第8話
猫人はマンションに入り込んだ。
火災など気にも留めず、屋上へと駆け上がる。
屋上には、白い狐の仮面を持った男がいる。
村から逃げる時に見た、もう一人の仮面の男。
テレビの中に映っていたのだ。
多分炎はその男に用があるのだろう。
道中には人が何人も倒れている。またこれも多分、炎が全部やったのだろう。
屋上に着く。
ほむら、そう声を掛けようとした。が、今、炎は仮面の男と向かい合って、何か話をしている。
まだ猫人が来たことは誰にもバレていないのだ。猫人は、隠れて静かに炎と仮面の男の会話を聞いた。
「お前があの村をあんな風にした元凶だろ。」
「まさか、私はそんなことしてませんよ。[私は]。」
舌打ちをする炎。
「その宝石、紫色の宝石で、俺の村の住民を操っていたんだろ。見るからにオーラを放っている。」
炎は男が下げている首下りに指をさす。
「流石。人鬼にはわかってしまいますか…」
「それを今すぐ俺に渡せ。お前らの人鬼狩りを終わらせてやる。」
「私があなたに渡すとでも?」
「じゃあお前を殺すまでだ。」
男は銃を構える。
[数秒間周りから見えなくなる能力]
しかし、紫の宝石を持った男に対しては、意味がなかった。
炎は撃ち抜かれる。
傍から見たら、男が何もない場所に発砲し、弾丸が何もない場所を通り過ぎると共に何もない場所から大量の血が吹き出ているように見えるだろう。猫人もそう見えた。
能力解除
炎は前に倒れ、うつ伏せ状態になる。
男は再度炎に銃を構える。
「終わりだな。」
まだ終わりじゃない。
[猫化]
猫人は目にも留まらぬ速さで男の首元を突き刺す。隠れていた場所から、一瞬にして。
ただし、男も譲らなかった。
男は掠れた声で、「爆破しろ、宝石」と言った。
刹那、宝石が光ったと思えば、辺りに爆発音が響く。
屋上の地面に穴が空く。それだけではない。一番下の階まで穴が空いている。
猫人はその穴に落ちた。と思ったが、炎がギリギリのところで腕を掴んだ。
「まおれん、お前、なんでいるんだ、こんなところに、」
「ほむらこそ、どうしてそこまでしてあの男を殺したいの?」
猫人は炎に訴えかける。
「戻ってきてよ、ほむら!」
炎は了承した。が、刺された。致命傷。
猫人の腕を掴んだ炎の背後から、白い狐の仮面の男がナイフで炎を刺した。
「共倒れだ…人鬼…」
炎の身体の機能は完全に停止した。
腕の力が薄れ、猫人の腕を離す。
猫人は穴の空いたマンションに落ちた。
「また、また死んでいくんだ。私の周りの人が。若も、平木も、炎も。」
落ちた衝撃で猫人でも少し背中に痛みを覚えたが、でもやはり、仲間を失った痛みの方が遥かに響くのだ。
夜になった。消化活動は今も続いている。火災が収まらないのは、あの宝石の効果なのだろう。そう、あの、紫の、宝石。
猫人は仰向けで、マンションの穴から空を見ていた。濃い紺色の空。半月は、見えなかった。




