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7.1903年

 史実と異なり半年前の6月、ライト兄弟が世界初の動力飛行機の飛行に成功し世界中にそのことが伝わり、真実かどうかは分からないと否定的な意見も多くあり、その意見は大英帝国内でも非常に大きい。


「空を、でございますか」


 定期交易と商取引によってロンドンを訪れている最中宮殿に呼び出され、飛行機や硬式飛行船というものの情報を得たことで、その眼で見ると言う知見を欲し、陸軍海軍では実用性の如何について興味を持つなど、様々な条件が重なったことから実物を必要とした。

 フランス製ラ・フランスは飛行速度8kmで飛行時間1時間もない事から馬の方が早い、所詮娯楽品の域を出ないと言われていたが、ツェッペリンLZ1が1時間以上の飛行と馬を超える速度を出した事から、馬だけではなく空から偵察が可能ではないかと軍部は考えていた。

 とはいえ遠くアメリカのライト兄弟の試作飛行機に、世情的に接触しにくいフランスとドイツの試作飛行船、どちらも簡単にと言う訳にはいかない。どちらも商業品など何年も先になるだろうと予測されてもいる。

 しかし高速船を持つレビアタ伯ならば飛行船の類も所有しているのではないかと。


「レヴィア伯ならばお持ちではないかと話になりましてな」


 貴族以上だけで行われる会議に出席し、例え間に貴族を介しているとはいえ英国王から直接の疑問を問われてしまえばないというわけにはいかない。


「飛行船ならば小型の試作品が御座います。 しかし」


 本来は惑星の地上情報を収集する際、動物や鳥などに極力危害を加えないよう極低速で安全に行えるように作られた物。その為数日間無補給で飛び続けられるために参考などにはならず、さらに技術的に知られるわけにはいかなかった。


「大型な独逸製を入手し解析した方が良いでしょう。 伝手もありますので交渉いたしましょう」


 独逸帝国内において稼いだマルクはヘンシェル社にクルップ社など軍事企業やフェルディナント・ポルシェなど個人に出資している。マルクは独逸国内で原則使う契約でもあり、必然的に投資や出資が多くなっていた。

 現在の技術でも予算と人員さえあれば、数時間は飛べる飛行船を作るのは難しくはない。何より数十日も無補給飛行できる飛行船などを基準にされても困る。

 いささか残念だという表情を浮かべた者は数名いたが、入手できるなら問題はないと軍部は納得したことで独逸大使館へと連絡を取り、一月ほどのやり取りの後一隻の譲渡が決定。技術者の一人が組み上げと飛行の為に英国に来ることになった。

 スポンサーが付かず解体の案も出ていたこと、購入打診と言う事は今後の開発費援助に繋がることからかなり優遇され、技術者兼任パイロットの派遣付きであった。




1903年

 11月、アロイス・ヒトラーの病死。時間のずれは個体差のずれだと思われるが、やはり大まかに近似した歴史を辿る程度で完全に同じと言う訳ではないようであった。

 死亡が確認された次の寄港時、訪ねたことで突然訪れた英国貴族にかなり驚いてはいたが、曲がりなりにも地元の名士の家系、丁寧に家に案内され客間で話をすることとなった。


「君は才能があるとアロイス・ヒトラーの伝えを聞いている」


 地元の名士であったヒトラーの父がどこかで話し、それが流れ伝わってきたと言う事であるならばいくらでも言いようがある。問われても問われなかったとしても、その辺りだろうと答えれば納得するしかない。


「才能をあるものを育て伸ばすのも貴族の務め。 出資をさせてもらいたい」


 アドルフはいまだ若いのだが、随分と悩むそぶりを見せているようで、頭の中では何かを考え纏めようとしているようだ。やはり政治家としての片鱗がすでに見受けられるのは、やはり生まれ持った天性の素質なのだろう。


「ただし、周囲、つまり君の言う愚かしい連中を納得させるために最低でもギムナジウム相当を卒業するか、こちらが用意する家庭教師が出す課題をクリアしてもらう。 愚かしい連中に余計な口出しを差せないのも、賢い者の力というものなのだよ」


 情報源によってはギムナジウムをクリアできる成績が無く、父親であるアロイス・ヒトラーはレアルシューレに行かせたとあったが、その真偽についてははっきりしていない。


「さてご婦人と妹さんには、君が愚か者を黙らせる学業に励んでいる間はこちらで生活費の面倒を見よう。 学業を修める場所はどちらを選んだとしても、場所はウィーンが良いだろう。 学業と言う辛い環境と心情を癒すには演劇や美術などはとても良い。 ご家族も同じウィーンで落ち着いた暮らしをしつつ、存分に学業に励みたまえよ」


 アドルフから思考していた様子は途絶え、ウィーンと言う言葉に笑みを浮かべている事から、この星においても芸術にとても興味を持っているのは間違いないようだ。

 とは言え甘すぎては、課題よりも美術館や劇場に通い詰めてしまうだろう。


「月ごとに分けられた課題をクリアするごとに演劇のVIP席で見れる予算を出そう。 頑張ってくれるかね?」


 問題はないようで家族ともに納得し、母親と妹のパウロが一月に掛かる生活費や今後についてなど話し、一回目の話し合いはこれで終わり今後は書面などでのやりとりとした。


「では、一月以内にウィーンに向けて旅立てるように準備を」


 ヒトラー家を離れ港へと戻る道、独逸帝国の政府役人は才能ある人物の引き抜きなどされては困るのは当然、聊か気分を害してはいたがイギリスに引き抜くつもりはなく、独逸帝国の民であろうとも才ある者を育てるのが貴族の務めと言い切り、この一件には独逸帝国政府の役人も一つ噛むよう契約書がしたためられ、その手数料もマルクで支払うとして一応の決着を得てはいる。

