62.米国の混乱
2027年
米国はSOJと政府の内戦がいまだ続いていた。
「米国によって世界を支配し、平和なる世の中へと至る! それこそが強い米国であり真実なのだ!」
SOJ側が主張する強い米国という名の軍事政権、そして多文化によって政府側が弱腰という問題点。
あくまでSOJは反政府組織であり国際社会も政府側が正規の組織であって認めている国家はない。問題は政府の人員や軍にまでSOJの人間がいたことから3州の離脱と州軍の分裂は痛い物であった。
賛同して離脱宣言を行ったのは東岸側の3州のみであるが、それだけでも人権団体を含めた動きによって政治的に動きを鈍らされてしまっていた。
「我らは人間でありまずは対話によって判断すべきだ!」
「彼のも主張も一定の利がある! 我々は余りにも配慮をし過ぎた!」
現米国大統領は将軍と共に制圧作戦について考えていたが、どうしても国民の過半数の賛同を得られそうにもない。SOJによるメディア操作だけではなく、自由を名目にした人権団体や人種団体等による活動は軍事行動を停止させてしまっている。
最良の解決策がない。米軍によってSOJの制圧州が広まる事は抑えられているが、米軍の内部にもどれだけの協力者がいるかまだ分からず、内部を浚い直す必要性と合わせて身動きが取れない。
「英国から協力の要請がきております。 情報提供もされておりますので……ある程度は排除できるかと」
苦肉の策、同盟国から有志の協力を秘密裏に求め、英国から英国情報部において推測される数名のSOJ派と思われる人員の情報を得るもまだ足りない。
英国連邦とてSOJによる干渉を少なからず受けており、発展途上国の一部では武力独立に向けた暴動が発生している。武器を提供し武力によって主流となるように武装組織を乱立させたSOJによる行為であった。
「現在、連邦各国において武装勢力による反政府活動が活性化しております」
「ある程度は、自浄作用と自国の治安部隊で対応できているようです」
「しかし、それもある程度であり武装勢力を排除できるほどではないか。 連邦軍を重石としてではなく実行動を要求される時が来るとは」
外交官だけではなく英国連邦軍の外交軍人も到着しており、すでに米軍と連携についての作戦会議が行われている。
通常であれば連邦所属国家に重石として英国連邦軍は展開しているのだが、今回SOJによる影響は世界中に広まり、各国で多大な問題が発生していた。
“資本主義勢力を打倒し、自由と民族自決を自らの武力を持って行う”
その主張と共に世界中にばらまかれた米国製兵器によって英国連邦軍はもはや動けない。それはSOJにとっても予想通りであり、武装組織の乱立によって英国連邦の中でも発展途上国や開発途上国は乱れに乱れ、武装組織により地方の農村などが襲われる事態が発生、周辺国への睨みどころか戦力を派遣し国民を守りながら壊滅作戦を全力で行っている。
それでも英国は動く。英国軍から海兵隊を抽出し厄介ごとを引き起こしたSOJに対しての報復、そして英国連邦として声明を出した。
「英国連邦はSOJという反平和組織に対し、一切の配慮を行わず排除することに関して連邦の力を振るう事を決定しました」
平和など題目ではない。それは“英国連邦”という連邦に所属する国民に対して明確に“害”を与えた事からくる総意、米国政府から正式に協力の連絡が入り次第全力で動き出す準備が行われている。
本来であれば大国は支配下に置きたい各国の食料自給率を下げ、商業作物や工業ばかりを行わせ食料面から支配していくが、英国はまったく逆に食料自給率を徹底してあげさせ“自立・共栄・自衛”を綺麗ごとの題目としてやってきた。食料が満足すれば第二次産業でも衣類や食料加工を主に自国主導開発や生産など進めるようにしている。もちろん重工業はがっちりと英国企業が関わっているが、高度技術が関わらない範囲は自国で賄えるようにとの配慮もあるが、なによりも。
先進技術を開発しつつ安全に運用するのがどれだけ大変なのか、運用する人材を得るのもどれだけ大変なのかを理解してもらうためでもあった。
その綺麗ごとの看板と題目によって軍事・技術・外交・政治面においてリーダーであるために苦労を続け、いまだに“連邦の宗主”として振舞ってきた100年以上も続く多大な努力と苦労を無に帰す行為、英国は決して許さず、乱された連邦各国も許せるものではなかった。
