60.最後の介入
2025年中頃
クリミア半島での自称クリミア独立政権による併合議決に伴い、ロシアは開放を名目とした制圧へと陸軍を送り始めた。そしてクリミア半島内のウレイナ軍の一部離反、ウレイナ軍が保有していた戦車や装甲歩兵戦闘車の強奪による同調したクーデター部隊の行動は動いたが、ロシア空軍による制空権の掌握と事が動くのはまだ些か掛かる。
地球の歴史ならばクリミア半島はとっくに制圧されているのだが、旧宗国領土での開発需要への対応とリビアでの活動によって国力がそがれている為これが第一の侵攻であった。特に旧宗国領土での開発需要は莫大であり、農地に港湾など景気を上向かせるエリアとなっていたからだ。そちらに労働力と生産力を回していたために、動き出すのが遅れに遅れていた。
地球ではロシアとウクライナによる戦争が発生し、世界のバランスは長年にわたって乱れ崩壊の危機的状況を何度も体験する事になる。幸いなのは本当に崩壊する事はなくなんとか互いに最後の理性的活動によって星間交易まで至る事が出来たのだが。
「武力を講じた併合や国境線変更など断じて認めません」
ミグラント国として断固として認めず、国連の議決や英国連邦議会の決定などを待たずしてミグラント国軍を送り込んだ。行動開始から大規模な輸送艦隊を編成していた。
待機させていた全兵力を単独でクーデター軍とロシア軍が合流予定地点であるクリミア大橋から西へ進んだバタノリエを起点に、大量の輸送機と輸送船、そして海岸から上陸艇を利用し物資や装甲車両などを陸揚げ、道路や地域を制圧し折り畳み金網を利用した土嚢によるヘスコ防壁や戦車壕の造成など勝手に行う。
ウレイナ及びクーデター側の了承など一切得てはいない。あらゆる権利を無視した行動であり、国際法にさえ従っていない。元より正式な議決を待っている間に、クーデター軍とロシア軍は合流し、議会の制圧と正当性を返答なと求めず世界に訴えるだろう。態々時間を無駄に浪費し相手に優位な状況を取らせる必要などないのだ。
「クリミア半島への侵攻、これは侵略行為であり即時撤退を求める。 撤退しない場合実力をもって排除する」
「これは民衆の自由へ向けた活動への武力弾圧行為だ! 我々は断固として自由の為に攻撃を行う!」
領空・領海侵犯、不法入国、挙げればきりがなく双方の国から遺憾の言葉と共にクーデター軍とロシア軍から武器が向けられた。それは中立であるがゆえに双方の敵であるという事、中立とは全ての味方ではない。あらゆる全てにおいて非常時さえも味方とならぬ純然たる敵である。むろんその完全な武装中立も裏ではある程度の勢力側への関係は結んでいるが、それはあくまで国家存亡にかかわる非常時における必要性に応じてである。
ウレイナとてミグラント国を味方とは認識しておらず、交戦地域周辺に住んでいるウレイナ国民からは明確な侵略者と認識されている。ただしあくまで民間人、銃器を持つ相手に何かをすることはなく、他の地域に避難する程度で終わってはいる。ミグラント国として後日の補償金の支払いはする予定ではあるが避けられぬことであった。
クリミア半島
クーデター軍及びロシア軍とは即座に交戦状態に入り、防衛ラインに迫るのはクーデター軍とロシア軍、榴弾砲や多連装自走ロケット砲を使うのはあくまで後手に回る。そして射程はほぼ同等であり相手の位置を正確に把握した側が先制をとれる。
UAV・ドローンが空を飛びまわり、標的情報を得る為に制空権を争っている。ミグラント国の防衛ラインの情報を得ようと空中を飛び回る自爆・偵察ドローン群はヴィッカーズマークスマン自走対空砲群により情報が届く前に撃ち落とされ、帯域を潰すジャミングによって制御も難しい。歩兵戦闘車CV9040も同じように英国版C4Iによる連携によって単装であるが40mm砲は歩兵とドローンを狙い続けている。
何よりも対空レーザーを搭載した大型車両群が網を張っている。流石に焼き切り墜落させるものではなくセンサー系を破壊する出力であるが、超低価格コストでドローンを破壊し続ける厄介な対抗兵器であった。
