57.無差別陸上制圧戦
米国主導部隊が徐々に西へと制圧範囲を広げる中、英国連邦は一歩ずつ進めている。香港を独立国として連邦への加盟を準備をしつつ少数ながら地域の代表などを選別し、軍の編成や外交による弁によって周囲の住民を味方にすることに注力していた。
香港は宗国においても長年政治的手法も異なり国民性も大きく異なる。周辺との軋轢はあるにはあるが、それは法律の違いによる“自由”への憧れが原因ともいえた。同じ状況にすぐになれなくとも、苦労はあるが自由への道が開かれるとなればそちらに動く者はいるが全てではない、現状でよいと武器を取り抵抗はもちろんある。
だがそれは英国連邦にとって都合がよい、武力によって自由を望む民意を抑えようとすれば、ますます香港や諸外国の自由への望みは強くなり、解放に向けた武力侵攻を容認しやすくなる。
その為に態々危険を侵し最初は言葉による対話を試み、時間をかけて双方の意見の違いによる軋轢と爆発を誘発させ、自由を求める層が多数になった時に英国連邦は侵攻を行っていた。
「あっけないですね。 銃を向けたら頭を下げて隙を見ては逃げるばかり」
「軍人ではない以上、正規軍を相手になにもできないのだろう。 分断しゲリラ化も出来なければな」
英国連邦軍にバングラディッシュとガーナから派遣されてきた隊員は戦闘によって破壊された建物の瓦礫処理作業に当たっている。これは治安維持の一貫であり民心慰撫でもあるが立派な任務である。
「どこもそんなもんよ。 宗教民兵ならまだしも、利権民兵なんぞ基本責任より自己利益優先、てめぇで稼がねぇと弾代どころか酒代も足りねぇ」
傭兵組織レーヴァンは英国連邦に雇われ大規模部隊が活動に参加している。英国連邦から派遣されている外交官や国際司法裁判官の護衛を受け持ってもいるが、治安及び情報収集として巡回もしており最近供給されたBAEシステムズ製ウォーリア装甲偵察車のハッチから上半身を出しながら声をかけていた。
「雇われの俺達が言うのもなんだが、利権と金狙いの雇われは危うい。 簡単に味方になって簡単に裏切り、自らの犯罪行為を雇い主がした事にする。 安いからと言って奴らを間違っても雇うなよ」
笑いながら話すレーヴァンの傭兵の雇用費は決して安くはない。だが金で雇える最高の兵を標榜し、そしてそれに見合う知識と軍事力と規律を持つ、そして英国からのバックアップによって情報も多くあり、戦地や他の傭兵については他国の一般兵よりも詳しく信憑性が高い。
「そんなにやめたほうがいいのか? 時折雇ってくれと来るのもいるが」
「おう、やめときな。 信用を金で買えるのはうちだけだ。 商店の復旧などさせてみろ、無事な品物を懐に入れるわ宝飾品は盗むわで軋轢になるだけだ」
壊された商店などの普及を手伝いながらも治安維持活動を行うのは新兵に近い一般部隊、国境となる地域は英国連邦軍の中でも経験豊富な部隊が担当している。それでも攻めてくる部隊に対して全く被害がないわけでない。
前線
正式採用さればかリのチャレンジャーⅢ Mk.2、さすがに全域に防衛配備できるわけもなく、香港に至る主要街道の防衛に回されており、高性能ではあるが侵攻作戦の前線には立っていない。
街道へと迫る宗国の00式戦車A型から125mmAPFSDS弾が撃ちだされ、チャレンジャーⅢの正面装甲をある程度削ったところで貫通力を喪失し、明後日の方向に弾き飛ばされていく。
「4号車、内部システムに問題なし」
「攻撃を受けた。 応射せよ」
5台による同時砲撃は統制システムとFCSによって制御され、3台の00式戦車と2台の05式歩兵戦闘車 歩兵戦闘車へと割り当てられる。
統制システムに制御され各々別の標的である00式戦車へと砲身が向けられ、130mmAPFSDS弾のタングステン弾芯は一撃のもとに装甲を破砕し、内部へと到達し戦車兵を殺傷し電子システムを破壊。120mmや125mmなら一撃は耐えられただろう装甲も、25%以上貫通力が増強している130mm弾が相手では分が悪かった。
「支援砲撃、着弾まで10秒」
機甲部隊の上空を越え、標的付近に着弾していく榴弾砲の爆発は戦車の排除後に侵攻する歩兵部隊を狙い、AS-90ブレイブハートの砲弾は統制システムによって指定された地点へと155mm榴弾を降らせている。
