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4.1900年 イレギュラー要素として

 1900年、あくまで新興貴族としてであったが、繰り返す交易と各地への高速船のチャーター、諸外国に移動する際の辛い船内生活を避けるために外交官や貴族の旅客に3隻体制で運用している。

 しかし断固として軍務関係を断り、外交官や総督など名や役職を変えて利用を試みても、軍に属するなら全て拒否する事で軍事活動に協力はしていない。しかし密かに軍需物資や薬物運搬などを試みては、英国側が気付けず完全に不正な行為であり問題であったとして伝え、表向きの謝罪と共に試みた職員が処罰された。もちろん本当に計画した人物ではなく、調べ情報を得るための切り捨てに過ぎない。

 英国政府や軍部がこちらを測っているのは当然の事、政治や法の段階から考えれば表立って行動をとらず、謝罪と処罰を行って見せるだけまともともいえるだろう。


「以上がこの二週間前までに行われた事業の報告となります」


 ロンドン港まで職務として政府側から派遣されてきた人員の職務報告、正確にはこちらが起こす行動について、監視及び情報を得るために送られてきた人物ではある。

 イギリス人のチャーリー、40代前半であり貴族の2男という少し疲れた表情の男、既婚者であるが次男であるために貴族ではない。しかし作法や知識については貴族として幼少から教育され、外交官書記官補佐として働いていただけに中々に優秀ではあった。


「予算は変更せず孤児院と孤児への教育費に2割、2割は農業支援へ。 2割は支援している病理学研究所に回すよう手配を。 1割は直接的商業支援として小麦と葡萄を買うように」


「承りました。 また、軍から航海用食料について売却要請が来ております。 近隣国への航海向けであるならば、心象を考え売却するのも手かと」


 英国政府として意図はあるにしろ職務は真っ当にこなしている事は確認できている。相応に根回しに近いことの必要性や折衝なども対応し、政府からの要望であることも伏せつつこちらが受領しやすいよう手配、そして政府側も相応に難題とならないようこちらの都合なども話しているのも確認できていた。


「では、航海用として売却数を3割増やすと連絡し、品目については何を希望するか確認をするように」


 一時的とはいえ大英帝国に籍を置いた貴族として、得た利益の半数近くは農家支援と孤児院及び孤児への教育に回している。貴族としての義務を果たす意味として、何よりも孤児と言う立場は後々多面的に問題となる事から早めに対応しておくのに越したことはない。


「本当に宜しいのですか。 貧民や農家などにこれほど出資したとしても、回収できる可能性は低いかと」


 孤児とは未熟な児童労働、未来の犯罪の温床、そして貴重な可能性の遺棄、そして農家を軽んじると食料危機に繋がる、それに現在の英国が気付くかは分からないが。


「十分回収できます。 しかし貴族として勤めを疎かには出来ません。 農家に投資する事は英国にとって必要な事、貧民を減らす事も英国の治安や兵士を育てる事になります」


 しかし無償奉仕と言う訳ではない。職務として孤児院の町や村がある地域では孤児たちに清掃活動と壊れたり不要な木製家具や道具の回収作業を行わせ、働くということが食を得る事になる、それを身をもって理解させることが大事であった。

 そして焼けたり傷んだ少々腐った廃木材であろうと、木材は資源変換が容易でもある。海上メガフロートでも成長が早い木々の植林はしているが、やはり数を手に入れるには他国から輸入するのが良い。

 ロンドン港に集めた後メガフロートに輸送、木材ベースのプラスチックやエタノールなど様々なものに変換し利用していた。


「全ては英国の為、宗主国内に貧民が多いなど恥となります。 植民地政府に蔓延している汚職も同じこと、早く解決しなければなりません」


 英国に籍を置いて20年、その間稼いだ多額のポンドのほとんどはイギリス本土内で使用し、孤児の幾らかは教育を受けたことで兵士や労働者などまともな職についたことで孤児の物乞いや犯罪はやや減ってもいる。相変わらず捨て子や娼婦の誰とも分からぬ子など途絶える様子はないが、娼婦達を減らす術はなく生まれた子供を保護する程度が限界であった。

 農家についても金銭的投資支援と指導を続けることで、他国から伝手で手に入れた風土に合う作物を探し植えるなど試行錯誤も続け、僅かながら農作物の質と種類と出荷量が増えている。

 20年どの派閥にも属することも権力などを得ようとすることもなく、政治に関わろうともせず、英国本土において市民の為に治安向上に尽くし農業を助けるなどを実績とした。



 あくまで20年程度で結果が出る小さい範囲ではあるが、積み重ねた結果は評価に値するとして大英帝国が自治領であることを正式に認め陞爵が決定された。


《永続的住民・明確な領域・政府》


 の三点において表向き永続的住民が一人しか居らず、政府も法律も対象者が一人でしかない。故に、連合王国貴族として伯爵位を与えた上で総督に任命し、所有している領地を自治領として認められた形であった。