ロシア及びクーデター軍は迎撃されたドローンやUAVの最終情報を基にし、自走対空砲や妨害装置の地点へと攻撃を行う為に互いの射程圏内で停止し準備を始めたところに榴弾砲弾が撃ち込まれてくる。その為に十全の運用が出来ず損耗だけを負っていた。
GPS及び偵察衛星はロシア及び英国連邦のモノがクリミア半島上空を周回してはいるが、人間一人に至るまであらゆる諜報機によって現在位置を24時間体制で監視しているHITAKAMI、そして戦略・思考パターン・最終行動からの推測に従い射撃体勢を整え、動きが停止したと同時にポイントへと撃ち込む事が出来るために長射程では戦いにはならない。
ウレイナとロシアによる停船命令なども拒否し、輸送艦隊は構わず物資を運び込むのだが撃沈すれば問題となり、ウレイナでは輸送艦隊を追い返すには戦力が十分ではない。
ロシア側は初期予定以上の損耗及び戦力の運用は否定的であり、裏取引により担当責任者への期待率を下げられていることから黒海艦隊を動かすつもりなどなかった。そもそも15年前にキーロフ級二番艦フルンゼをミグラント国に売却したこともあり、利益も勝算も低い艦隊戦などするつもりは海軍としても毛頭なかった。
外交談話の中で売却されたフルンゼは2年かけて艦の構造や設備の重整備と再塗装が成されと話を聞いており、発注された大量の交換部品や互換部品規格の問い合わせなど、海軍や工廠としてもしっかりと整備が成されている事は理解していたし海兵の間でも話が伝わっていた。
そして交戦のない威圧行動としてミグラント国の輸送艦隊に近づいたところ、護衛しているフルンゼが視界に入ってしまった。遠目に見ても細部まで整備が行き届き、大切に使用されているフルンゼの美しい姿を見てしまい元乗船していた兵士や士官は嬉しさ反面戦意が萎えてしまっていた。
侵攻開始から一月
バンドカヌーン2/Cによる分間17発の圧倒的レートで撃ちだされる155mm榴弾は歩兵部隊を耕し装甲兵器を破壊もしくは機能不全へと陥らせ、トルコ アセルサン社製MCL多連装ロケット砲によって続いて行われる攻撃で人間が破壊される。大型トラックに牽引される牽引式連結ロケット砲システム。122mmとM270(MLRS)の227mmに比べて破壊力も射程も短い。
一方で搭載数が300発ものロケット弾を約2分間で吐き出し、集中させればたった1両で約5平方kmを焼き尽くし歩兵等を排除する。そしてその効果は絶大に上げた事で機甲師団に追随する歩兵などは意味を持たない。
それでも122mmと小さい為に戦車に対しては効果は薄い。もちろんある程度の損傷は与えられるが、小型であり対戦車車両向けではない。ならば最初から狙わず効果が大きい対象を多く巻き込むよう標的設定を行い、耐えられる対象にはそのまま進ませ倒せる物をぶつければよい。
戦車部隊が榴弾とロケット弾の中を突破した先では、最前線でじっと待ち構えるチャレンジャーⅢ RAである。
対するはずだったロシアが誇る最新鋭戦車T-14 アルマータ、試験運用及び勝利を刻むために持ち込んだ最新鋭ロシア戦車は、国境でもあるクリミア大橋の対岸に待機はしていたのだが交戦せずに引き上げていった。勝てる可能性はあるが、失敗して汚名が付くのを避けたためだ。最新鋭でありT-72・T-80・T-90のどれとも系譜の繋がらない新たなアルマータの技術を採用していると銘打った、最新装甲兵器の販売マーケティングを以前のT-72と同じようにするつもりはロシアに無かった。
代わりにアルマータから技術的フィードバックを受けた近代化改修済みのT-90MB及びT-80BXDを前線に出している。チャレンジャーⅢがスペック上では125mmに耐えられると言っても、数十発も耐えられるわけではない。一機一機が高性能でもあくまで5対1程度が限界であり、撃ち込まれている間は衝撃で照準のずれが発生し内部構造に負担がかかり最悪精密機器が故障する。それ故にロシアの津波戦術と、それに適した戦車群なのだから。