「弾着確認中」
「敵部隊は後退を開始した。 攻撃を継続せよ」
送られてくる統制情報に従い、少しずつ行俯角及び方角を修正しながら続けられるのは砲撃だけ。
多連装ロケットシステム通称MLRSは運び込まれておらず、最前線で米軍によって運用され宗国軍の兵を耕し続けている。しかし消費量も多い事から供給がギリギリであり、米軍にMLRS向けロケット弾の生産ラインを奪われている事から英国は榴弾砲を主に使用していた。
「状況確認中」
偵察ヘリによって機甲部隊及び歩兵部隊の状況、そして撤退や部隊崩壊によって散り散りになっていく武装犯罪者集団の動きを追跡、完全に停止し動かなくなるまで数発撃ち込まれ、歩兵によって内部確認が行われた後擱座として処理が行われる。
「状況終了。 偵察部隊から残存する部隊は確認できない」
連動するシステムは偵察ヘリや偵察部隊からの情報も含まれる。問題は戦術統制システムが大きい為に個々で演算機を搭載する事は出来ず、中陣に配置されている大型トラック型装甲車に搭載された大型機器によって管理され通信しているに過ぎない。デジタル写真とGPSデータを元にすることもあるためにどうしてもある程度の人の手を介した入力が必要だ。そして後方司令部まで繋がり、状況を判断する統合戦術システム。
「現段階において周辺に敵対戦力なし。 警戒状態へと移行し機甲部隊は待機せよ」
北西から侵攻してきた部隊、宗国の正規軍ではなく物資をかき集めた一つの地域の軍に過ぎない。武装とて近くの軍事基地から強奪した物であり、軍人も正規ではあるがすでに離反兵でありあらゆる手段を持って賛同した人員による非正規部隊、香港に隣接する都市を制圧し利権を得ようとしたのだが、そもそも交渉になるはずもない。国連という巨大組織と一つの都市を制圧する軍では、対話するための格そのものが異なる。対話や交渉など、誰でも対等と誤解している者は多いが、実際には力関係は確実に存在している。
「補給部隊は一時間後に到着予定。 先行して交代部隊が30分後に到着する」
少しずつヘリによる偵察と歩兵部隊の連携によって掃討は進み、安全と共に領域の制圧は確実性を増していく。元々香港に住んでいた人達の政治を主流に、取り込まれることを選んだり残った人達を纏め上げようと試み、思考の違いによる混乱と共に宗国政府か香港政府か帰属の選択に迫られていた。
常に更新される情報は戦車や装甲車に通信が行われ、そこからさらに歩兵部隊へと伝えられ連携によって体制を整える。最新統制システムは先進国では当然であり、宗国でも搭載されているのだが飽和状況では十全に力を発揮できていなかった。
そして米国が本格的に侵攻している為に正規軍は防衛に必死である為に奪還する余裕などはなく、宗国正規軍から離れた軍閥による独断行動に過ぎない。そもそも露は降伏を一切認めておらず、米国側になびこうとするも、西側は全ての武力放棄などが条件であり軍閥は新たなトップに立つ為に武装放棄などするわけがなく、合流しようと試みた部隊と戦闘になるだけであった。
2018年末
原子力発電所へ宗国兵士による自爆攻撃が行われた。世界各国によって完全に制圧され周辺地域も抑えられ、生物兵器及び核兵器はすでに奪還し国外へ運び出されてはいるが動かせない原子力発電所へ、少数による強行突入によって車両に爆薬と爆弾を満載した特攻を行った。
幸い防衛に当たっていた多国籍軍の部隊が甚大な被害を被ったものの、原子力発電所への攻撃そのものは防ぐ事に成功していた。しかし原子力発電所への攻撃は世界的危機を招く、そしてそれを実行したことによって手を引かせようとする悪手であった。
「以上が現状把握している情報となり、国連において制裁決議に向けた協議を提案いたします」
「原子力施設への攻撃は国際条約違反だ!」
「これを許していては、世界は核に汚染されてしまうぞ!」
G7主導によって原子力発電所への自爆攻撃の情報は世界に公開され、三か月の議論の末広範囲大規模破壊爆弾による爆撃が許可された。あくまで今まで行われていたのは一般爆弾による絨毯爆撃、それも軍事に関わる範囲が指定されていたが、軍民問わずの大規模破壊が 承認 されてしまった。
