第1夜 依頼10
「それで、一体何があったの?」
赤髪の少女は首を傾げながら問う。
他の子達も同じ気持ちだったようで、じっと愛羅を見つめた。
「実は…今回の依頼で、現場にカガミを向かわせたんだ」
「カガミ…確かその子は琥珀の属性の子ね」
「はい、確かにあの子は私の属性ですよ、紫苑。確か、探索が得意な子です」
紫銀髪の少女―紫苑の言葉に、金髪の少女―琥珀はコクリと頷いた。
「琥珀の属性で『探索』ってことは…調査をさせてたのね?」
「うん、紅林。今回ちょっと変な依頼だったからね、先にカガミに調べてもらってたんだ」
赤髪の少女―紅林に軽く頷いて、事の次第を話した。
霊気の事。
亜空間の事。
カガミの事。
術式の施された糸の事。
話が進むにつれて、5人の顔に真剣みが帯びてくる。
「…それは、確かに厄介だね。術式の糸が張られていた、ってことはその亜空間は人の手によるものだ。自然に出来たものなら、そんな罠みたいなものはないから」
「翡翠、人が亜空間なんて作れるの?聞いたことないんだけど」
「作れるよ。かなりの技術と霊力を必要とするけど。ね、湊」
「あぁ。ただし、生半可な力じゃ出来ないし、それ相応の反動を受けるがな」
緑髪の少年―翡翠に同意を求められ、蒼髪の少年―湊は軽く頷いた。
二人が口にした事実に、愛羅は眉を顰めた。
あれが人間の手によって作られた亜空間なら、何故あんなところに作られた?
そもそも何の目的で亜空間なんて作ったんだ?
話を聞く限りじゃ、リスクも高そうなのに。
疑問が疑問を呼び、ますます眉間に皺が寄る。
「愛羅ー、眉間に皺が寄ってるわよ」
「だって、わからない事尽くしなんだ」
「まぁ、普通は人が亜空間なんて作りませんからね。亜空間は一つの隔離された世界ですし」
「……亜空間を作らないと出来ない事をしようとしてる、とか」
ポツリと、紫苑から放たれた一言に、全員の動きが止まった。
全員の視線は、紫苑に向けられた。
「紫苑、今なんて…」
「人が、リスク覚悟に亜空間を作る理由はただ一つ……その術士、禁術を発動させるつもり」
「!!」
愛羅は眼を見開いた。
紫苑の言葉に驚いたのもあるが、まさか、身近で禁術を行うのに遭遇なんてするはずがないと、何処か思っていたからだ。
「…確かに。禁術を発動させるなら、亜空間以上に適した場所はないよ。周りに影響も出ないし、何より感知されない」
「人知れず禁忌の術を行うことが出来る、最適な環境だな」
翡翠も湊も、紫苑の言葉に同意するように告げた。
「……本当に、厄介な事になったな……」
6人の様子を薄っすら目を開けて見ながら、焔は小さく呟いた。