「英国連邦加盟各国。 賛成多数によりSOJに対して武力行使を容認します」
連邦加盟国各国から総意により、連邦合同会議において米国のSOJとの敵対、そして米国政府に対して全力で壊滅作戦の協力宣言を行った。
今回の一件に関して英国連邦は総意として遺憾の意ではなく、直接的行動をとる事を議決。2027年、英国連邦各国は真面目でさえあれば食うに困らない生活が出来る段階に達している。もちろん国民性などもあって発展途上国を抜けても開発途上国程度な国ばかりであるが、少なくとも貧困を理由に麻薬の蔓延や犯罪の多発という段階は終えていたのだ。
それがSOJのせいで国家の後退になりかねない武器弾薬のバラマキなど、断じて許せる行為などではなかった。
「しかし、各国に広まってしまった銃器の回収、そして武装組織への対処は如何しましょうか」
決議はされた。残るは直接米国への支援部隊と、連邦各国で暴れている犯罪者集団の撲滅のための戦力調整、そして武装組織への対処は難しい。拠点もわからず、分かったとしても攻撃する手段が限られる。
「米国へは英国本土軍から抽出し、ミグラント国も動きます。 連邦各国には連邦軍から武装組織の危険度に応じて壊滅部隊を送ります。 それでよろしいですね? 最低限度、各国の許可を頂けるのでしたら、武装組織の拠点全てに対してエリーニュス爆弾をもって攻撃を行います」
普段は発言を行わず、今回の議決においても発言をしなかったミグラント国外交官の発言、それはすでに武装組織など判明しており、攻勢の準備が整っているということであった。
「当国はすぐにでもお願いしたいと、いま上から連絡が入りました」
「こちらも、すぐに議会を通して許可を得ると」
即座に回答できたのはほんの2カ国、運よく連邦議会を遠隔参加して居た首相や大統領が即座に判断を下した。すぐにでも国を荒らす武装集団をどうにかしたいという思いが強かった。
「わかりました。 正式な許可が得られ次第すぐにでも動きましょう」
エリーニュス爆弾 ミグラント国製であるが英国所有の人工衛星からの情報をもって行われる230kg級のGPS誘導爆弾。誤差も少なくユーロファイター タイフーンにも搭載され、ミグラント国でも生産・運用が行われている。
すぐにでも行動を起こすという言葉に、SOJと裏で繋がっているのではとたまたま連邦議会を傍聴していた愚かなメディアが考えた。そしてその記者が悪かった。彼は元々それなりの上場企業CEOの息子であったが、度重なる放蕩行為によって放逐され、成人してメディアに入社した為、触れるべきではない物事やミグラント国を知らな過ぎた。
記事の見出しは“ミグラント国 SOJと裏で癒着か!?” そんな記事を出した翌日、炎上する前に中流以下の生活者達の集団から襲撃を受けた。
警察が急ぎ駆けつけた時には、編集長と編集者が縛られた状況で建物の外にまで引っ張り出され、全員から激しい叱責を受けていた。暴力は捕えるときにそれなりに振るわれたようであったが、ほとんどはその時のものだけで囲まれて叱責を受けている最中に暴力は振るわれていない。
「すぐに被害者を開放し地面に伏せなさい!」
警察官達によって一応たてられた襲撃の責任者数名は抵抗せずに逮捕され、それ以外の全員も素直に事情聴取に従い騒ぎそのものは規模の割にすぐに終息した。
英国中流層以下の認識では、ミグラント国はそういう国ではないのだ。英国の為にと孤児に低所得者層に農業畜産業に、ずっと支援を続け優秀な結果を出せば追加の支援や独立独歩していけるように仕事を斡旋するなど支持している人達はいまだに多い。
ミグラント国が行っている人格・能力共に優秀者へのサポートや保証によって、低所得や孤児であった者から一流企業や政治家などになった者もいる。もちろん軍人や警察官などにも、人格及び体質が向いているならば勧めるなどしており、今回の大騒ぎについて駆けつけた警察官の中にも居た。
いくらゴシップを主にした信頼性ではなく、話題性だけが求められるメディアとはいえ逆鱗に触れる行為をすべきではなかった。もし先代の編集長であれば差し止めるし発行などさせなかった、現編集長が怠惰でろくに記事を見ずに許可を下した、ただ運が悪かった。
