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1−1

 助手席に依夜を乗せて詞御が運転操作する自動車は、月読王国の西の首都、宵闇よいやみを目指す。

 その車内にて、依夜は物珍しそうに自動車と詞御を見ていた。その視線に気づいた詞御は助手席の依夜に問いかける。


「どうした、依夜? 自動車に乗るのが初めて、という訳でもないだろうに」

「気づかれていましたか、詞御さん。いえ、なんで自動運転しないのかな、と。百歩譲っても、なぜ面倒なマニュアルミッションを操作されているのか。人工知能の補佐で十分でしょうに」


 依夜の言葉に詞御は苦笑する。そして、依夜の疑問に詞御の中にいるセフィアが答えを返す。


『詞御は“ジェネシスフォーミュラー”のライセンスを持っているのです。で、時折りマシンテストのバイトも受けることが多いのですが、従来の人工知能では詞御の運転操作についていけないのです。“自動油圧クラッチ”が追いつかないほどのシフト操作。また、秒間八回のアクセル調整。なので、この車は特別なのです。車体価格を見ますか?」

「えっと……うぇ!? は、走る不動産! く、靴脱ぎますね!」


 慌てて居住まいをただそうとする依夜を詞御は静止させる。


「別に気にするな依夜。乗ってこその車だ。くつろげているなら、なにより。それと補足だけれども、マニュアルにしているのは、戦闘にも役立つ分割思考の訓練になるからだ。状況に応じてのシフトチェンジを含めての運転操作。そして、同時に同乗者との会話を楽しむ、とね。そろそろ宵闇に着くから準備していてくれ」


 程なくして、詞御が運転する自動車は西の首都の宵闇に入ると、国際捜査局の支部前に到着。

 無事に依頼のスライムを納品し、報奨金を受け取り銀行口座に振り込む。


「これで、良し。収入も入ったことだし、何処かで食事でもするか、依夜」

「は、はい! 喜んで!」

『詞御、わたしはーー』

『ーー駄目、顕現は許可できない。ルアーハもな』

『無論、心得ておる、詞御殿』


 セフィアが内輪でなにか文句を言っているが、敢えて知らんぷりをする詞御。今回のセフィアの要求は駄々っ子のようなもの、と割り切っていた。

 尤も、ルアーハは『面白くなりそうじゃ』などと心内で思っていたのは、また別な話し。


 小洒落な喫茶店&お食事処に詞御と依夜は入り、空間表示された矢印に従って、指定された席へと座る。

 対面に座る二人だが、互いの感情は天地の差があった。……傍目に見て、と注釈がつくのだが。


 依夜は僅かに頬を赤らめやや下を向いている。


(殿方と二人っきりの初めての食事、それも詞御さんと。嬉しいです。詞御さんは、どう思っているのかな?)


 勇気を出して、ちらっと詞御の方を見る依夜。

 すると、詞御はなにやら携帯端末を操作し、覗き見防止フィルターが掛かっている空間ディスプレイ内をスワイプして、何かを見ていた。


「今のところ、凶悪犯罪者はいないな。とはいえ、どれも市民の生活を脅かすのは見過ごせない。学園に戻る前に浄化しないと」

(舞い上がっていたのはわたしだけ……、でもいつかは意識してもらうんだから。けれど逆に詞御さんらしいです、常に人の為に考えられるのは。この旅で学ばないと)


 そんな事を依夜が思っていると、詞御の目線が店の入口に向いている事に気づく。


 次の瞬間、入り口のドアが吹き飛ぶ。

 そして、旧世代の武器ーー拳銃やマシンガンーーを携えていた人間がぞろぞろ入ってきて、何かを見つけたのか、発砲の構えをする。


 だが、


「か、身体が動こかねぇ!? 何処のどいつだこんな真似をする奴は!!」


 賊の一人が喚く。

 他の輩も銃のトリガーを引く前に何かに貼り付けられたかの様に固まっていた。


「そこまでだ、貴様ら。旧時代の兵器の使用は法律で禁止されている。まあ、四肢が飛び散っても良いなら動いて構わないが」


 席に座ったまま、詞御の右手の人差し指と中指の間に鳥の羽根が挟まれていた。


「高天防人流・絃術が一つ、拘束の業。無痛点に通しているから今は痛みがないが、少しでも動こうとすれば、神経や血管が傷つくよ」


 依夜含めて、他の客も情報過多に錯綜されているのか、ぽかーん、としている。

 ただ、店の外に停めていた自動車が奔り去るのを詞御は見逃さなかった。


『セフィア』

『了解です、詞御』


 人知れずに、セフィアは逃げ去った自動車に不可視の糸を間髪入れずに飛ばして貼り付けた。


「さて……奴らの目的は貴方だな。犯罪階位・中位丙種【ジョーズ=ルイス=東雲(しののめ)】。自分は浄化屋だ」


 店の一番奥にいる人物に声を掛ける。

 と同時にジョーズの所に歩いていく。依夜も慌てて詞御の背中を追う。


「……なぜ助けてくれた、俺を?」

「他のお客さん、そしてこのお店に迷惑をかけない為だ。貴様が原因で惨劇が起きるなどあってはいけないからな。……さて、場所を移そうか。抵抗しても意味はないぞ」


 冷たい言葉を犯罪者に掛ける詞御。そこに、温情などの温かい感情は含まれていない。

 それを知ってか知らずか、ジョーズは乾いた笑みを浮かべる。


「俺には大した戦闘力はない。いや、別な意味で助かった。“奴ら”に殺されるくらいなら、お縄になって逮捕された方がマシだからな」


 その様子に小さなため息をつく詞御。

 が、それはごく僅かな感情の動き。誰にも悟られる物はいなかった。


「依夜、申し訳ないがここでの食事は無しだ。携帯食で済ませてもらうけど、大丈夫か?」

「問題ありません、詞御さん。この状況ですから。これからどうするのですか?」

「自分たちが宿をとっている部屋に連れていく。そこで今後の方針を決める」


 詞御は、お店の入り口に貼り付けた賊を見ながら依夜に伝える。

 数分後、通報で駆けつけた警官たちに後を任せるのを確認したのちに、ジョーズを連行し、依夜と共に宿に向かうのだった。

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