を取り戻すって、どうする気だ?」
紅弥は霊を睨みつけながら問う。
その手には数枚の札が握られている。
その札はどれも徐霊の為の呪が書かれている。
「今の彼女には僕達の声は届かない。だけど、彼女を取り巻く影をどうにかして散らせばあるいは」
「“消滅”じゃなくて散らすだけか?」
「うん、あの影は陣と彼女を繋いでるものだ。だから、陣をどうにかしないと完全に“消滅”させることは出来ない。勿論、彼女にも手は出せないから、その札は仕舞ってよ」
「ちっ」
ちらりと紅弥の手元を見て告げれば、紅弥は小さく舌打ちして札を仕舞う。
「で、作戦は考えたのか?」
「うん。琥珀、紅林、君達二人で影を散らしてほしい」
「はい」
「任せなさい」
「紫苑は僕とあの子を繋ぐ役目を」
「勿論」
愛羅の腕の中で紫苑は頷くと、スッと腕の中から抜け出して、霊と向き合った。
「おい、俺はどうすれば良い?」
「…そうだね、炎珠は今休ませなきゃならないから…律に結界を張らせて。獣属性だけど結界が張れるんでしょ?」
「あぁ。律、結界を張れ」
「了解。けど、向こうが“魔”なら…そんなに長くは持たないぞ?」
「構わない、俺も張るからな。二重結界だ」
紅弥は数珠を取り出して不敵に笑う。
律も、そんな彼を見てニヤリと笑い結界を張った。
「だが…アレの自我を取り戻すのは難しそうだな」
焔がヒュンッと尻尾を揺らして影を散らしている2人を見つめながら呟いた。
「それでも、やらなくちゃならない。そうでしょ?」
「…っふ、そうだな」
硬い意思が篭った愛羅の言葉に、焔の口が緩む。
「愛羅っ、今がチャンスよ!!」
紅林の声に、愛羅は紫苑に視線を向ける。
紫苑は軽く頷き、片手を霊の方へ向ける。
「我は闇、我は無、我は汝らの影、汝の声を我に届けよ、我らの声を聞き届けよ」
紫苑が淡い光に包まれる。
「…愛羅、彼女の心と繋がった」
紫苑の言葉にこくんと頷き、片手を紫苑のそれと重ね、呪を紡ぐ。
「闇に捕らわれし心よ、我の声に耳を傾けよ、汝に纏わりつく影を払え」
パァッ と愛羅の手が光ったかと思うと、霊の瞳に微かだが光が戻りだした。
彼女の動きも止まった。
「愛羅っ、彼女の意識が微かですが戻ってきています!!」
影を散らしていた琥珀が、嬉しそうに愛羅に報告する。
それに愛羅は頷き、更に呪を重ねる。
「影を払う光は我が造ろう、闇を払え、影を打ち消せ、汝の心をここに現せ!!!」
パァンッ と弾ける音と眩しい光。
「きゃぁっ!!」
「うわっ」
「な、何だ?!」
眩しい光が辺りを包み、反射的に眼を閉じた愛羅達。
光が止み、そっと眼を開けると…
『………わた、し…一体…?』
瞳に完全に光が戻った少女の霊が訳が分からないという顔で立っていた。