ウレイナ・クリミア解放軍 俗称クーデター軍
ミグラント国はロシア及びクーデター軍に銃器を向けた。逆侵攻へとなりかねない行動は是非もなく、全てを停止させるには現状で武力以外存在しない。そしてあくまで中立であり緩衝となる地域を勝手に指定しているだけであり、それをクーデター軍及びロシア軍が受け入れるはずもない。
そして民間人を装い出て行けと叫ぶ諜報員とそれに踊らされるウレイナ人も同じこと、周囲全てが敵の紛争地域、武力で無理やり緩衝地帯を作り上げ抑えつけているだけの状況だが、武力で一旦抑えつけなければクーデター軍の暴発もしくは侵攻は継続する。
すでにクリミア半島の政治的な面は親ロシア派に流れ、市民は汚職に絶望し自暴自棄にありどちらに行こうと変わらぬだろうと受け入れてしまっている。例え絶望によりロシアに行くのは何ら問題ではない。
ただし武力クーデターの現状である事が問題であり、そのためミグラント国が動いたに過ぎない。10年20年、長い年月をかけて平和的に分離独立併合という流れならば、良くも悪くも民意の統合でありそれは戦争ではないからだ。
ロシア側 第2機甲師団
T-90MBが配備されている機甲部隊は防衛ラインへと迫り、戦車隊に所属している人員は戦々恐々であった。確かにT-90MBはスペック上ではやや劣る程度とされ、数で勝るよう1台に3台で当たれるよう編成もされている。
しかしチャレンジャーⅢは宗国戦争以降も少しずつ改良が続けられ概要スペックは連邦内で公開されているが、RA仕様については一切情報がない。BAEシステムズで公開されている130mmライフル砲を一撃は耐えられるように増加装甲を装着したT-90MBであろうとも、本当に耐えられるかどうかのテストは行われていない。
射程においては優位な最大射程5kmの9M119対戦車誘導弾もあるのだが、コストの問題で今回は少数しか配備されていない。
最初に攻撃を仕掛けたのはT-90の戦車師団であった。撃ちだされた9M119対戦車誘導弾は戦車壕で待ち構えているチャレンジャーⅢへと迫り、爆発の衝撃音と煙が視界を覆う。
「命中は……だめです! 迎撃されました!!」
命中を確認できず、爆発煙が風で流れたあとには無傷のチャレンジャーⅢ群が姿を現した。砲塔には誘導弾やロケット弾ならば迎撃可能なBAEシステムズ製迎撃装置APS アキレウスが搭載され、数を持って撃ち込まなければ対処は難しい。その為のチャレンジャーⅡではなくAPSやドローンに対応した最新のチャレンジャーⅢなのだ。
一方で音速を遥かに超えるAPFSDS弾などは対応することはできない欠点を持つが、そういったものは戦車の装甲で耐えればよい。
「次弾APFSDS! 前進せよ!」
師団がさらに前進し射程に収めようとしたとき、衝撃と共に激しい揺れがT-90MBの全体を覆う。明確な攻撃を受けたことで砲塔内の計器類が破損し、貫通こそしていないが衝撃で内壁の一部が飛び散り戦車長が出血し死亡していた。
「無事か!?」
「だめだ! すぐ出ろ!」
戦車兵達は急ぎハッチを開き、戦車から離れた場所に退避し自らの車両を眺めて唖然とした。砲塔側面をえぐり取り、周辺に鉄の残骸をばらまいている。内部へと損傷をほとんど与えていなかったのは奇跡であり、共に行軍していた戦車群は砲塔や車体を貫かれ内部の人員ごと破壊をばらまいていった。
130mmライフル砲はBAEシステムズの販売品である以上、ある程度のスペックは公開されており、それを基準にT-90やT-80などの近代化改修型は増加装甲などが成されていた。反応装甲などを加えてRHA理論値は900mm以上、貫通力850mmと歌っているBAEシステムズ量産型のL41 130mmライフル砲のAPFSDS弾に耐えられるはずであった。
