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59.2025年 戦争への前章

 前期

 ネットワークメディアという人間がほぼ24時間いつでも閲覧可能な世界を掌握、最後の神候補は上手く世界が滅びないようにと世界規模での世論を操作し、その術は広がり有力者や有名人などに対して発言を誘導するなど尽力している。地球の歴史と異なるが世界の安定という形を作り上げていた。

 世界の状況は安定期に入り、小規模な紛争は起きているが大規模な物は発生していない。対テロに関しても、互いの利権を守る為過剰な破壊や虐殺は発生しておらず、また宗国の裏切りで各国の組織が極めて弱体化したこともあり再構築の最中であることから静かであった。

 どの大国のバックアップも受けていない小規模な武装組織程度では、G7に入り込みテロ行為を行えるほどではない。ただし、ロシアだけは異なった。宗国戦争で正しさを証明したことで国内及び共産主義が世界へと広がり、再びソヴィエト連邦を作り上げる為の土壌が少々出来上がっている。


「同胞へ行われている人道から離れた行為への停止を求める」


 ウレイナの政治は汚職の蔓延が酷く政治は乱れ、そこに住んでいる元同胞が自由を抑圧され困難な状況であると。それでも軍事的開放を求めるほどではなかったが、不法入国や工作員の手によって州議会の制圧と、同時に工作員による手引きで不法入国及び移民となっていた人々によって戦車など装甲車両の強奪によるクーデターを起こした。

 そしてロシアへの帰属を求める住民投票実行を州議会へと提出を行い可決させた。残念ながら民意という意味では期待すべきものではなく、すでに金銭に脅迫だけではなく移民投票や議会への賄賂などまともな投票などありえない。それはどの国から見ても明白であるのだが、宗国戦争終了に伴い正面装備は削減方針であることに違いはなく、定数を減らしかつ弾薬の製造量を減らす事を決定したばかり、方針転換をするにも製造ラインも閉鎖に向けた体制に切り替えていたために現状では在庫から対応するしかない。


「住民投票の平等性に疑問電が多く、国連管理下における再投票が終了するまで併合を認めません」


 国際社会としてクーデターによる不確定性の高い住民投票を疑問視し、国際連合管理及び監視下に置いての再投票及びクーデター軍の解散を求める議決を起こすしかできない。これが最大限であるのだが、そんな状況で冷や汗を流している者達が居た。


「連邦内で発生せず助かった……」

「……起きないよう情報の再精査を」

「武力行使だけはさせぬよう、民衆の声の引き上げ度合いの調整を。 過激派の再調査をさせる」


 小声で話すのは英国連邦に所属する途上国である。英国連邦内でこの事態が発生していたのなら、ミグラント国が軍投入しクーデター軍の制圧と該当政府の政治組織のつるし上げ、そしてそれを諮った者達をまとめて公的及び裏社会から排除されていたことだろうことを理解していた。

 一方でロシアも旧宗国から得た地域の開発によってインフラや建物の建設に、農地作りに艦隊の増強などで余力はほぼ無い。それは米国など現状制圧している各国も同様であり、治安の為に意図して厳しく施行した法律に則り、犯罪者として巨大な刑務所を建設すると次々と人を放り込み人を減らしていった。

 思考の違いによる法律を守る事が難しいためであるのだが、もちろん理解と行動共に出来る者達が大半であり、何も変わらず生活している人達が多数であることから問題視はされていはない。

 世界的にはあくまでまだぬるいものであり、世界中の人達の怨嗟の声はいまだ大きい。核施設攻撃とウイルス兵器製造はそれだけの怒りを買ったということもである。

 映像に記録された、火葬場の処理が間に合わず大量の死体袋が山と積まれた後継、この惨状から半世紀もまだ経っていないのだ。



 ロシア連邦 大統領官邸

 現大統領ソメイノフは執務室で報告書に顔をしかめていた。


「急ぎ過ぎている。 これでは欧州が黙っているはずがないことが分からないとはな」


「予定日より大幅に繰り上げが可能であり、実施すると連絡が起きておりますが。 如何なさいましょう」


 確かにクリミア半島の併合、最終的にはウレイナの連邦化はロシアの目的ではある。その為に15年も前から工作員を移民としてクリミア半島に送り込み着実に準備を進めていたのだが、前任者が急病で亡くなったため新任となってから進行が速すぎる。

 責任者が功を焦り工作員によってクーデター軍の編制に兵器強奪を行ったと、秘書官から渡された書類にも繰り上げについての理由が記載されていた。

 確かにソメイノフは年齢的に引退は近く、次に大統領に選出されるときには大きな実績があるものが良い役職に就く。クリミア半島併合は大きな実績となり、大統領とはならなくとも政務に関して重席ともいえる立場は得られるだろう。


「例の所からアタッシュケースが届いています」


 秘書官が運んできた黒いアタッシュケース。それは歴代大統領のみが持つ専用のカギで開くアタッシュケースであり、時折特定の場所に送られてくる物であった。本来であれば開封し危険性を専門部署が確認するのだが、長年の実績から問題ないことも届けられたルートも分からないのだが、ミグラント国からであることを示すマークが入っている。

 無言で執務机の上に大統領は置くと自らが持つ鍵でゆっくりと開ける。中の書類に記載された現政府組織内における政敵の情報、そして作戦繰り上げを行った担当者が行っていたサボタージュと汚職情報、そして国費を使用した海外へ無断で多額の個人資産形成情報、つまり対価として先払いするため妨害行動は黙認しろとのことであり、情報提供の内容と現侵攻作戦のリスクを秤にかけた。


