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8.1903年4月 海賊対策

 地球の歴史をなぞるように。日露間の亀裂は広がるばかりであり、国債を発行し戦費を得ようと大日本帝国は代理人や代表を通して各国に購入を求めた。しかし露西亜帝国相手に日本が善戦できる可能性さえ感じず、ほとんどの国家が購入などを考えず相手にもしなかった。


 HITAKAMIは第一次大戦に極力干渉しないとしても、相応に教育・訓練を終えた人材が必要であった。しかし詳細が知られかねないイギリスから集めるわけにはいかず、イギリス領の植民地や近隣からは不可能に近い。

 だが、詳細を知らせることなく使い捨てられる人材であり、大戦が起きるのなら“軍隊”がどうしても必要になる。どこからとなると、それはやはり農民が多く領土であっても不管理地域が当時は多くあった露西亜の大地となる。


 まずは植民地周辺を荒らす海賊対策として、何度も交渉を重ね旧式化したロイヤル・サブリン級戦艦を一隻なんとか融通を受ける許可を非公式に得ることから始まる。

 海賊と言っても戦艦を持つわけではなく、商戦に武装を乗せた程度ではあるが船足が速い物を選び、手堅く・手早く商船を襲っては物資を奪って逃げていく。

 航路や航海日程を知れる所に海賊の手がついた者がいるのは確かであり、各国・各地の植民地も相応に警戒し重要な船団には護衛を付けてはいる。しかしさほど価値がないと判断したり、時期が外れ船団を構成できなかったそう言った船が的確に狙われる。

 見つけられずにいる事から相応に植民地監督府が腐敗しきっているか立ち回りが上手いと判断、軍艦の運用は非常にコストがかかり、当時最高と呼ばれた大英帝国海軍とはいえ艦隊を船団護衛や定期的な航路安全確保は出来ても張り付きまでは出来ない。


 その為に常時張り付き海賊対策をするというのは、英国政府も理解は示している。費用も出さないどころか、雇った者達の給料が支払われるので税金として一部をしっかり納め、物資の基本購入は英国でするなど条件こそあるものの犯罪者対策となれば議会での承認を得る事が出来る。



 英国議会場

 議案として提出され、権限についてや海軍ではだめなのかなど、2か月ほどかけて他の議題と共に議論がなされ望む結果に誘導することに成功していた。


「それでは賛成多数で可決いたします」


 議会によって正式に商業航路の安全の為に一隻の軍艦を派遣、そして責任者及び担当としてレヴィア伯爵が選ばれた。

 1900年代といっても、やはり海賊が居る海域はある。それもどの国とって植民地と言う防備が甘い遠隔地で時折現れる海賊は植民地で得た資源を狙ってくる。

 そこを英国貴族が対処し予算も出すため、一隻の戦艦の運用許可及び近海の航行許可、各国から傭兵として少数の人員を雇う許可を求めていた。


 議論が重ねられ許可承認を得られたのは300人、ただし本来は約700人で運用するロイヤル・サブリン級戦艦、連装2基の戦艦砲のうち後部1基を降ろし、15.2cm単装速射砲10基を取り外し、45cm単装魚雷発射管7門を取り外し廃止とする。引渡し前の整備に付随し、それなりに各種改良を施し露天艦橋だった場所には薄い鉄板とはいえ屋根が設けられるなど、試験的な改良も幾らかされているものの、何か事が起きたとしても脅威とならぬようにとの意図の方が大きかった。

 300人程度まで必要人員を削るためには色々廃止しなければならず、病気や体調不良者を極力減らす努力を務める必要性がある。

 ただし人員が少ないというその恩恵は相応にある。排除した分の弾薬を減らし部屋を大きく使え、燃料や食料に衣料品を多く詰める上に船速が増し航行期間も伸びる。



 募集する人員は各国大使館に前もって事情をまとめた書面を流し、植民地を持つ大国として犯罪組織である海賊に対するべきである、その為に大英帝国が軍船一隻と諸経費を持つ事、そのため船員となる人員を雇うことへの許可を正式に求めた。

 対象が海賊であることから公的には反対する事は出来ず、非公式私掠船を出すことで物資の強奪や商業行為の邪魔をしている国家としては賛同しにくく、理由を付けて断る国もいくつかあった。何よりも植民地政府に蔓延している汚職者達が手を組んでいる可能性もある。

 しかしやはり列強と言われる独逸や露西亜は反対することなく、例えそれが裏では中小国家などに支援して襲わせている部署があったとしても、政府として表に見せる表情は【海賊行為など列強として許せるものではない】という体を取り、快諾ではないものの希望する者ならば船員として雇う事を許可し協力も約束をした。




