第1夜 依頼01
カコーン...
「―――と、言う訳だ。お前に、その件について任せたい」
「……僕に、ですか。まぁ、場所を考えれば、僕が一番適任でしょう。分かりました、引き受けます」
「頼んだぞ、愛羅」
「『緋守』の名に恥じぬよう、頑張ります」
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パタン...
「ふぅ…」
「愛羅、親父さんの話何だって?」
「焔」
屋敷の奥に位置する居間から出てきた少年―愛羅に話しかけたのは、綺麗な銀色の毛並みの小柄な狐、焔だった。
金色の瞳に、愛羅の姿を映し見上げてくる彼の口元は不機嫌そうにへの字になっていた。
狐なのに、何処か人間染みたその表情が可笑しくて、小さく笑う。
「何笑ってんだよ」
「いや、焔があまりにも人間染みた顔するから」
「お前と一緒にいるからな、仕方ねぇだろ。で、何の話だったんだ?」
笑われたことに少し拗ねた様子を見せながらも再度問う焔に、愛羅は笑みを消した。
「僕が通ってる学校に、最近出るらしい」
「お前が通ってるって…龍神学園にか?」
「うん。何でもここ最近、宿直の先生達が何処からともなく聞こえてくる『旋律』に精神的に参ってるらしい」
「……人間の仕業じゃないのか?」
「ピアノやその他の楽器が置いてある場所は全て施錠済み。人影もなかったみたいなんだよ」
愛羅が先程渡されたのであろう書類に目を通しながら答えると、焔はただ興味なさそうに小さく欠伸を零した。
「で、他の被害は?」
「ない」
「は?」
「だから、ない」
「被害ってもしかして、その旋律だけ…?」
「うん」
肯定するように頷かれて、焔は目を細めた。
「その依頼をして来た奴は俺たちをおちょくってんのか?たかが旋律ひとつで依頼とは。ほっときゃぁ良いだろうが」
「そうもいかないんだ、焔。その旋律を聞いた人は、全員自殺未遂を起こしてる」
「それとこれと何が関係あるんだよ」
「その先生方は、自殺しようとした事を覚えていないらしい。そして、皆口を開いてこう言う」
―旋律が、旋律が私を呼んでる!!
「おかしいと思わない?彼らの傍にいた人たちは、その旋律は聞こえなかったと言っている。
つまり、学校で旋律を聞いた者達にだけ聞こえる旋律」
「……悪霊か」
「今の段階では未だ何とも言えないけどね。けど放っておいたら確実に悪霊になってしまうだろうね。だから、父さんは引き受けたんだ」
「……仕方ねぇな、やってやろうじゃねぇか」
渋々と言った様子で言う焔だが、目が活き活きと輝いていた。
元々焔は好戦的な性格だ。
暴れられるのが、内心楽しみで仕方ないんだろう。
「けど…僕の通う学校かぁ……」
「何だ?困ることでもあるのか?」
ヒュンッと尻尾を振って問う焔は面白そうに目を細めた。
理由を知っているのに聞いてくるかこの狐、と内心毒づき溜息を吐いた。
「僕は、日中動くのは嫌いなの。特に学校」
理由は聞かなくても分かるだろっと言い放つとスタスタと自室に戻っていく。
それを追いかける焔の口元は薄っすらと笑みが浮かんでいたのを、愛羅は知らない。