第壱話
足音がした。鎮火はまだできていない。
炎をバックライトにして人影が目に映る。
誰だろうか、期待はしない。きっと悪い人。
猫人はその誰かに担がれ、このマンションの地下へと連れていかれた。
そしていつの間にか、猫人は気絶していた。
…
目を覚ます。
「お、やっと起きたか。」
中年くらいのおじさんだ。
柵の外から話しかけられる。
「私の名前は高森 漆地だ。」
「ここ、どこ。」
猫人は怯えることもなく、ただ柵の中の硬いコンクリートの壁に寄りかかる。
何度も敵と対面している。今更怖がることも無いのだろう。
「ここは地下室だ。君たちが爆発させたマンションのな。」
そう言って、高森は横にあったパソコンに身体を向けて、キーボードを打つ。
猫人と高森のいる場所は地下室の中でも個室で、他の部屋の音は少し聞こえる程度である。
猫人は何故か非常に落ち着いていた。打鍵音を心地良いと思うくらいには余裕があった。
エンターを押す音。
高森は再び猫人の方を向く。
「データはそれなりに取らせてもらった。協力感謝するよ。っと言っても、一方的にこちら側が君を閉じ込めただけなんだけどね。悪いね…まぁ、あともう少しだ。」
あともう少し、また、何かが起きるのだろうか、覚悟ではなかった、猫人は、慣れてしまっていた。
高森は別の場所へと向かい、部屋には猫人一人になった。
でも、猫人は何もしなかった。ただ、俯いて、何も考えずにいた。
高森は思ったよりも早く戻ってきた。
そして言った。
「開放しよう。」
猫人はここで初めて戸惑いを見せた。
敵が、こうもあっさりと逃がしてくれるのかと。しかし、高森に企んでいる様子は見えない。
「君はマオレンと言ったか、君を開放する。もう誰からも追われる心配はしなくて良い。私が保障しよう。」
そう言って、柵の扉を開けた。
鍵を差し込むことなく、開けた。
元々鍵などかかっていなかったのだ。
高森は丁寧に出口までの道を教え、作業に戻った。
瞬間…
高森の腑から爪が伸びた。
「ゔ、マオレン、気づいていたか、」
高森は血を吹き出した。
猫人は、高森を後ろから刺したのだ。
真っ平な嘘。
高森 漆地は、猫人の情報をどこかに送信しようとしていたのだ。
もしも送信されてしまえば、今までよりも追われやすくなる。
炎の始末を命じたのも、高森である。
持ち前の視力。
パソコンに映し出された内容から、高森は[朱鷺]という組織のメンバーであった。そして、あろうことか、高森は、猫人を今まで酷い目に合わせた元凶だったのだ。
猫人は冷ややかな目で、死にゆく高森を見下し、死んだのを確認した後、その場を後にした。