 第一先 露西亜

 ブレーマーハーフェン港の石炭鉱業社の伝手を辿り、なんども露西亜帝国に書面を送りながらやりとりを繰り返し、比較的早めに許可を受けた独逸帝国とは異なり大分時間を要してしまった。

 サンクトペテルブルグ港を正式に訪れ、交易路を守るための海賊対策に100人から150人ほど雇う。許可を受け近くの村々をめぐる中でも少しずつ話を通し、生きては戻れぬと危険な仕事として高い報酬の前払いとなるが政府は正式な許可を出していた。


 雇用条件には戦死確率が高い事から自国に戻れる可能性は非常に低い、居なくなったモノとして扱われる契約が国家となされている。そしてもし生きているのなら、一年ごとに与えられた総給料の10%を税金として所属国家に収めるなど、多岐にわたり決められたが国家として承諾は得ている。

 高い死亡率、それは海賊船を発見し砲撃して沈めれば終わりと言う訳ではない、いずれは乗りつけて船員を捕まえ根城を吐かせ、奪い集めた金品や誘拐された人間の保護など、過半数は銃で殺したとしても少数は捕えるために銃の時代にわざわざ白兵戦をする度量と無謀さが必要となるゆえの死亡率であった。


「お話は聞いております。 村人は集めておりますのでお話しいただければと」


 前々から話を通しており、村長によって村の集会所で村民全員を集め仕事内容を説明しても、10年生きられるのは10人中3人にも満たないという話に参加するというものはほとんどいないと考えていたのだが。


「俺は参加する! この村から出れるんだろ!」

「じ、自分も参加するぞ」


 参加を表明するのは農家の三男や末子など要らぬ扱いをされている男子、そして参加を許可する代わりに前払いの高給のほとんどを持っていくその家族。


「私も村を出ます! 連れてってください!」


 家を逃げ出すように来て参加を希望する女子に、それを追ってきて腕や髪を掴み連れ戻そうとする家族。


「家を出るなんぞ許さんぞ!」


 それはどの国でも同じ、地力のない農村地帯でどの国でも昔から変わらぬ光景、参加希望をした者は手早く氏名を確認し、字か書けないなら代筆し役人と村長に確認させ契約を済ませる。やはり怒鳴り声をあげ労働力である子を連れ帰ろうとする家族もいるが。


「例えどのような事情だろうと、自薦し参加を希望し契約した者を連れ去ると言うことは、どういうことですかね?」


 そのたび役人や村長から強く言われてしまえば逆らえない。連れ戻そうとするが、元より多額の迷惑料や依頼料を露西亜帝国政府に支払い、役人と村長に現地での口利き料を支払い、海賊対策等人員として正式に許可を受けて集めている。

 一度でも名乗りを上げ登録された者を家族の都合で連れ去れるわけもない。激しく役人と村長から叱責された後、家族は前払いとなる高給の半分を受け取り渋々と帰っていった。




 第二先独逸

 独逸では農村地帯までは行くことが出来ず、港周辺に留まる事から食い詰め者や口ばかりの者が声を上げ、先払いの高給を受け取ったとしても逃げ出す危険性があった。中には港湾労働者の中から参加を希望する者も少数いた事から、海賊対策等として12人だけを雇う、それでも十分と言える。


「仕送りは、大事に使ってくれ。 お前達を大切に願っているよ」


 家族との別れを告げ船に乗り込む、港働きとは比較にならない高給を家族に渡すための出稼ぎなど、事情は異なるものの相応覚悟をしているのは確かであった。今生の別れと家族を抱きしめ涙を流している。

 平民が良い暮らしをするためには一代が我慢と苦労をして次代に託す、その次代は勉学や技術習得に励み暮らしを向上させるのだ。運が良ければ成功し老後は安定するが、失敗すれば多くのモノを失う。今回に限れば高額の報酬と引き換えの傭兵となり命をかけることだ。

 船に乗り込み出航していく甲板から手を振り続ける。意図して死なせるつもりはないものの、軍艦である以上戦死は隣りあわせなのは避けられない。もちろん契約書に記載されていないだけで、戦死した場合の年収に値する慰問費は払うつもりであるが。




 イギリス

 病気などの諸事情で退役した元海軍軍人を80人ほど、英国政府側からの推薦で受け入れることが話が付いていた。戦艦を運用するにはイギリス海軍の操船技術者が必須であることから、必要な人員であり歓迎すべきことである。