メディア会社は半年後にはスポンサーが全て居なくなったことで廃業となる。編集長はともかく、記事を書いた記者は面や経歴がネットを伝って英国連邦内で広まってしまい、残念ながら情報や信頼性に重きを置く仕事にその後着く事は出来なかった。
二か月後、
英国海兵隊だけではなく王立騎兵隊からも抽出を行い、少数であるがチャレンジャーⅢを装備する機甲部隊まで投入した。数は少ないが精鋭部隊の投入、それは英国側の本気であり必死に築き上げ続けた連邦の平和を乱された怒りでもある。
もちろん制空機部隊も投入され、納入されたばかりのMF-23/CB(C型の英国版)の二個編隊まで出張ってきたことに、米国軍側は大いに驚いた。いまだMF-23シリーズは英国で生産されていない。重整備さえ行われておらず、標準的な整備だけでも英国空軍にとっても重要軍事機密である。
今回持ち込んだのはSOJが制圧している基地にF-22のブロック20が配備されていたため、F-22に対して英国連邦で対峙できる機体がMF-23しか存在しない。もちろん米空軍もF-22Aを用意しているが、システムの都合上お互いに誤認などさせる事が可能であり、識別信号を同じにすることでシステムをロックし攻撃を出来ない状況に出来なくもない。
「これはまた、随分な物を輸送してきたようですね。 英国としてユーロタイフーンではなく、MF-23は機密機としていたはずですが」
「英国連邦は平和への協力として新鋭機を用意したのです。 連邦も今回の一件では強い意志を持って協力をしていく議決が出ていますのでね」
送り込まれてきた部隊を見た米国軍司令官は“皮肉屋でインテリ面した英国野郎が本腰を入れるほど怒り狂っている”と理解するには十分であった。
米国陸軍との編成が完了次第、共同でSOJへ対処するため正式な連合部隊を組む、3個の州とはいえそれは決して楽な作戦規模ではないことから入念に準備を進めている。
M1A2Sep3エイブラムス、米国が誇る主力の戦車であり燃費の悪さを除けば走攻守のすべておいて現在最強と言われ、SOJの州軍にはその数は少ないが正面戦で戦うには余りにも難しい。そのほとんどがM1A2Sep2やM1A1SAの混成とはいえ、少なくとも200両を確認している。
幸いだったのはМ1E3という最終テスト機は配備されていなかったことだ。130mm滑腔砲を装備し、対ドローン兵装やトロフィーシステムにより無反動砲や誘導弾さえ防げる。それこそ砲弾以外は撃墜できてしまう強固な防御性能は、次世代の最強戦車と呼ばれる可能性を有している。
SOJが支配する州に隣接する米国陸軍基地に隣接する形で仮設の基地と司令部が設けられており、そこで物資が集積されている。その中で特に目を惹くのは正規量産段階に入っているチャレンジャーⅢ Mk3、とはいえ30台だけまずは輸送されていた。
「ミグラント国から輸送中です。 全数が到着するまで海路および陸路によって二か月はかかるとかと」
「第二陣は13日後に到着予定です」
「格納庫の準備は出来ているな? ミグラントから物資は次々届く準備を怠らぬように」
戦車兵は連れてきているが、どうしても重石でもある英国王立騎士団から全数を運ぶわけにはいかなかった。英国本土にいつでも動けるようにチャレンジャーⅢが配備されているだけで、連邦各国で大事を起こした場合即座に鎮圧に投入される、そういう意味の重石の為に全てを動かす事は出来ない。
その為ミグラント国から余剰を回してもらえることになっており、100両が輸送される手筈となっている。その際にはミグラント国仕様であるが、300両の保有車両があるという言葉と共に、必要であればROディフェンスで製造・整備中のティーガーⅣも30両程度なら提供できると伝えられるも、流石に機種転換訓練が必要であるために断りを入れたほどだ。
「どれだけ兵器を保有しているやらだ。 チャレンジャーⅢに関しては受領次第すぐに訓練を勧めるようにな」
英国の司令官や参謀はミグラント国がつくづく英国連邦に所属している 軍事部門の一角 であると意味を理解し、英国王室に忠誠を尽くしている事に安堵もしていた。
許可を得て燃料や物資を備蓄している臨時設営仮設基地では、毎日大型輸送機によって大量の物資が運び込まれ、その全てがミグラント国で製造されたもので提供されていることにどれだけの備蓄、常に戦争に備えているのか米国側の査察官も驚いていた。
「戦争準備は常に万全ということか」