ただしミグラント国が自国製造し運用している物は、砲身材質・切削精度の向上による高圧化と炸薬増加と長身弾芯のAPFSDS-Mによって71%の貫通力の増加は知られていない。そもそも生産・運用コストが高過ぎてBAEシステムズがライセンス販売は先で良いと技術移転を謝絶し、砲身と砲弾の製造コストのバランスが優れた量産型がL41型で、ミグラント国の物は高コストのL52型にAPFSDS-Mと世代が異なる。
「あぁ、またやられていく」
「だめだこれは……、後方へ下がろう」
着弾と共に新型の爆発反応装甲が炸裂するも、構わず主装甲へと到達し内部構造を力ずくで破壊するそれは、紛れもなく対峙する相手の戦意をへし折る暴力の象徴である“戦車”そのものであった。
数発耐えられたのならまだ戦意は保ち数を持って攻められた。それが高価な対戦車誘導弾ならいずれ尽きると無理な命令を下す事が出来た。
それが数を相手にすることに適した戦車砲弾が一発撃ち込まれるだけで擱座していく、それは悪夢であり防衛ラインに固められたチャレンジャーⅢ RAは凶悪な物であり、過剰な損耗を避ける為に一旦停止命令を下すのは当然であった。
そして広大な防衛ラインを歩兵戦闘車や歩兵などが迂回をするなど当然の事、かならず戦車が配置しにくく防衛が甘い場所は現れる。そして意図してその場所が設定され、そこには厄介な物が巡回している。
「クラカヂールだ!」
「狩られるぞ! 下がれ下がれ!」
ロシア軍はソレを良く知っている、知り過ぎている重火器搭載量が多い重武装ヘリ ハインドRが飛び回り歩兵装甲車狩りを始める。6か所全ての武装ラッチに装着されたハイドラ70ロケット弾が弾薬費など考えずにばら撒かれ、周囲の構造物や地面などと共に装甲車両及び人間を粉砕する。
重装甲である為車載等の12.7mm機関銃ではまったく牽制にもならず、自走対空砲など旧式兵器は前線に配備されていない。携帯式地対空誘導弾ならば対応できるが、ロシア兵器であるハインドには設計段階でフレア等が組み込まれている。使用する事でフレアなどチャフを使用させ退かせることはできるが、全ての戦域に対して大量配備など予算がいくらあっても足りない。限られ指定されている制圧予算で高価な携帯式地対空誘導弾など限られた数しか保有していないのだ。
「手が全て読まれている。 分かってはいたが諜報能力だけではなく我々の戦術を熟知され、全て対応がされてしまっては現状の戦力では何もできん」
機甲師団司令部ではどうしたものかと司令官が頭を抱えていた。数の戦略が通じないのではなく、理解され封じられている。点ではなく面で攻撃を叩き込み地面ごと耕し尽くす砲撃とロケット弾、重量の問題で逆侵攻は不可能であるが戦壕に籠る重装甲戦車群、そして連日輸送機が飛来し空中投下していく物資、ミグラント国が防衛に関して本腰を入れている事を現場サイドは理解していた。
対応するには物資と人員が必要であり理解している現場担当官は上申するのだが。
「増援の回答はどうした」
「全て却下されております。 現状の戦力のみで対応せよと再通達がありました」
政治的な問題はすでに終わっている。現場サイドは担当者がすでに損切りされている事など知らず、命令に従っているだけにすぎない。命令通りにクリミア大橋を渡ったがケルチから西20kmの地点で完全に抑え込まれ、大橋は渡れる上に物資も運べるのだが、今回の侵攻命令に対して予定されている物資及び人員の損害数を越えてしまえば指揮遂行能力が疑われ、失敗した時と同じだけ現場の指揮官や参謀はのちに処分が行われるだろう。
そしてあくまで陸上戦力のみに限定している事も、西側との大規模な戦争に発展する事を避けるロシア政府は空軍と海軍は物資輸送と偵察以外には従事していない。これはあくまで商業的意味合いも含めた併合作戦、大規模な戦争による国力低下など望んではいないのだ。成功すれば併合、失敗すれば司令官を処分しさらに工作員を送り込む、ただそれだけのこと、大国とはそういうモノだ。
ウレイナ側 クーデター部隊
正規軍から離脱した離反兵及び工作員によって御されているクーデター軍。
