61.狂乱する世界
あらゆる情報、政権どころか国家体制を崩しかねない情報を握る国家との敵対、国際会議場においてミグラント国の行動を断罪しようとした。G7と呼ばれる国家は諜報と防諜に磨きをかけ安全であるとの自負もあっただろう。
そんな中でミグラント国が出したほんのさわりの議員と大企業の汚職情報、それによって各国の政権は揺らぎ、株価は乱降下し阿鼻叫喚ともいえる経済状態、黙殺していた数カ国はどんな情報を握っているのかと政治家たちは戦々恐々としてしまい協力関係は崩れた。
そんな中でも騒ぎ立てようとしたメディアは多くなかったが、これを機にと考えた少数のメディアがミグラント国を叩こうとしたのだが、重役たちの横領・汚職・犯罪の握り潰し・差別発言・薬物使用・犯罪組織との癒着が詳細な情報及び証拠と共に公開され、警察組織が否が応でも動かなければならない状況に追い込まれ、そして動かなければ治安というものが無いものとされてしまう状況に陥った。
もちろん動かずに治安が崩壊した地域などはあったのだが、国外に少なくとも手出し口出しを出来る世情ではない。
完全に止めを刺され各国で多数のメディアが倒産、日本でも3社と公共放送が情報流出により国民から大バッシングを受け数年後には消え去る事になる。
一方で色々と以前から行動が起こされていた英国連邦の政治家やメディアなどは経験からだんまりを決め込んでおり、この吹き荒れる狂乱の情報の流れに巻き込まれまいとしていた。むろん各国メディアと情報提携や報道提携をしていた所は若干のダメージを受けたが、あくまで知らずに提携していたと損切を行い、契約解除や契約違反による訴えを起こすなど立ち回っている。
世界の裏
ウレイナとロシアの両国は動きを止め、支援を見せていた各国は思い留まった。他国の事より自国優先なのは当然の事、自らの土台を揺るがす情報を持つ相手が、情報と物理的戦争という狂乱を全力で舞おうとしている状況で利がないのに悪影響など受けたくはなかった。
レヴィア伯を暗殺などすればよいのだが、それをやるには行動範囲が限られ、個人でも特殊部隊員と同様の訓練を受けており隙は少ない。建物ごとの爆破や車両攻撃、個人の自爆攻撃などを行えば目立ち過ぎる上に、英国連邦内で起こすには民意を得られ過ぎている。
もちろん悪意や敵意を向けている層はいるのだが、それこそ思想も何ももたないゴロツキであり銃器や爆薬など得るには不自然過ぎる。そして仕込みで裏社会へと入り込んでいる英国諜報組織が必ずどこの国のバックアップを受けているかなど調べてしまうだろう。
各国の諜報組織は英国が裏社会に設けている現在では最大手となった武器商人を便利に使い過ぎ、自ら調達するよりも簡便であり出元の隠蔽や刻印の償却も完璧、その為に他の調達先が限られている状況であった。もちろん他からも入手は可能であるのだが、実績と品質に情報流出を考えると、どうしても英国が裏社会に仕込んでいる武器商人が都合が良過ぎたのだ。
「刻印を消すことはできます。 ですが、流通ルートから質が良い物は特定されるかと」
「運び込むルートですが、英国の仕込み以外では質と情報を封鎖しての行動は難しいかと」
仮入手した銃器の状態や刻印処理など質は良くない。調整しても照準と命中性など期待も出来ない。もちろんその方がよいこともあるのだが、暗殺の確実性に大きく劣ってしまう。
部品の一部に金属3Dプリンターを使用したゴーストガンもできなくはないが、そもそも装置が高価過ぎて相応のバックが付いてますというようなものだ。
「それでは、人だけではなく武器弾薬さえ十分には手に入らないという事か」
命令を受け検討をしていた各国の組織は頭を抱えてしまった。コストダウンのために英国仕込みの武器商人主に利用していただけに、今から新たに信用が置けて・品質が良い・存在が消えた銃器を短期間で入手などできるはずがない。結果としてどの組織も即座の作戦遂行は不可能であると回答を返すに留まる。
ウレイナは汚職がまんべんなく広まり、ロシア政府さえも呆れるほど酷い有様であることは間違いなく、そしてロシアとしてもソヴィヘト連邦を再結成するにはまずウレイナを取り込みたい。
汚職の為に欧米諸国がウレイナを支援しずらく、ロシアとして攻めやすくはあるし仕込みも十分ではあるが、東西戦争になる危険性を孕んでもいる。