「規格は英国準拠のNATO規格ということだ。 必要であれば弾薬と燃料の融通を受けられるということだが、何日輸送が続くのだ?」
米国軍人は驚いているが、英国本土から来ている軍人としては気にすることもない。紛れもない小国であるが、先進技術に関しても軍事に偏った国であるとの認識と共に、毎年行われている共同訓練において精強な国とも認識されているので特に驚く事はなかった。
米国が混乱している中、一方でロシアは特に何もせず、自国内での活動で手一杯であった。旧宗国であった領土に線路及び道路の敷設がひと段落が付き、現在膨大な開発需要に対応するため政治部だけではなく、外交に関わる部門まで各国から人手や求める製造品との兼ね合いの調整で余裕はない。
確かに寒くはあるがロシアに比べれば極寒でもなく冬の間にもそれなりに農業までできる。さらにレアアースを含む鉱物資源まで産出するため、国民の希望と人の移動に開発と行政としても限界ぎりぎり、外部に手出しが難しい段階までの内部需要に悲鳴を上げている。
しかし大統領府の評価は非常に高まっており、暖かな地域での農畜産業で働く事を望む層の増加、米国の内乱に近い動きに対応する余力を失っていた。
日本
米国が乱れに乱れている現状では日本も影響を受けている。しかし我関せずを貫こうとするも、米英から睨まれ、陸上自衛隊の派遣を強制されていた。
ロシアの脅威を理由にしようとするも、ロシア側から“日本を構うほど国内に余裕はない”と理解できる返答があった。事実、新しい開拓地の整備に人員も物資も大幅に取られており、日本に対して侵略や対応を行えるだけの余力は現在なかった。後にロシア空前の好景気時代とも言われる開拓・開発需要はまだ続いている。そんな状況でリスクのある日本側にまで手を出す必要はない。
結局“同盟国・非常事態対処基本法案”によって陸上自衛隊から部隊の派遣をさせられている。
・2歩兵師団
・1特科団
・1高射特科団
・1施設団
10式戦車を再び渋って90式戦車の部隊を送り出そうとした所、“日本はSOJの考えに賛同という事ですかね?”と理解できる発言を米国政府からされ、慌てて10式戦車を装備する機甲部隊を定数送り出す羽目になっている。
特科部隊は米軍からの要請により機甲部隊を掩護する為でありさすがに奪還作戦に従事せよとは言われていない。いくつもある州都の境界線の一つを守れと言う命令が下されており、99式自走榴弾砲と共に約20kmにわたるエリアを担当させられていた。
9カ月が過ぎ米英の物資集積は終わりを告げた。
始まる米国内でのSOJの排除、そしてメディア操作と民意の集約に時間を要し、離脱した3州に本拠地のある企業の理解も得られた。民意の総意としても支配されている領域での経済活動だけではなく、親族などと連絡が取れないのにも限界を感じ迅速な開放を求めている。
「最後の通告です。 早急に武装を解除し投降してください」
相対しているSOJ側と米国軍は大本は同じ米軍、作戦も対策も知り尽くしているとはいえ、物資を供給という考えではSOJに先はない。生産する工場を少数派持っているものの、加工済み資源を供給する先がないのだ。今保管されている物資や部品以上は供給される事なく、航空戦力は極めて貴重でありおいそれと飛ばすわけにもいかない。
空は完全に米政府側が掌握しているため安全ではあるが、損害覚悟で強行突破を図るのならば現状でも可能であり、常に警戒を続けながら時折無人航空偵察樹を飛ばすという、極めて航空優勢であるが強行突破による爆撃を警戒するに留めていた。
最終通告機嫌が終わり、長らくにらみ合うだけであった境界線は面に徹した攻撃が始まりであった。
「第一射開始!」
ドローンや偵察UAVによって判明しているSOJの榴弾砲部隊に対し、カウンター砲撃を受けぬよう先制攻撃が行われる。元より数で劣る為に1時間と持たず攻勢地域に展開していたSOJ榴弾砲部隊は壊滅。
そして続いて用意されていた多目的連装ロケット砲車両群による面攻撃、お互いにらみ合っていた干渉戦線の破壊から行われる。もっともSOJが重視し部隊の多くが配備されていた箇所、第一攻勢の中でさらに判明し指定された場所に向け、155mm榴弾砲を装備する米英の自走榴弾砲部隊や牽引自走砲部隊による攻撃をが行われる。第一攻撃を逃れたカウンター砲撃部隊を撃滅する為、容赦のない攻撃は続く。