「ふむ……、今回の作戦は大統領府はこれ以上感知はしない。 指定済みである予算と人員内のみであると担当部署に通達せよ。 増援も物資の追加も許可はしない」


 損切、自らの政治基盤を優先しクリミア併合を急いだ担当を斬り捨てる判断を下した。世界に対し政治的勝利を得られたと発表できる段階で作戦を終える、もちろんこのまま好転した場合は担当者の実績であるが、国益及び大統領府に損となりえる問題が発生した場合は斬り捨てる。

 そして成功する確率非常に低い、何せ諜報部現役時代では散々辛酸をなめさせられ、政敵の詳細な汚職情報を大統領府内に手軽に送り込んでくる相手、作戦内容や工作員さえ当然ミグラント国は知っているだろう。



 ウレイナ国

 クリミア半島へと向かうロシア側の大橋に陸軍が集結しており、ウレイナ政府は強く停止を求めているのだが世界が非承認している州議会によって強行された議決によりクリミア半島はロシアへと併合されることを望み、ロシア派軍による解放作戦に向けた実行を移した。

 いまだクリミア大橋を渡っていないのはあくまで威圧であり、ウレイナ軍が動いた場合の牽制であり現状では侵攻の予定はなかった。

 なにより正規戦で対応するための戦力などウレイナにはない。兵士も足りて居なければ、横領や汚職によって軍隊として力は大分乱れそして裏切り者も多い。

 現政府の代表は汚職に否定的であり、協力政党がない中で民意を集め大統領となった。前歴が俳優兼コメディアン異色でありながら法学部を出た若い人間で、汚職を取り除くことに全力を尽くしており、さほど国民から期待されていない中でも徐々に成果を出していた。

 もちろんそのような事をすれば既得権益が多勢を持つ中ではあまり動けず、僅かずつしか成果を出せていなかった。軍も汚職の浄化中であり三分の一程度動かせない現状だ。

 そんな人間が上層部に出てきたからこそ、ロシアの担当部門は併合を急いだというのもあるだけに何とも言えない事であったが。そのような事ロシアにとって想定内の事であり、だからこそ工作員を態々移民として入り込ませ、民意操作という形をとっているのだ。


 米国の諜報機関では捉えられていないが、英国諜報機関は少しながら汚職や裏切り者についての情報を捉えており、英国政府としてウレイナを支援したがらない理由でもある。

 現在世界で最も恐ろしく根深く暗い所まで諜報力を発揮しているのは英国連邦となっている。連邦という形で巨大化し多国籍化したこともあり、言語や人種の多様化によって諜報員を各地に送り込みやすくなったためだ。

 その一つとしてウレイナ軍にも少数ながら入り込んでおり、兵器の横流しや部隊運営費の横領など中々の状況であり、クリミア半島の部隊においても兵器の引き渡しなどしていたほどである。



 英国連邦 議会

 基本不干渉であり戦力を送るまではしないという判断に達している。あくまで東側と旧東側国家の争いであり連邦所属国家に隣国も存在しない。その為に連邦国家の繁栄のほうが重要である。

 英国連邦軍の派遣には極めて否定的であり、物資の提供程度で済ませるべきという形で収まっていたが、汚職している人材の物理的排除を提供への第一条件として定められた。


「軍部の汚職により、援軍を出したところで意味はありません。 連邦として支援は不可能です」

「政治家の横領と政治的売国行為の停止を求めます。 現時点では支援をしたとしても情報が洩れるだけでしょう」


「しかし、兵器の支援がない限りこのままではクリミア半島を事実上奪われてしまう! 早急な支援を!」


「変更はありません。 汚職及び売国奴の排除が終わるまで、英国連邦は支援をいたしません」


 せっかく提供した物資を横流しされては意味がない。傭兵部隊レーヴァンを派遣したとしても、まともな組織体制でなければ無意味な死が待つ。その為に物資提供も傭兵部隊の派遣も出来ない。

 それは悪魔の取引でもあるのだが、政治から軍部に至るまで20人以上の名簿を所持しておりそれを最低限の交渉の材料としていた。ミグラント国は軽く100人を超える名簿を持っているのだが、正確な情報は実際には必要はない。最低でもこれだけの人員は排除せよと英国連邦の条件とすれば、それ以上に動かなければ十分な支援は得られないのだから。

 英国首相としても派遣という形を取るには英国の民意も連邦の総意、その二つが揃わなくては動く事も出ない。

 そもそも米国は支援に否定的であり、自国の軍が直接動けば第三次大戦になりかねないと考えてもいる。英国にしても本国軍が動けば大規模な戦争になりかねないが、英国連邦軍の一部隊や傭兵組織レーヴァンならば危険性は低い。

 国際社会の治安維持や平和維持活動に部隊を供出しているからこそ、それは戦争や侵略ではなく平和の為と言い張れるからだ。むろん英国本国軍も英国連邦軍の一部であるため、英国連邦軍隷下にある英国軍を出す事は出来る。


「武力による併合など認められることではない。 しかし国際決定がなされるまでに手を打たなければ、手遅れになってしまうだろう。 誰かが動かなくてはならない事を皆には理解してほしい」


 ミグラント国が独断で動く、それを止める事も出来なければ最後の行動であるということも理解し、英国王室も許諾と共に支援に向けた世論への理解を求める声明を出すに至る。

 もちろん王は君臨すれども統治せずの原則に従い、上院下院議会に対して王室は何も発言はしない。あくまで王室として国民に対し、支援をすることについて理解と協力を求め、それに応えるかどうかは国民に委ねる事であるが、長らく民意を統合し続け相応に理解を得られるだけ英国と連邦内で尽力し続けたこの星の英国王室、それは強い意味を持っていた。



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