 訓練場

 アラン伯爵ゴア家の協力によって比較的小型のメガフロートに物資はそろっている。場所はアラン伯爵の管理する領に面する海岸線からおよそ2kmの地点。

 訓練用地メガフロート サラタン

全長 800m 幅 80m

深さ 4m 喫水 1m

 程度でしかないものの緊急の航空用滑走路としても使えはするが、曳航するのに酷く時間が掛かることから多用したいものではない。ただし広さと共に安定感があることから何をするにも転用が利き、他者の領地や英国本土を使用する事が無い。


「つまり、浮いている為曳航しどの場所にでも移動させられるということですな?」


 海軍関係者が訓練の見学に来たが訓練内容よりも海上に浮かぶ人工島に興味を強く持ち、防風ネットと防風林によって風もほとんどなく、多数の風車塔が回っているだけである。風車塔も海水の汲み上げと排出をしつつ、気付かれぬよう発電にも回しているが。


「移動させられることは保証します。 ただし海流を利用しつつ数隻で曳航しなければなりません」


 メガフロートはいくつにも分離させられるものの、海流と共に数隻の船で曳航しなければ現在の英国でも難しい。ただし分離し曳航した後海中アンカーで固定、分離したものを繋ぎ合わせればいくらでも巨大な浮島を作る事が出来る。海中及び海底の自然環境への影響を考慮しなければではあるが。


「ぜひとも売却して頂きたい。 王立海軍として同規模、もしくは半分程度の物を希望し配備を行いたい」


 売却を強く要請していることから、非常に苦労するとしたとしても前線基地を丸ごと持ち込むつもりなのだろう。確かにそう言った使用方法もある上に緊急退避地にもなる。


「余りに海上に浮かべ海産物が取れなくなっては困るでしょう、陛下が必要と仰るなら売却いたしますが、現地で設営したほうが効率が良いと思いますよ」


 現在のメガフロートとて防風ネット及び防風林は到着してから、アラン伯爵の許可を得てから近隣で木々を購入して植林し、夜の間に防風ネットを張り巡らしている。基礎土台こそ作ってあったものの風車塔についても許可を得て労働者を雇い建設している。

 海上と言う強風が当然な場所に置いて建物をそのまま輸送するというのは難しい。


「販売後の輸送までこちらで請け負うなどは致しません」


 レヴィア伯爵は新興貴族でありアラン伯爵家と懇意にしているが、他の貴族や軍などとの関わりは薄い。起業家としての側面もあり船舶レンタルや海運業向け保存食品などはしているものの、軍事に直接かかわるものはせいぜい石炭程度であった。その石炭でさえ英国にとって態々レヴィア伯から購入する必要もない。

 その為海軍もさほど興味を持つことはなく、何よりも夜会やお茶会など全く参加しないレヴィア伯の情報は少なかった。


「ふ~む。 購入できるよう議案として提出しよう」


 事情は様々ではあるが、もとよりそう簡単に技術品などを売ることはない。見る事でそこから構造を考察し製造されることに問題はないが、やはりそこは宇宙法によって定められている。

 非戦闘員保護が理由だったとしてもせいぜい一世代か二世代先を貸与と制限されている。一時期の事とは言え、特例や特殊事情と言い切りいくつもの惑星が若い宇宙探検者や遭難軍人による技術提供を受け、種の破滅を引き起こしたが故に。




 レヴィア伯領

 長らく続いていたHITAKAMIの復旧作業がようやく終了を迎えていた。


《システム完全復旧完了》


 培養及び教育が必要になる為長く時間が掛かっていた補助脳及びAIも完全に復旧が完了し、最大で10000体まで擬態を完全同時制御可能にまで戻った。統括システムとしてスレイヴに当たる簡易AIを利用すれば50万程度まで擬態を同時に動かす事が可能、これで領地に住民が居る事を偽装する事も出来るだろう。

 さらに疑似行動ルーチンまで組めば200万までは制御ができる。もちろん疑似行動なのでほぼループ的行動な上に会話も表情も豊かではない、2週間も一緒に暮らせばその異常性に気付く、ただしそれでも上空から高解像度の偵察衛星を誤魔化せる程度の動作に多様性はある。

 特別な機能を持たず子供から大人まで擬態を作り、多様なな行動をさせる事で独立国家であると誤認させ、異常な存在であるとは思わせない。もちろん観光どころか大使館の設営も許可せず、国連の監査のみを受け入れる体制を取るが一つの形や進むべき道は定まった。

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