全ての勢力にとって微妙なラインであり、ロシアにとっては不確定要素があるが最低限として民意を得たという段階の行動であったが、ミグラント国の大規模な介入は想定外であった。
クリミア半島を制圧した行為は国際連合において連日会議され、違法とみるか奪還とみるか、それとも仲裁行為と判断すべきか、世界の判断は様々に別れ各国独自に行動を起こそうとした。
米国
これを機としてミグラント国を世界の敵に認定し、技術簒奪などを考え政治的主張をする勢力、SOJは行動を開始しようとした。
彼等は米国の為として様々な犯罪行為をしてきた。もちろんそれは国家という意味では是であり、国家運営に関わる非合法組織など当然のように先進国は持っている。ただし、SOJの米国の為とはつまり自らの勢力の為であったのが悪かった。脅迫・誘拐・強盗・殺人・薬物売買・人身売買・マネーロンダリング、それを米国という国家の為ではなく、米国という国家の中で自勢力が自由に振る舞う為であり米国内でも行われ、そしてそれを裏付けるように肥え集った財力・武力は犯罪組織そのものであった。
詳細かつ私生活での振舞いや発言だけではなく、映像による取引現場など、詳細な情報と映像がどこかの国によってハッキングを受けた新聞社や動画サイトのメイン画面へと映し出され拡散したことで民衆に知れ渡ってしまった。
自由の国ステイツ、だからこそこれは余りにも政治的に問題が大き過ぎた。国内は乱れ外部に手出しをするには内部の浄化処理から行わなければならず、最悪であったのだが一般人を意図して貧困層に陥るように仕向け、その中から選んだ男女を薬剤企業の治験ならまだまともな方であり、非合法な性的玩具奴隷として使い捨てていたことであった。
最悪急ぎ対処しなければ内乱になりかねない。現に余りの事に各地でデモ活動とデモ活動を理由とした略奪などの暴動が多発し、制御不能な内乱へと近づいて居る事が分かっている米国政府は用意していた戦力を治安維持に向けた所、SOJのメンバーは一部の州軍を動かし傭兵などをかき集め独立的行動の宣言した。
「SOJは現政府の力なき無能を是正する。 我々は米国を愛する者達であり、今の国を憂う者は我らの元に合流するのだ! 我々こそが米国であり正義だ!」
自らの政治主張を高々に語り支配下の州の独立を宣言、それ以外道がないほど追い詰められたというのもあるのだろうがそれは悪手以外の何物でもない。確かに莫大な資産もある上に州軍の一部を動かせるが、各地に散っていた配下が集まったところで他の州を含めたアメリカ軍を相手に出来るはずもない。
現大統領や有力政治家は国内を治めるために州軍まで動員し、暴動などを必死に抑えながらSOJを内乱を諮る組織と認定し、国家反逆法の指定が成され国外へと目を向けている余裕を喪失した。
英国
連邦議会の議事録が残る会議室ではなく、人払いをした談話室に集まり話し合いが行われていた。
「ミグラント国はその諜報能力から多くの事を知っている。 だが何も言わない。 それは国外に興味を持っていない事でもあり、他国の内情など興味や支配の欲がない。 それがミグラント国であるのだが、悪意と敵意を向ければどうなるか、それは国家を揺るがせることが可能なだけの情報を常に持っていることが武器となりえる」
黙って聞いている議員たちに、首相は普段はほとんど吸わないタバコを深く吸い込み、煙と共に一つ隠さなければならない事を吐き出し話を続ける。
「恐らくではなく、英国諜報組織が得ていない英国の危険な情報も確実に持っている事だろう。 非合法でもって対峙してはならない、それは明確に我々が敵と認定されるということだ」
現英国首相、ミグラント国という存在が英国王室と歴代の首相だけ知っている人外の化け物である、化け物であっても受け入れた当時の英国王室と政府への義理でのみ、いまだ英国所属として英国の発展に尽くしているとも理解している。
その信頼関係さえ裏切り消失させれば何が起きるか。だからこそ、あくまで法に従って対話と対応を行うことが是であり、政治および国際法に詳しい専門家と共に注意を払う。ミグラント国を理解しているからこそ、英国連邦は動かず法に沿った公的発言以外は行わない。
静観しつつ非常時に備え英国連邦 陸海空軍を万全な状況で動かせるよう準備を行い、各政府人員は風紀・秩序を厳命し注意を払っていくことになる。
特に以前会議場で問題発言を行い、引退した議員たちには議会から書面が届いた事で冷や汗を流し、必死に言葉を酒と共に飲み込みタバコの煙で吐き隠していく。
