若 第三話
ベンチに座ったまま、いつの間にか寝てしまっていた。
若の視界はまだぼやけている。
横を見ると、少女が寝ているのがわかる。
若は違和感を感じた。
少女の頭から猫耳が生えている。
若が寝ている間に猫耳カチューシャを見つけてきたのかもしれない。
少しズレていると思い、触れようとする。
猫耳が閉じた。
え?
少女が目覚める。
するとすぐに猫耳を隠す素振りを見せる。
若の口は開きっぱなしになった。
驚きすぎて言葉を失う。
ふと我に返った若が思ったことは、「抱きしめたい」であった。
「き、気を取り直して、秘密基地へ案内するよ。」
そう言った若は少し速く歩いた。
秘密基地に着くや否や、少女はここが気に入ったかのような仕草を見せる。
だいぶ頑丈に出来ていて、簡単には見つけられないようになっている。
そして何より、広い。
大人五人は余裕で入れそうだ。
「なあ、君に名前を付けようと思う。」
若はスマホのライト機能をオンにし、右ポケットから紙を取り出す。
そこには、名前の候補がいくつも書いてあるが、どれもネーミングセンスがイマイチだ。
紙の右下に、「by平木」と書かれてある。
もちろん少女はどれも気に入らない。
若も納得の様子。
「ん〜とじゃあ、こんなのはどうだ?」
そう言うと若は紙の裏側に「猫人」と書いた。
「猫に人と書いてマオレンだ。どうだ?」
少女は微妙に頭を縦に振った。
ライトを照らしているスマホは、0時を示していた。
「よっしゃ決まり、じゃ、もう俺帰らなきゃだから、また明日ね。」
そう言うと若は、少女の前から颯爽と姿を消した。
2日目の夕方
猫人は秘密基地の中でぼんやりと上を見ていた。
重なる枝の間から差し込む夕日の光を見ているようだ。
落ち葉が踏まれた音がした。
誰か近づいてくる。
猫人が見た足音の正体は、若ではなく平木であった。
平木はパンパンのビニール袋を持って現れた。
「よっ」
平木は落ち葉の絨毯に足を組んで座り、ビニール袋から沢山の食べ物を取り出した。
「後で若も来る予定だが、先に食っちゃおうぜ。」
猫人はそれに賛成して、食べ物を物色する。
「お前食べ方荒いな〜、もうちょっとゆっくり食いなよ〜、咽せて咳き込んだところで若がやってきて、勘違いされたくないからさ〜。」
言ったそばから猫人は咽せた。
そして、ちょうど若がやってきた。
「おい平木?猫人に何をした?」
「なあ友人、俺って毎度不遇だよな。」
猫人は食べるのに夢中だ。
猫人が咽せただけだと伝えると、若はすぐに納得した。
平木は一息置いて、本題に入る。
「えーと、マオレンでいいんだっけ?この少女。」
猫人は頷く。
「若は放課後に毎日会いに行く感じ?」
「基本的にそんな感じだね、飯も持ってく。」
「んで、猫耳が生えているというのは本当なのか?」
「おう、実際に見てもらった方が早い。」
平木が横を向くと、そこには猫耳の生えた猫人の姿があった。
平木は昨日の若と同じ反応をした。
一間置いて、平木は時間を確認した。
「大体はオッケーだ。じゃあ、バイト向かおうぜ。」
その切り替えはどこから来るのだろうか。
ゆっくり立ち上がった二人は猫人に小さく手を振っていなくなった。
そして次の日、また次の日と時間が過ぎていき、毎日放課後に会いに行く。
そして、5日目の放課後…