「第3部隊再装填作業に入れ」
「第5部隊砲撃開始」
英国部隊が使用しているのは、英国で現在少数ながら運用されているミグラント国製多目的自走連装砲“フラッド”。127mmロケット弾一基40発を並列二基装備したものを1セットにまとめ直し、6基連結した物を大型トラックで牽引する自走システム。
480発もの連射を可能とする非装甲目標と面制圧に適した兵器、10台の一斉掃射によって前線は徹底して耕され、コンクリートや鋼鉄類で作られた防壁も装甲車も戦車までもが損害を負い、十全な戦闘行動が難しくなる。
10分の再装填と共に2時間の間繰り返し行われた面に徹した攻撃は防衛に回っていたSOJの前線を破壊し尽くした。本来であればカウンター砲撃などがあるのだが、最初の米英による155mm自走榴弾砲部隊による砲撃はピンポイントに敵部隊の長距離砲を破壊しており、SOJ側は反撃などやりようがなかった。
索敵の為にドローンが先行飛行していく中、装甲戦闘車両を含めた陸上制圧部隊が州境を越え侵攻を開始、侵略でも奪還でもない解放作戦の始まりであった。
3州の住民の全てがSOJに賛同しているわけではない。それでも武器で脅され、そして従わされている者達は多い。用意された武器工場で働かされ、防壁などの建設に従事させられ、仮設工場で労働もさせられた。
そのような状況で僅かなレジスタンスのような抵抗勢力も当初は存在したがそれも二か月の間に粛清され、行動を起こせずに従ったふりをしているだけであった。SOJ、もはや米国の正義など欠片もなくただの武装反政府組織でしかない。
米軍が奪還していくが都市はあらゆる建物が崩されたり簡易的な要塞へと改造が行われ、水道は壊され道路は封鎖されている。それが米軍に水などを補給させないためと配布された書面を米軍側が発見し、上水道施設に赴けば爆破されており施設は使用不可能になっている。
奪還が進む中で町に到着と共に状況が詳細に判明していく。銀行などは機能を停止すると共に、金庫は開けられ貸金庫などもはやこじ開けられ何も残っていない。ガンショップは荒らされ銃器は何もなく、病院には死体が積み上げられ腐敗が進行した死体が放置されていた。もはや法は死に果てただSOJの求める先、そして集った者達の質という物が分かる状況であった。
「……何が正義のアメリカだ。 同胞を殺しやがって」
「まだ生きているのも居る。 手遅れだが」
まだ生きている重症・重病人、助ける事もなく放置される病院は地獄そのものだ。悔しさと怒りが満ちている中、空を飛ぶ無数のドローン偵察機を操るドローン部隊から情報がもたらされたる。
「情報が入った。 ここから西南西4km先にSOJの中隊規模の部隊が発見された。 警戒せよ」
後方から集められた情報は常に前線の兵士に送られ、SOJの兵士が何処に展開し行動をしているかはすぐに判明してしまう。
SOJ側はドローンを撃ち落とすために軽機関銃やショットガンなどを装備しているが、大量の民生用撮影ドローン等による偵察行動は半径30mあたり2機が存在するほどの数で行われ、先行しているその民生ドローンが撃ち落とされた場所を軍用ドローンが把握し報告を行う。
英国でも運用され始めたばかりのドローン部隊、主に囮となる民生ドローンのコントロールと軍用ドローンによる映像と搭載されている超小型爆弾の投下を行う。遠隔操作であるために癖はあるが、まずは民生ドローンを飛ばし敵の反撃を狙い、軍用ドローンで直接的対応を行う戦法としていた。
その中でも建物の中さえ小型のドローンを飛ばし、極めて低画質だろうと居るかどうか最低限の確認を行う事を徹底していた。
送られた敵対者側は壊すなり何か対策を必要とすることを強要する。破壊されれば建物の内部であろうと敵対者が居ると判断し、民間人であるならば保護を行う。SOJ側にとっては悪夢そのものだ。
ある戦域。
SOJの小隊が3階建ての一般住宅に立て籠もっていた。米軍としては投降を呼びかけてはいたのだが、反応は銃声だけであり交戦以外の選択肢はなかった。
そのため米軍側から放たれた無数の小型ドローンが建物の中に侵入、中継された映像から内部の状況や人数などがすべて明らかにされる。
「三階に三名確認、破壊された。 次のドローンを頼む」
同僚から新しく撮影用民生ドローンのコントローラーが手渡され、飛行させさらに建物内部を調べ上げ、制圧方法が決定付けられる。
