第3夜 旋律01
紫苑の力で旧校舎に戻ってきた愛羅達は、旧校舎を見上げた。
どこか不気味な雰囲気は纏ったまま。
おそらく、これは今回の件の所為だろう。
「――愛羅、これからどうするの?」
「……まず『旋律』の正体から突き止めないと、ね」
「最初の依頼はそれだったしな」
焔の言葉に頷いて、旧校舎に入って行く。
中はひんやりとしていて、相変わらず霊気が濃い。
しかし、以前のように亜空間に繋がる様子は見られない。
「…前は、亜空間に入り込めたんだけど」
「…今回は無理そうだな」
ヒュンッと尻尾を振って焔は周りを見渡す。
以前は、月花の導きで入り込んだ様なものだ。
そもそも、亜空間はそう簡単に入りこめるはずがない。
あの時は運が良かったか、月花のおかげと言えるだろう。
「前は、月花によって入り込んだんですよね?」
「うん…と言ってもあの時の目的は『亜空間』じゃなくて『カガミ』だったんだけど」
「月花は、魔と闇を纏う者。私と紅林の属性を半々持つから、亜空間への道を無意識に作り上げた」
「あぁ…たしか『亜空間』は『無』の属性を持つお前の支配下か」
「そう、私達『無』は亜空間の出入り自由。『無』だからこそ、そこへ導く橋となる。愛羅、亜空間に行く?」
紫苑の申し出に、愛羅は首を横に振った。
「紫苑、気持ちは嬉しいけど、今回は亜空間に行く必要はない」
「『旋律』の元凶はここにいるって言うのか?」
「そういうこと」
「まぁ、人が『聴いた』と言うなら亜空間ではないでしょうね。普通の人が亜空間に入り込むなんてまず不可能ですから」
「仮に『亜空間』の何かがその人達を呼び寄せたとしても、その人達死んでる。普通の人にとって亜空間の空気は毒だから」
「うん、でも今回は誰一人死んではいない。だから、亜空間じゃない。つまり、この旧校舎の何処か」
「で、見当はついてるのか?」
「うん、音楽室」
パリン、パリン、とガラスを踏みながら目指していたのは音楽室。
『旋律』と言うからには『楽器』が必要だろうと、愛羅は考えた。
それならば『楽器』が置いてある音楽室に元凶はいるんじゃないか、と。
「音楽室…ここか」
一つの教室の前に立ち、プレートを見て呟く。
プレートには確かに『音楽室』と掠れた文字で書いてあった。
「入るよ」
「おう」
ドアに手を掛け、ガラガラ...と扉を開いた。
*
「律っ、早くそいつを消せ!!」
「無理言うなっ!!こいつ、めちゃくちゃ強いんだぞ?!」
扉を開いた愛羅達の瞳に映ったのは、怨霊と思わしき影に襲われている従兄弟とその式。
従兄弟の式では手も足も出ない様子。
「……えーと、相変わらずな方ですね」
「……馬鹿」
「同感だ」
「……力だけじゃ、上手くいかないっていつも言ってるのに。…紫苑、お願い」
「…愛羅が言うなら」
紫苑はフワッと、紅弥達の前に立ち、怨霊に手を翳した。
すると、怨霊はたちどころに大人しくなり、フッと消えた。
暫くして、放心状態から立ち直ったのか、紅弥は愛羅の元へ戻る紫苑に視線を向けた後、愛羅に視線を移した。
「愛羅………!!」
「…相変わらず強引なやり方だね、紅弥」
愛羅がそう告げると、紅弥は罰の悪そうな顔をすると愛羅に近寄った。