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前作の続きです。
「何なのですかあのモンスターは!? どうやって“浄化”すればいいのですか!」
半狂乱に陥りながら依夜は必死に己自身に襲ってくるモンスターから逃げていた。
襲っているモンスターは一般俗称を『スライム』といい、モンスターの中ではメジャーである。
尤も、幾つかの体系化されていて、驚異度は無害レベルから災害級と様々。
そして、いま依夜を追いかけるスライムは希少でありレア。ただ驚異度はほぼ無害。
ただ、女性にとっては場合によって驚異度が跳ね上がる。【羞恥心】と戦わねばならない、
なぜならーー
『ほれ、依夜や。服の割合がどんどん消えてえおるぞ。殿方、もとい詞御殿にアピールするつもりなら儂は一向に構わんが』
「そんな訳ないじゃないですか、ルアーハ! わたしに露出性壁はありません!!」
『なら、とっとと浄化せぬか。詞御殿に認められたいのじゃろう? このままでは学園に送還されかねんぞ?』
「わかってます、そんな事は! こうなったら……!」
今の現状を鑑みて、これ以上の苦戦は避けたい依夜は、いま自分が思いつく最良の行動に出る!
「消し炭になりなさい!」
バスケットボール代の“プラズマの球体を生成し、対象のモンスターに投げつける!
当たれば消し炭どころが蒸発しかねない熱量。
だが、そのプラズマ球体はモンスターに着弾する前に不可視の壁に遮られる。
その現象を見た依夜は、驚き声を挙げる。
「詞御さん? なぜですか!?」
不可視の壁を発生させた人物に問いただす。
が、件の人物はその問いに行動で答えを示す。
地上に人影が映り、上空から詞御は急降下して、スライムの急所を片手で突き、【仮死状態】にした。
『依夜、依頼の条件、覚えてますか? “生け取り”が絶対条件です。あのプラズマ球体は殲滅級です。きちんと状況判断してください』
「セフィアさん? だ、だってこのままではーー」
『ストリッパーしたいのでしたら止めませんけどね』
セフィアの言葉に依夜は顔を真っ赤にする。もう少し攻撃を受けてたら、確実に恥辱に震えるのがわかっていたから。
依夜の服は、あちらこちらが溶けていて、柔肌をだいぶ露出していたのだから。
「このスライムの粘液は“布だけを溶かす性質を持つ。そして身体への影響はない。この粘液は火災や重大事故で服と皮膚が火傷で癒着した場合、服だけを取り除いてくれるから助かる命が多い。その事はこの依頼を受けた時に話したよね?」
「返す言葉もありません……」
「能力の強弱をコントロールできないとダメだぞ。ルアーハもそこは気をつけて欲しい」
『了解じゃ、詞御殿。早く“闘い”と“戦い”の区別をつけねばならずぞ、依夜や』
「はぁい……」
落ち込む依夜を片目で見ながら、本来は月読王国ではいないはずの仮死状態になったモンスターを見て考慮する。
(本当にこの国の位置が変わっているのだな。この国の生態系が変わっている。このスライムがいるのが何よりの証拠。“神の試練”は本当であり現実という事か、夢であって欲しかったが。この状況は間違いなく、国ごとの貧富の差が顕著になっていくのは間違いない。国家間のパワーバランスが崩れて戦争にならなければいいのだが……)
この後に起きることを考えながら、詞御は生け取りにしたスライムを特殊なカゴに入れる。
そして、この国の浄化屋の支部に依夜と共に赴くため、自動車を走らせるのだった。