「爆薬の準備、民間人がいなければそのまま破壊を行う」
「自走砲部隊から連絡あり。 2台だが155mm榴弾を撃ち込めるそうだ」
あらゆる銃器や罠を仕掛け立て籠もっていたとしても、捕虜が居なければ建物ごと吹き飛ばされる。反政府勢力であり、何よりも民間人を殺しまわっている情報は米国内に広まっており、擁護する人権団体はほぼいないに等しい。
最終的に民間人は発見されず、立て籠もった建物ごと155mm榴弾砲が撃ち込まれ一つの争いは静かに終結した。
民生撮影用ドローンであろうと数があれば壊されても問題はなく、ミグラント国が各国企業に話を通し、膨大と言えるだけの量を購入しその製品が怒涛の勢いで供給されており、いくら壊されようと民生撮影用ドローンは構わぬということで容赦ない使用によって屋内・野外を問わず居場所を特定され圧殺されていく。そのため米国軍人の被害はかなり限定されたものとなっている。
確実に居場所を特定されてから攻撃を受けるため、SOJ側として被害が増えるばかり、最悪建物ごと吹き飛ばされるなど容赦はなかった。
「武器を捨てて投降せよ。 これが最終勧告であり、抵抗は無意味だ」
最終警告が軍から行われ、建物から武器を捨てて出てこなければ建物ごと吹き飛ばすと警告がされ、そして壊されることを前提に大量の撮影用民生ドローンを送り込み、捕虜となっている人がいない事を確認すれば作戦は一つ、榴弾砲や迫撃砲による建物ごとの攻撃だけだ。
窓から声と共に銃器が投げ捨てられ、少しして両手を頭部の後ろに組んだ姿で入口から出てくると、後頭部の後ろに手を組みそのまま地面に伏せる。
連日続く攻勢は止まることなく、SOJは占領していた地域で行っていた悪行が表に出るたびに米国世論は沸騰し、SOJに対する強硬手段に関してあらゆるメディアで賛同し加熱していく。
SOJは州の空軍基地の一つを政府機関の一つとして制定し、物資や兵器を運び込み要塞化も進んでいる。SOJもさすがに核や弾道弾などの装備は無いのだが、爆撃機であるB-52と廃棄されたはずであったGBU-43/Bを保有している。その兵器によって他の地域に被害を与えるだけならば十分であり、制空権は完全に米国政府側が握っていても、最悪F-22やF-16などSOJが保有するすべてを犠牲にするつもりで護衛とし、強行突破を試みれば一時的に近くの都市を爆撃することくらいは出来てしまう。
もはや空は完全に米国軍と英国軍によって塞がれているため飛行する部隊は自殺行為、独立宣言当初は得ていたはずの強みは、偵察機が24時間飛び回り一定規模の部隊の動きは完全に知られていた。
二か月、解放された各州の状況は復興と残存部隊の探索に重きを置かれている。
どの都市も非常時対応として建物は崩されたり、簡易拠点として車両やセメントで固められた野戦陣地と化した大型施設、電話やネット回線の引き直しに上下水道の復旧だけでは終わらない。道路を意図的に破壊し障害物を設置し侵攻を阻む壊された車両や地雷などあらゆるものの除去の必要性、破壊された公共施設や住宅の復旧に生活に関わる商店の立て直しなど一年以上かかる事ばかり。
そして、SOJによって暴力によって抑えられ、自らが受けた被害と合わせ生き残った州の民間人は解放と共に噴き出した。
「彼等に報復を! 彼等に罰を!」
「家族を奪った奴らを許すな!!」
各自が銃器を手に取り、義勇民兵を名乗る者達によって勝手に結成した部隊はSOJに対して攻撃に出ようとするなど、財産・家族・誇り、踏み躙られたことから解放された怒りは凄まじい。
SOJに協力した住民やいまだ逃げているSOJ人員を探し始め、時には米軍側が情報や一応の法として逮捕や捕縛などをしようとしているのだが、その前に義勇民兵が殺してしまうなど法の制御を離れていた。
2028年初頭
最後の州軍事基地を残すだけとなったSOJ。追い詰められ彼らには核はないのだが、廃棄予定であった大規模破壊爆弾であるGBU-43/Bが3発保管されていたため、攻勢に出ようにも自爆の可能性が高く手出しができなかった。
米軍司令部では情報の精査と作戦がたてられた居たのだが。
「無人機による偵察はだめか」
「そこまで細かい動作はできません。 数も、少しでも見つければ全て破壊されています。 いくら民生用撮影用ドローンと言っても、見るモノ全て壊されていてはどうしようも」