ウレイナにとって虎の子である強奪されたT-84戦車の砲身はミグラント国の防衛ラインに向けられており、対峙しているのはチャレンジャーⅢ RAではなく、カイゼリンティーガーとT-80CO/M。カイゼリンの販売時に世界各国へと発表されたコンセプト“撃って来たものは殴殺する”、それは戦車壕という存在前では極めて強固な砲塔だけを晒しているため厄介な代物であった。
例え離反兵でも元は正規軍の戦車兵、過剰なまでに分厚い重装甲のために125mm滑腔砲の砲弾が通じない事くらいは理解し、離反ゆえに保有数も少ない対戦車誘導弾を使うには数が多く守りが硬すぎた。
そして重装甲であるが故に動きが鈍く戦車壕の無い地点を狙うが、そういった地点をカバーするのが機動性と装甲と火力のバランスが取れている主力戦車である。
T-80CO/M
T-80UDにチョルヌーイ・オリョールの技術情報をフィードバックした最新型、ロシアの戦車競技会に時折参加し、それなりの結果を出していた。
T-80UDをベースに車体の改良・最新の砲塔に換装、開発中止及び倒産であったために一部の技術者は歯噛みしていたが、設計の正しさの証明であり予算を削った政治部の部署や当時の責任者は首を括られかけている。現在針の筵で済んでいるが、事によっては無能の烙印を押され左遷される可能性が高い。
そしてウレイナで運用し一ヵ月、現在開発予算を削るなど不採用と判断を誤った政府の技術責任者は情報を得てから左遷されている。処刑されなかったのは予算配分の決定は政府判断であることであったが為であったが、十分な研究体制の構築と人員配分を行わなかった点を追及された為だ。
50トン未満に抑えられた軽快な機動性・安定した高出力ディーゼルエンジン・西欧型の大型砲塔と弾薬保管及び装填システム、それは工廠の技術者が必死に考え国家に貢献する為に設計し揚げた結実である。
もちろんその設計思想や技術は最新・高性能なT-14に受け継がれている為完全に無駄であったというわけではない。だがそのT-14も価格の高騰化によりロシアでもハイクラスのT-80系列の後継機として入れ替えが進まず、T-80系列のさらなる近代化改修と発展型の計画がなされていた。
ミグラント国では鈍重で戦車壕を利用した防衛向きのカイゼリンティーガーの代わりに、自在に防衛ラインを機動する役割を持っている。もちろんしっかりと防衛ラインを敷いていない場所にはハインドが飛び回っているのだが、少数のクーデター軍とはいえ戦車部隊を相手にハインドを出すより、迅速かつ発見の難しい歩兵を狙った方が効率に優れる。
ミグラント国が指定している防衛ライン、T-84のほとんどは部隊隊列を組んでいるのだが、陽動であり道なき道を進み防衛ラインを越えようとしている一台がいた。しかしラインを超えたクーデター軍のT-84に警告もなく120mmライフル砲弾が放たれ、相対した直後にT-84の砲塔に当たる。しかし爆発反応装甲によって減衰した弾体は装甲を貫くことなく弾かれた。
クーデター軍のT-84が道なき道を進んでいる事は確認しており、極めて軟弱土でも迅速な機動が出来るT-80CO/Mが先んじて防衛ライン上で待ち構えていた。
「応射しろ!」
戦車長の命令に戦車兵は砲照準システムにより標的たるT-80CO/Mに向けられる。
「標的よし」
「撃てぇ!」
応射として撃ち放たれたT-84の125mm滑腔砲弾がT-80CO/Mの砲塔に直撃し、増加装甲の爆発と共に一部が砕けるものの実装甲を貫通することなく弾き飛ばされた。互いに決め手に欠けるのはそのスペックが非常に酷似していることが原因であった。
T-80CO/Mが搭載しているのはL33 120mmライフル砲、タングステン製APFSDS弾とはいえ最新の戦車の装甲を一撃で貫けるわけではない。T-84の爆発反応装甲によって減衰され弾かれてしまい、追加装甲が弾けた箇所にもう一度撃ち込めば擱座はさせられるものの、動態に対してそこまで精密砲撃を出来るものではない。