EU
相変らず内部統制に苦慮している。昨年のオリンピックで近年のマイノリティ対応の為の行動が、古来から抑え込んでいたマイノリティと宗教問題を刺激してしまい、混乱の中にあるので何かする力を喪失している。連日のデモや毎週発生している暴動対応でフランスは身動きが出来ず、ドイツは兵器産業が盛り上がりつつも第二次大戦中の思想に傾倒した若い世代の暴挙に振り回され何かする余力なし。そのような状態でも兵器産業による売買は回っているのだが、その売買の中に米国が販売を避けるよう国際指定されていた組織への流通を一部企業が行っていたと問題となった。
日本
現在まったく動けてない。以前の事もあり何か発言すれば首を絞めるだけでは済まず、個人の政治生命が終わるだけでは済まさないと理解している。そんな中で何も変わらぬ一人の政治家がロシアに寄った発言をし、ロシアの手によってミグラント国を懲罰すべきであり、ウレイナの侵攻は妥当であると公的に述べた。
彼は普段からロシアに日本の情報を何かしら売り渡し、当人は新露でありロシアからも信頼されていると考えていたのだが。
「これはロシアとウレイナの国家間問題であり、他国の政治家が発言すべきことではない。 これは社会主義に対する侮辱である」
ロシア政府側が否定と拒絶し、渡してきた機密情報を日本政府へと返却し概要を公的に広報を行った。これはロシアによる損切の一つ、該当する日本の政治家はこれによって不正情報が溢れ出し政治生命だけではなく、そのまま刑務所に収監されている。
ロシア
ミグラント国の事をガルミチョフの頃から知っているからこそ、ロシアは侵攻作戦を一旦停止する判断を下し、内乱が起きたとしても対応できるよう軍の再編成と内部へと目を向けている。
現ロシア大統領が情報部出身であり、若い頃所属していた部門がミグラント国対応をしていた、だからこそその危険性を十全に理解していたというのが大きい。諜報部及び暗殺部を脅迫と武力を持って強硬的に退け、当時次席であったガルミチョフとの直接対談から兵器類の直接交渉、ニコライ家についての国連での発表前での調整など、極めて危険な国であることなど身をもって理解していた。
ただし、もっともミグラント国を上手く利用したガルミチョフは連邦書記長・国家元首・最高会議幹部会議長・最高会議議長・連邦大統領を長く務めるなど権威の頂点であり続けた事例もある。
「今回の作戦行動はここまでだ。 部隊行動を停止させよ」
現大統領ソメイノフはわかっているからこそ、現時点で充分作戦は成功したと判断し、これ以上は利益を越えた損失を生みだすと理解していた。ソメイノフもまた、ミグラント国の危険性をうまく利用しその地位を安定させている一人なのだ。
「しかし、予定ではクリミア半島の全制圧までですが」
副官は情報出身ではなく直接対応していないため、その危険性を十分には理解していなかった。
ガルミチョフ時代、諜報部門全人員の趣味趣向に身長体重、経歴から一週間以内のトイレの時間までの詳細情報、提示された部門長はゾッとしたものを感じ、敵対するのは得策ではないと上にまで情報を上げた。
そして数年とはいえ直接対応の担当をすることになった現大統領は、嫌というほど情報を締め上げられ脅迫を兼ねた私生活の暮らしぶりを雑談の内に明かされ、如何なる防諜処置や人員対応を施しても情報を知られてしまい、部屋にいる虫までも神経質に処理するほど徹底してようやく少し情報の流出が収まるなど原因は判明しなかった。
事実上防ぐ手段がないと現役時代の経験から理解しており、上手く利用するには動きに合わせて流動的に対応するべきと身をもって理解している、だからこそ他の政治家と異なり得られた圧倒的なアドバンテージによって得た現在の地位であった。
「米国は現在混乱している。 最大の成果だろう」
今回の一件でロシアは軍部とメディアを抑えさせ治安に変化はなく、米国は政治組織がミスを起こし内部で混乱している。これを機として世界への影響力拡大を選び、クリミア半島を得るよりも利が大きいと判断した。
大統領ソメイノフは今までの情報から推測し、脅威をただしく理解できない副官も損切りすべきかと考えていた。情報は危険な武器でありいつでも振り回せる危険なもの、その武器を大量に保有しているのがミグラント国なのだ。
