第2夜 神の子07
「浄魂の笛…って、三神器の一つじゃないですか!!」
昔から緋守家・地藤家・氷季家に伝わる三つの神器。
反魂の鏡、破魔の宝刀、そして…浄魂の笛。
その三つは其々の家が管理する門外不出の品。
その一つが目の前にある。
そのことに、無意識に緊張する愛羅に、洸は小さく笑った。
「そうだよ、私があの方から譲り受けた。『己の後継に受け継ぐように』と言う言葉と共にね」
「なら、父さんが受け継ぐべきじゃ…」
「灯火は使いこなせなかったんだよ。相性が悪かったらしくてね」
「相性が?」
愛羅は首を傾げた。
『後継に継ぐように』と言われたらしいのに、相性が関係してくるのか…と。
愛羅の考えが分かったのか、洸は苦笑し、話を続けた。
「浄魂の笛を扱えるのは『和魂』の持ち主だけなんだよ」
「四魂、の考え方ですね」
「そう、私は『和魂』なんだけど、灯火、翠、蒼葉の三人は『荒魂』らしくてね。この笛を扱えなかった」
「…私は、じい様と同じ『和魂』の持ち主、と言うことですか」
「うん、あの子の『気』に倒れなかった…そのことが何よりも証拠になる」
開けてみなさい、と言う祖父の言葉に、愛羅は震える手でゆっくりと箱の蓋を開けた。
コトンッと音と共に開いた箱の中に入っていたのは、小さな横笛だった。
瑠璃色をしたそれはどこか神々しく、神器と呼ばれるに相応しい。
「じい様、お言葉ですが…いくらこの神器と相性が良くても、まだ私が『後継者』と決まったわけじゃありません。『後継者候補』ですが」
「灯火は君を後継にするつもりだといっていたから大丈夫だよ」
「(あの狸め……)」
思い通りにことを進めてるであろう父に愛羅は心の中で悪態をつく。
「洸、お前がこれを愛羅に譲るということは…」
「うん、流石焔察しが良いね。今回の件にはこれが必要になると思って」
洸の言葉に、愛羅は眉を寄せた。
「この笛が…ですか?」
「うん」
「何故・・・と聞いても答えはくれないのでしょうね」
「よく分かってるじゃない」
クスクスと笑う祖父に、愛羅は小さく溜息をつく。
この祖父も、あの父も、肝心なことは何一つ教えはしないのだ。
それが、愛羅への試練だと彼自身の分かってるのでそれ以上は聞きはしない。
聞きはしないのだが…、祖父も父もどこか面白がってる節があるのは些か気に入らない。
「まぁ、なんとなく察しはついてます。これを出された…と言う点から。まさか、譲られるとは思いませんでしたが」
てっきり貸し出す程度だと思ってました、と告げる愛羅に洸は小さく笑って、箱から笛を取り出すと愛羅へ差し出した。
「これは、もう君のものだ。大事に、使うべき時に使いなさい」
そう言って渡された笛を受け取り、「はい」と小さく頷いた愛羅に、洸は嬉しそうに笑って時計へ視線を映した。
「そろそろ時間だね。もう行きなさい」
「はい、失礼します」
席を立ってお辞儀をし、焔を連れて鳳凰の間を後にした愛羅を見送った後、洸は窓へ視線を向けた。
「きっとあの子が、君を助けてくれるはずだ。だから、君もアレを渡したんだろう?―――皇夜」
洸の小さな呟きは静かな部屋に微かに響いた……。
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