若 第一話
山の中、茂みの奥、一人の少女が眠っていた。
ここの山には人は滅多に来ない。
いるのは少女と猫くらいだ。
一日目の夜
足音がした。少女は眠ったままだ。
猫が誰かを連れてきたようだ。
高校生くらいの男の声がする。
「おい、大丈夫か、こんな所で寝てたら風邪引くだろ。」
少女はその声に反応し、起き上がる。
男の右手にあるパンを奪い取り、目の前で貪る。
男はあまり気にしていない様子。
「えーと、名前は?」
少女は喋らない。
「はぁ、親が心配する前に帰りなよ。」
男はそう言うと、茂みを分けて道へ戻る。
少女は男について行った。
家に着いたようだ。
表札には[若]と書かれてあった。
男はまだ少女に気づいていない。
家はどこも真っ暗で、男は嬉しそうにしている。
「今日は親が帰ってこないからなんでもできるぜ」
男は颯爽と二階へ駆け上り、自分の部屋へと入ったと思うと、ゲーム機を取り出す。
カセットを入れ、起動中のテレビをみる。
そこに反射して少女が映る。
「うわっ!」
男が驚いた衝撃で少女も驚いた。
「なんでお前ここにいるんだよ、ついてきちゃったのか?」
少女は頷く。
男はどうしたものかと頭を抱える。
少女が口を開く。
「わか」
ボソボソと喋る。
「あ、喋った。表札を見たのか。」
少女は頷く。
男は一旦目を瞑り、開く。
「俺の名前は 若 蒼素だ。よろしくな。そういえば、さっきは答えてくれなかったけど、君の名前は?」
「ない」
「ない?!」
若(男)は余計困惑した。色々と予想を立て始めたが、良い内容は思い浮かばない。
「と、取り敢えず、明日には親も帰って来る。君がいた山に俺の昔からの秘密基地があるから、そこで暮らしてくれないか?」
急にとんでもないことを言い出す若であったが、不幸中の幸いな事にそれが最前線なのかもしれない。
今の時刻は23時過ぎ、さて、どうしたものか。