関わらずにおけば怪我を負わせてこない相手に手を出す必要はないという判断、そして日本の政治家がロシア側が求める以上の勝手な発言と情報を売り渡してきたことに、最悪なパターンを想定し切り落とす事を選んだ。日本政治家の駒はいくらでもいる中の一人であり、予定以上の発言と行動をする人材など不要であった。
「ウレイナへの内部工作費の増額を進める。 準備しておきたまえよ」
もちろん国家の方針としてウレイナの連邦化はしたいのだが、政治的に現在の体制を潰される事と天秤にかければ、それはもっと狡猾に動き表向きまで平和的かつ軍を使用しない方策を選んだほうが良いとの判断である。
今回はある程度は平和的に動き、新任担当官がクーデター部隊という短期的な手を選んだことで介入してきたが、もっと時間をかけて西側さえも口出しできない方法でまずはクリミア半島を取込めばよい。
国際社会においてロシアはクリミア半島に住む同胞の安全の保障と、今回の出兵に掛かった費用の一部のみを請求し、元の国境まで下がるとして失った兵器と人員は損切との判断、ミグラント国が実費として使用した燃料の2倍を供給する事で終息を迎えた。
「クリミア半島における同胞の安全の保障は成り、作戦は成功したと判断する。 この案件は以上だ。 世界に向けた船舷の用意をしたまえ」
後日、世界への発表と共に戦死した兵士への慰問料はロシア連邦の現規約に則り、ミグラント国が3割増しで支払うことで現政府が責任を持って支給するとロシア側の政治的な勝利であった。
今回の件で軍部と諜報組織、そして危険性を正しく認識できない人員への引き締めという粛清が行われ、ミグラント国から流された政敵の情報を元に粛清という人員の入れ替えが行われた。世界に対して成果を上げたのに米国のように内乱を越されては困るということだ。
「次は、そういうことか。 すぐに生産予定を立てるように。 あぁ、発射機及びシステムのライセンス費の請求を忘れないようにな」
次の書類、それはミグラント国から今回の一件への迷惑料を兼ねているのは明白な物で、BM-21などで使用する多目的ロケット砲の弾薬を膨大に購入予定であるというもの。それは関係改善も兼ねてロシア側に支払うという意味である。
9M521 ロケット弾 購入数は4万から16万発、調達数としては膨大であるがそれに関して大量の金銭が流れ込み、現政権の立場はさらに万全となる。
40発1基の発射機とするシステムの製造ライセンス、大口取引であるがさすがにポンドというわけにはいかない。変わらず膨大な量のレアアース類に食料など、そして一部であるが宝石の原石などが正規ルートで支払われる。一時的とはいえ大量に供給される食料や燃料によって、旧宗国のロシア領再開発地域での需要によって活性化している経済により現政権の評価は上がり調子であり、限りなく民意の工場は確実。
変わらぬ対応として売却の許可と担当部署に製造の命令を下し、大統領は再び国内への引き締めの為に新たに得た地域の開発計画に取り組んでいく。
ウレイナ
元より汚職が酷いのだ。これからは西側とロシアによる利権と政治のぶつかり合いによる汚職浄化をしなければならない、最悪金銭に負けてロシアに取り込まれてしまうのも、またウレイナという国家の判断に過ぎない。殺戮・略奪が伴う戦争だけはしてはならない。それだけのことなのだ。
半年にもわたるにらみ合いの中、結末は一旦クリミア半島はウレイナの領土のまま緩衝地帯として国連の管理下に入り、ロシアは軍事力の矛先を退いた。それ以上の関与はミグラント国として必要がないことであり、それは国際政治による勝利でもある。
そしてクリミア半島は国連監視下に入り、クーデターを起こした者達は内乱罪によってウレイナの刑務所に入るかロシアに移住するかの選択を迫られ、工作員であった一部のみロシアに移住は出来たがその大多数はウレイナの刑務所に収監された。
ミグラント国の行動は世界から疎まれ、英国連邦としてももはや擁護できる事ではない。その為全ての人員を引き上げ、少人数でのやりとりやネット通話などによる取引が主体となる。
簒奪に向けた米露のやりとりに対し、残された一柱によって直接的介入そのものは避けるよう人心へ僅かに影響を与えながら御している。戦争だけは避けるべきであり、工作員や世論操作などで片付ける問題なのだ。
そして長らく時間を要した管理能力を試すべき試験は終わりHITAKAMIの役割は終わった。