T-84の装備する125mm滑腔砲のタングステン製APFSDS弾も、BAEの輸出用とはいえ増加装甲はしっかりと設計された複合装甲と空間装甲と爆発反応装甲を重ね合わせたモジュラー構成品、それは確かに125mmAPFSDS弾を弾けながら防いでた。
「っ。 砲塔に再度被弾!」
「これ以上はまずい! 後退、後退せよ!」
再び120mmAPFSDS弾の着弾によってT-84の砲塔正面近くを守る増加装甲の4割を失い、継戦は擱座へと繋がると判断し撤退していくT-84、政治や思想ではないあくまで利があるゆえに起こしたクーデター軍、工作員ならまだしもほとんどが利益だけを求めた離反兵であり、死ぬまで殺し合えるほどではない。勝てないと分かれば安全のために引き上げてしまう。
緩衝宣言されている地点までクーデター軍の機甲部隊は下がり、軍の仮設整備場へとT-84は運び込まれる。
「なんとかならんのか」
「無理だ。 爆発反応装甲とはいえ現地改装ではライフル砲を一発耐えたら終わり。 使用した部位は張り替えられるが、それも現地交換で何度も出来るわけではないんだ」
脅迫され従っているとはいえ、ウレイナ軍の整備士は破損した爆発反応装甲を交換し、一応の回答として耐えられるのが一撃限りであり、半モジュール構造と言っても爆発反応装甲を何度も付け替えられるわけでもない。
公開スペック上ではウレイナのT-84とミグラントのT-80CO/Mは差はほぼない。設計思想や構成はほぼ同様、溶接砲塔に複合装甲の使用に増加装甲の採用など、140mm滑腔砲が搭載可能な構造などまでよく似ている。T-84は全高と全幅を増やし、COは全長を主に増やした。
あくまで給弾構造とFCSシステムにエンジン、そして基礎構造材の違いが主に過ぎない。性能もほぼ同等でありただ数、そして戦地における運用の違いにすぎない。
速度に優れる歩兵戦闘車も動こうとはするのだが、狙ったように面攻撃の榴弾砲とロケット弾が降り注ぎ、軽装甲であるために容易く破損し身動きが取れなくなってしまう。
「どうすればいい。 相手はこちらの手を十全に理解している上に、戦力もまったく足りん」
責任者は苦悩の元にどうにかミグラント国が設けている緩衝地帯の突破もしくは破壊を行おうとするのだが、ただでさえクーデター部隊であるために人員と数が少なく、すり潰すような手段が取れるわけもない。まだ戦車ならば追い払う事を兼ねている為に一発か二発の迎撃で終わる、よほど無理な侵攻をしない限り撃ち込まれた時点で引き下がりさえすれば人的物的損害はほとんどない。
ただし、歩兵などで疑似緩衝ラインを越えた者は、24時間無数に飛び回っているドローン及びUAVによって発見され、容赦なく地面ごとロケット弾か榴弾砲によって耕される。
悪意には悪意を、敵意には敵意を、銃弾には榴弾とロケット弾を、領域を侵すものは全て敵としてだ。
また別件としてクーデター軍を率いている工作員にはロシア兵器輸出公社から攻勢を控えろと達しも届いていた。
ロシアとしてもミグラント国相手は若干やりづらさもあった。T-80CO/Mはオムニスク工廠で開発されていたT-80Uの発展型であるオブイェークト641(チョールヌイ・オリョール)そのもの。英国製部品こそ使われているが、紛れもなくロシアの最新鋭であったはずの戦車であり、その設計思想の正しさとロシア人技術者による結実、旧式で潰してしまえばT-80の価値が落ちてしまう。そのうえ相手は競合とも言えるT-84、政治的にはクーデター軍の勝利は欲しいが、今後のT-80系列の販売実績というものを考えればロシア兵器輸出公社としてT-80CO/Mに擱座はして欲しくはない。
ライセンスの都合上とはいえ、外交取引の関係でT-80CO/Mの概要スペックは一般公開情報よりも詳細であり、T-14の高騰化に頭を抱える軍部としてもT-80の正式発展型としての部分的採用も一部考えていた。