 これからも独逸帝国内だけではなく才能ある人材への出資と援助を含め基金組織としていずれは立ち上げても良いのだが、第一例がヒトラーとなってはその後に影響が大きすぎる為、まずはその他大多数の内の個人出資でよい。


 ほんの少し、いずれ来るだろう時に備えてコネクションが出来た。あとは体面の為もあることから、ほかにも数名独逸から才能ある人物に目当てを付けて置き、イギリス国内でも目を付けている個人ではないが企業が一つあった。




 英国において。

 マーマイト・フード・エクストラクト社が一年遅れと言う誤差の中で創業。多額の出資を行い工場の早期拡張と共に配当金の4分の2を現物で受け取れるよう交渉を行い、受け取る配当金の4分の1もさらなるマーマイトの品質向上に使うよう再投資と職人にボーナスに支払うよう求めた。


「配当金の4分の1をですか。 職人たちは喜びますが、本当に宜しいのですか?」


 いまだ名も知れぬ創業したばかりの会社であった為大分驚きをもってはいたが、悪い話ではなく現物と言うのも助かる面もある。だからこそ本当に良いのかと確認をしてきていた。


「このマーマイトは実に良い。 病人や船乗りの栄養食にもなり、海洋国家たる英国にとても必要なもの。 品質の向上をし続ければ英国に置いて重要なものになる。 そして良い物を作る者に援助する、それが貴族の務め」


 マーマイトは味の癖が非常に強いと言うのは確かであったが、抜群の栄養素を持つ事からあらゆる栄養剤を作る元にもなる。そのまま食しても良し、紅茶に混ぜて良し、錠剤にしても良し、味を除けば万能健康食品である。


「より良く、良いマーマイトを生産してくれることを望む。 軍にはライムと共にマーマイトを勧める故に、製造は決して手を抜かず、職人には無理難題を言って逃げられ品質を落とさぬように気を付けて頂きたい」


 配当として樽で入手したマーマートはメガフロートに輸送し、栄養成分を抽出し各錠剤や飲料に作り替えてしまえば世界的に見ても常識的範囲内のモノが出来上がる。

 少しずつ、一歩ずつ物事を進めていく。対象に気付かれぬよう、対応されぬよう確実に。




 領地・・・

 ロンドン港を離れ、提出された収支明細や貯蓄残高を見ていると余り順調と言ってはいられない。死蔵し過ぎた金銭は国家運営を停滞させる。

 現在5隻まで増えた高速船はチャーター依頼によってメンテナンス日以外は常に航行中。さらなる増便を求められているのを断っている現状。

 海運船や軍向けに絞っているとはいえ保存食は需要に対して常に供給量不足、さほど価格が高くないとは少しずつ供給量を増やし続けば積み上げられた金銭は非常に多くなる。

 孤児院や農業支援による支出もそこまで多いわけでもなく、むやみやたらと金銭を出せばよいと言う訳ではない。長期的に見て国家と国民の為にならなければ意味は少なく、短期的な効果だけではそれはただのご機嫌取りに過ぎない。

 今後の英国に必要な事は、効率の非常に悪い植民地運営の撤退もしくは運営方針転換、ただしそれには貴族達の思考転換が必要になるがそれは困難でありそこまで関わる必要は皆無。支配する者達の思考の転換であって技術でも経済力でもなく、現時点で英国内や英国名を用いて出来る事はない。

 次に伝手を作るべき場所は露西亜と日本、日本は日英同盟が出来た事から訪れる事は難しくないのだが、露西亜帝国は現在国内が乱れ独逸帝国以上に接触が難しい。


《時期は近い。 準備の最終確認をしなければ》


 ただし、勝手に国内に侵入するのは技術差から言って簡単、標的はとある一家、もし世界を地球の歴史と酷似させ楽に管理したいのなら必ず暗殺する。暗殺実行者達の頭部を弄り死んだと報告させ、該当一家は四半世紀から半世紀は表に出さず保護し、時が経ち権力も何もなくなった時に歴史の語り部として表舞台に出す。ここまでずれてしまえば生半可な修正は効かず、御し得るかどうかが分かる。これもいくつか準備する事の一つに過ぎないが。



 レヴィア伯のあずかり知らぬところで。

 アラン伯爵やレヴィア伯の事業を知る近しい貴族はおぼろげではあるが、20年を超える孤児層への出資から方法を選びながらも育てる方が税収が増える事は理解していた。何も生まず消費する層だった者達が兵士や労働力として動く、それは育てるにかけた金銭よりも大きい利鞘を産み始めていたからだ。具体的に表れる犯罪率の低下と税収の増加、その方策を国家や植民地でやれるかはともかく領地で行えば良いだけの事、それが管理を任されている植民地などでも良い。


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