「映像で保管場所を確認できておりません。 突入部隊を出すには場所情報が必要ですが、スパイを潜り込ませようにも、すでに完全に基地の出入りはありません」
SOJ最後の軍基地は徹底してドローンを排除し、対ドローン用電波妨害装置だけではなく直接的な破壊まで行われている。
いっそのこと犯罪者としての捕縛を諦め、爆撃によって基地ごと全てを消し去ってしまうという案もあったのだが、米国政府としては可能な限り反政府勢力となったSOJの中核メンバーを捕え法をもって罰(処刑)するという方針を選んでいる。
「英国連邦からひとつだけ情報があります。 ですが余りにも」
参謀の一人から情報があると言うがその表情は良くない。恐らく情報の出どころはあの国なのだろうと現場司令官は理解するが、他に情報がない以上頼るしかないのも分かり切っている。
「GBU-43/Bのうち、二つは保管状態が悪く故障しているようです。 しかし一つは現状でも使用可能であり、工作及び諜報が間に合わず基地内の所在は不明とのことです」
二つが故障しているというのは良い情報であるが、米国の基地にまで工作員が入り込み活動をしたという情報は良い事ではない。例えそれがSOJ相手だろうと、米国内のそれも軍事基地に他国の工作員が入り込み諜報と工作活動をしていたということは不味い。
「SOJの問題が片付き次第、全基地の防諜体制の強化案を決めなければ」
SOJが支配する最後の州の空軍基地へと米軍と英軍は迫り、最後の時が来ていた。しかしそれでも諦める事など無く、B-52とC-17を護衛するようにF-22の2編隊が基地を飛びたった。10機が護衛となりただ目論見を潰された報復の為だけ、最後の自爆攻撃を試みていた。
隠していた残りのGBU-43/BをC-17に搭載し米国主要都市への爆撃、それはもはや勝利の為でも名誉の為でもなく、支配に失敗した報復としての面しかもたず掲げていた“強いアメリカ”という事さえ満たしていない。
その為各地に伏せていたSOJ人員によるレーダー設備のテロ行為を行った。そして金で買収されたクラッカー達による大規模ネットワーククラックと合わせほんの一時、米軍にとって30分もの間レーダー網が完全に消失し、飛び去ったSOJの編隊の行方は米国は見失ってしまった。
米国からレーダー情報の提供を受けていた英国も同様であり、移動式レーダー設備によって最悪周辺の主要都市だけはなんとか防空対応はできるものの、全域をカバーできるはずもない。
米国が混乱し手を尽くす中15分後、どの都市を爆撃するかの詳細情報がもたらされた。その攻撃情報がミグラント国・英国・米国の手ではなく、SOJ側からの裏切りによる情報提供であったのが何よりも米英を驚かせた。
それは本来ではありえない、HITAKAMIならば頭を操作し無理やり裏切らせることはできるが、最後までSOJの一員であると残っていたメンバーからの裏切り、そして裏切ったとしても死刑を待つしかない者が動くなどありえないのだ。
それでも情報があれば索敵によって再補足するまで1時間程度で完了し、大よその予測と共に多方向に展開していた米英の合同空軍に通達が成された。
米国の空
F-22 パイロットの眼には同僚の機体が追い回され護衛のB-52から離れていく様が識別レーダーに映し出されている。世界最強の制空戦闘機、それはSOJ所属となっても変わらぬ圧倒的優位性と誇りでもあった、そのはずが。
「F*CK! 一機やられた!!」
「フォートレスは抜けた! 全機ブリテン野郎を落とせ!!」
ステルス材質によってレーダーには捉え辛く、そして圧倒的機動性によって近距離から中距離まで勝る相手のいないはずの機体。その後ろにぴったりと追従してくる英国パイロットが操縦する機体。
圧倒的力を持つ10機で護衛に当たっていたF-22、その編隊がすでに方々に追い掛け回され各機単独での戦闘を余儀なくされている現状に歯噛みしていた。そしてまた一機また一機と誘導弾による攻撃を受け墜落していく。
MF-23 Nephila clavata、ジョロウグモの名を与えられたその制空戦闘機は獲物を逃がさぬよう、システムの補助も加わりF-22を徐々に、そして着実に追い詰める。予測される敵機の回避航空機道を数パターンHMDに映し、自らに搭乗するパイロットの力を最大限引き出す。