既存の設備や既存車両を改修流用できる事から価格を抑え、性能を向上させられるのならばすでに完成しているT-14の技術フィードバックを含め高性能化にも期待できる。
政府の意思・軍部の司令・兵器輸出公社、その三様の意見に現場は振り回され動きは鈍ってしまっていた。
国連
第三国の介入は政治的な問題であり、現場ではなく国際社会へと主力の戦場は移ったと軍部は判断、外交部が対応すべきこととして現時点以上の損耗を割け行動を停止した。
「ミグラント国は生産性のない戦争という行為が嫌いです。 ですが、当国と戦争をするのなら絶滅するまで狂乱して見せましょう。 両国はその覚悟を相手にする準備は宜しいですか?」
議会においてミグラント国の行動をロシアとウレイナが問い訴えるも、回答は宣戦布告ならば受け、自国が壊滅するまで如何なる手段を講じてでも、戦争を止めるとの宣言に近いものであった。
それは人工衛星を持つ米国と英国が確認しており、全ての艦隊が稼働状況かつ弾道弾の発射設備への移送、そして戦術爆撃機の滑走路への移動などが映像として記録されている。それは紛れもなく正面戦争の準備がすでに整っており、いつでも即全面戦争状況に入れるという事であった。
【平和を維持するとは即時戦争が出来る状態の軍備と兵站を整えていることである】
常々ミグラント国が発言していた。それを裏付けられるだけの行動を起こしている、そして推測ではあるが武器弾薬の製造も準戦時体制へと人や物資の流れから予測されていた。
何かしらの切っ掛けさえあれば動ける体制、英国連邦として抑え込むために会議での議決を急ぎ、戦争に関わる行動の抑止を求め英国連邦から退役予備兵器の保管をしていることから使用停止を求めた。
英国連邦として預けられている予備役兵器の使用停止を求める事は可能である、そして契約に則り英国BAEから購入した一部兵器の運用停止もできる。だがミグラント国が独自に入手しているものに対して難しいところであり、今回の行動名目は戦争抑止であり各国の独自行動に対して強制権限を連邦は持たない。
連邦の議決という強制権を持たない採択ではあるが、従わずに独自行動によって何かが起きた場合において英国連邦は責任を持たないということでもある。一方で採択に従うならば英国連邦という国家群の総意として利害調整と共に世界への対応を行うという事でもある。
「ミグラント国の行動は余りにも国際法に反している」
「英国連邦の平和への憲章にも反すると判断できるのだが」
「しかし、クリミア半島における議会はすでに制圧され、民意などなきようなもの。 一旦国連管理下とすべきでは?」
クーデター及び侵略と思われる行動を停止する為の軍事介入、それはベトナムに置いてミグラント国が過去行った事であり、国連にも記録されている実績というものがあった。そして英国連邦としてもグレナダ軍事クーデターが発生する前に部隊を派遣し、汚職や腐敗の浄化を行ったと連邦での実績もある。
国際法に反する民間人への暴力行為への停止及び略奪行為の禁止、ウレイナ政府もクリミア半島の親ロシア派による行動とクリミア議会制圧は否定しているのだが、ウレイナ側からクリミア半島への軍の制圧部隊は半島へと至る道で停止していた。国連に軍事行動を止められていることと、ウレイナの政府機関にも入り込んでいる売国奴の政治妨害によって動けずである。最終的には英国連符では停止を求める議決が行われた。
「ミグラント国は早急にクリミア半島から部隊を撤退させることを求める」
そして議決内容はミグラント国へと回されたのだが。
「侵攻及びクーデターの終息後に撤退させましょう」
条件付きでの受領によって連邦議会では穏当な手段ではこれ以上の手がない。次は英国連邦議会によって連邦軍の派遣を議決した武力介入だけである。ただし、英国連邦軍において軍事の一角を担う国家である以上同士討ちは悪手であることに違いはない。穏当であるようにと外交を用いて動きながら、英国連邦軍を動かせるよう準備を進める。