それは戦争ではなく虐殺に近しい、そしてそれは一つ間違えば世界の終焉に向かうために、神候補による世界世論へ冷静を保つように世論操作をしようとネットワークメディアなどを駆使してる。
「これは世界環境に対する宣戦布告だ!」
「人類を絶滅させるだけの行為を決して許すな!」
それでも過熱している世論は冷静になる事はせず、自国に住む元宋国人への排除運動や弾圧など状況は悪化しかけている。あくまで国を捨てた者達が大多数であり、すでにスパイや工作員と思われる者達は各国で強制送還されている為に、なにかしら意図があるにしろ宗国の国籍を捨てた移民なのだ。
ただし、原子炉爆発による放射能汚染は世界へと広がる。それがある程度の技術によって爆発しても拡散が抑えられるここ5年以内の型式や同様の対策改修が行われているならまだしも、狙ったのが旧式かつ爆発時への対策が不十分な物であったのが悪かった。
廃炉に向けて核反応を抑えるなどの欧米の技術者が対応している中での攻撃、宗国とてその原子炉が爆発した場合のリスクなど知っており、季節風と合わせて西方へと流れる気流と合わさる最悪の時期、軍閥ではなく正規軍が命令によって行ったことが、原子炉暴走を狙った交渉という最悪な行為を世界が許さなかった。
B-52 ストラトフォートレスによって運ばれる戦略爆撃による大規模爆撃。そしてすぐ近くではTU-95の編隊という本来ならばあり得ない状況であるが、それだけの数による爆撃は同時多発的に全域で行われた。
どの国も爆弾を分解廃棄する費用を払うならば、ここで使用して廃棄することを選んだということであった。それは無誘導であっても狂ったような数の爆撃によって地形は変えられ、木々や生物は無差別に破壊し尽くされる。地下壕と呼ばれる設備以外は残らない攻撃はすさまじく、そして廃棄予定の爆弾は時には不発弾となり、長い期間宗国の大地に置いて無差別に生物を殺す狂気となるのだが、後の世でも問題になる事はなかった。
宗国民による自国政府への怨嗟、憎しみの声や降伏を叫んだところで、戦争という地獄はすでに敷かれ終わりの道を歩くのみ、それは東西及び第三世界も容認しどの国でも止める事は出来ない。
外部である国際社会に声が漏れたところで、同じだけの怨嗟の声と敵意が宗国へと向けられており、世界中を放射能で汚染しようとした。それも核ミサイルを奪っても、原子力発電所という宗国政府の人員の危険性と信頼という形の喪失は各戦線において戦意の著しい低下も招いている。
2020年
2年続いた世界対宗国との戦争は、繰り返された凄惨な絨毯爆撃によって物理的に終焉を迎えた。数度の爆撃を繰り返した場所に陸軍が侵攻し制圧、その繰り返しによって行われる攻撃の効率は良くはない。
確かに地中基地や深い塹壕などに森林には効果薄いが、それさえ繰り返し焼き払い破壊し尽くしてしまえば問題とはならず、焼夷弾の使用はとっくに解禁されてしまい、森や草原は焼き払われながらの攻撃は自然破壊そのもの、そして意図的に少数残された場所に逃げ込んだ宗国部隊を陸軍が制圧をしていた。
そしてロシアはすでに手を引いており、自らの占領地域の徹底した制圧という人類種の抹消作業が行われていた。そもそも土地以外何も必要としていない彼らにとって、従わず反攻する可能性が高い不都合の大きい人間を残しておく必要もなく、誰も見ていないのならば躊躇するはずもない。
軍・政共に生存している主要な人物は捕えられ、国際法廷によって死刑判決と共に宗国は歴史の中に消えた。それでも人は残っているため何ら問題は発生しない。
また長らく時間をかけ再び国家を興せばいいだけの事、元々彼らの語る何千年の歴史とはつまり国家体制の消滅と立て直しを何度も繰り返す理由を理解できず、それでも積み上げられる力があるという事、そして自らの行いで何度も崩壊させても中々学習できない血統でもあるのだが。
生化学研究施設のデータや機器は全て完全破壊もしくは運び出され、残された原子力施設への武装犯罪組織による攻撃を防ぐための部隊展開も終わっている。原子力発電所の廃炉作業にはまだ時間がかかり、技術革新によってある程度分裂を抑える技術はあるがそれでもあと5年は核分裂反応を抑える期間が必要である。
それらの廃炉処置など進みながら、文明という火は消えていった。