F-22は戦闘機動中に機首を急激に迎角90度近く取り、急減速をしながら後方回転ではなく横回転、推力偏光ノズルと動翼を利用し、真横を抜けていったMF-23の背後に機首を向け再び戦闘機動へと戻る。
それはSOJであろうともF-22パイロットの意地、だがそれさえも技術は覆す。
『推奨機動を3プラン提示します』
即座に補助システムにより敵性パイロットの技量と敵機スペックを判定、推奨される回避及び背後を取る為の戦闘機動がHMDに提示される。
視線により選択された戦闘機動をパイロットは行いながら、システム補佐によってF-22には劣る推力偏光ノズルや出力の微調整が行われ、人間だけの操縦では引き出せない機体性能を最大まで生かす。
MF-23は背後を取られた状態のまま降下を始め、エルロンロールによる回転を起こしながら地面まで急速降下を行う。たった数秒の地獄の降下の中、危険高度を下回りF-22のパイロットが自らの危険及びMF-23の地面への激突を確信し機首を上げ追跡をやめるが、状況を認識したMF-23のパイロットは操縦桿を引く。
『緊急補助を行います。 加圧値を最大及び推力ノズルと動翼調整を実行』
補助によって推力偏光ノズル及び動翼が限界まで稼働、加圧されたパイロットスーツでもパイロットは巨大なGに視力を一時的に喪失するも地面までわずか15mまで近付いた状態で機首を上空へと向ける事に成功、F-22の下部後方へと標的ロックした。
『標的を捕捉しました。 妨害装置の間隙を推定します』
「 」
パイロットは声も出せぬ状況のままトリガーを引き、MF-23から発射された空対空誘導弾はF-22の回避機道と共に散布されるフレアとチャフによって外れる。
しかしそれさえも搭載されているシステムの補佐により、放出が終わる直前に再度発射タイミングが指定され、英国空軍パイロットはそれに従い再度トリガーを引いた。
放出が終わった直後の僅かな間隙を抜い、再接近した誘導弾によって再放出が行われる前に爆発に飲まれF-22は墜落していく。
『敵機撃墜完了。 クルーズ飛行へ移行してください。 パイロットスーツの非常時戦闘加圧状態を解除します』
パイロットは大きく息を吐き、帰還の航路につくと共にスーツの加圧が徐々に落ちていく。MF-23は英国空軍に所属する機体の中でももっとも高性能であり、パイロットの技術と身体能力を最大限引き出す、そして代償として多大な負担を強いる機体でもあった。
MF-23のシステムはAI優先ではない、あくまでパイロットの悪しきパートナーとして限界までその技量を引き出すが、パイロットが居なければトリガーを引く事はない。人と共にある戦闘機、それがMF-23に与えられたNephila clavataなのだから。
苛烈な航空戦が行われている最中に護衛を残し単独で抜けたB-52とC-17だったが、戦闘空域から10km程度抜けたところで陸上から撃ち出されたTHAADミサイルによって撃墜され脅威は去った。SOJはもはや手が無くなり、最後に残っていた数名のSOJも降伏した。
ただし、世論の強烈な後押しを受け、速やかに“死刑判決”が下されると共に実行された。それは米国の内乱の終わりであると共に、内側に向いていた米国の眼が再び国外に向くという事でもある。
たった数年とはいえ第三世界やロシアによって米国の影響力は半分近くまで減っており、その力を取り戻す為強引に活動を開始、第三世界や途上国・宗教不安定地域に不安定な状況を作り出すべく、米国の一部門が暗躍を始める。
それは何もかわることのない米国という強国の振る舞い、これからも自らの振る舞いで産まれた新たなテロ組織や敵国との戦いを続ける。
突然裏切った幹部、その死体をHITAKAMIは調べ上げ、超常現象によって精神を操作されたらしいことは脳の変質した残照から読み取ったことから判明した。
それは最後の神候補が文明にダメージを与え過ぎないよう介入したことを意味しており、平和のために力を行使する、対象はプリモムーンに存在しそこからたった1柱だけで世界を維持すべく、平和と管理の為に行動をするのなら何も問題はない。
それでも、HITAKAMIは対惑星艦載砲の照準をプリモムーンに合わせながらずっと対象を監視する、それが命令を受けた軍人の役目なのだから。
次で完結です。