 認められた自治領、場所の問題もあり誰一人として寄港地にすることも訪ねる者も居ない、そんな場所で世界中に飛ばした偵察探査機によって情報を確認しているのだが。


《地球の歴史と同じように事件や紛争の発生、これは》


 鉄血宰相ビスマルクは歴史と同じ年にヴィルヘルム2世との確執から更迭され失脚、ビスマルク体制崩壊による争乱など歴史は非常に酷似している。

 スーダンでの乱、エジプト占領、南ア戦争、もし同様であるならば第一次世界大戦のきっかけとなるサラエボ事件も発生するだろう。

 多くの人間が死ぬことになるが、小規模な争いで止まるよう小さく介入すべきか、それともこの惑星の住人の問題として不干渉を貫くか、艦内部設備である宇宙法を判断する独立AIと対話しながら出来る事を調べている中、突然広域宇宙回線に通信が入り、全ての防壁を突破され強制的に回線が接続されてしまう。


〈さて、私とした241年前の約束、覚えているかね〉


 立体映像に映し出されたのは不定形の物体。241年前、まだ空挺降下部隊の一陸戦兵であったHITAKAMIは任務に成功したが友軍壊滅によって遭難し彷徨っていた時出会った“神”がいた。

 生命が存在する星には極々低い可能性だが神と言う高次元意識体の存在し、星を管理している事が発見されており、そう言った存在とは交戦せず対話することが宇宙軍法では規定されている。

 何よりも広域宇宙軍のトップは銀河や惑星を管理する神々であり、広域宇宙軍との交戦相手は銀河系外から攻め込んでくる他の神々が統べる侵略宇宙軍、その事を知っているのは艦隊を統べる旗艦級以上だけではあるが。


《記録しています。 個別命令があった際、それに従うと条件となっておりました》


 遭難死することから免れる対価として、宇宙軍所属としていずれ駒として動くことを契約。それに従い宇宙軍には不定形の神からの要請で部隊が派遣され、不定形の神は宇宙軍上層部入り、そしてHITAKAMIは軍に復帰するとともに“条件付き軍人”として登録されている。

 必要であれば、不定形の神が必要とする任務にあたると。


〈では、この惑星について情報を与えよう〉


 艦のデータベースに流れ込んでくる情報、神々候補となったモノ達にとってこの星は試験場、成功すれば新参ではあるが神の一角に、失敗すればまた生命体からやり直し。試験を行う上でHITAKAMIと言うイレギュラーに対処できるかどうか、その為に駒としてこの星に飛ばし行動させる。

 元よりこの星は生命さえ存在しない星であったのを、試験場として整え地球の西暦と酷似した歴史を1000年ほど進ませたのち託したものの、そのまま西暦を模倣するように歴史を動かすだけの作業と化し、知的生命体を御し得る力を本当に持っているのか不明なために確認するということ。


《それでは、私は歴史通りに進ませぬように行動すれば良いのですか。 善処いたします》


〈軍規で縛られているのは理解している。 出来る範囲で良い、期待している〉


 そして通信が切断される。イレギュラー要素として、天の川銀河系の辺境惑星地球で産まれ落ち、人であることを止め艦と一体化したことで辺境とはいえ宇宙軍の旗艦にまで抜擢された名前も失った人間。良き生涯ではなかったが、星の為に行動し続けた存在は大きな盤上で行われる試練の敵として選ばれた。


 HITAKAMIは成すべきことについて再整理をすべく復旧したシステムと共に思考を始めた。

 現在メガフロートは輸出用食物工場がほとんどであるが、小規模であるが各種製造工場の建設を開始、各種インゴットなども売却向けに整え直し始める。

 これはマントルから船の修復やゲートや通信設備製造に必要な元素を抽出していると、どうしても余剰や不要となるスラッジ類が出てきたものを精錬したに過ぎない。

 バイオ燃料(ガソリン代替HCエタノール・軽油代替HCディーゼル・重油代替ディーゼル・代替HYガス・石炭代替HYコークス)は完全密閉された設備内で特殊微生物・光、そして微生物を含んだ海水から生成され、売却する為の準備を進めていく。

 どれも原油や石炭と遜色ない性能を発揮するが、宇宙航海時代となると古い設備や機器を動かす為だけに製造されるものに過ぎない。旧時代の車両や飛行機などコレクターが所有する物を動かす為だけの技術と設備、ほとんどはそういった趣味的なモノに限られる。


《外交義体 地球人型 VAL-WM 製造開始》


 今後の為、まずは直接交渉できる義体が必要となる。いつまでも船に呼びつけてというのは都合が悪い。

 船内の設備を利用しバイオ工学と機械工学によって産み出される外交用生体人形、骨格は機械で構成され外見となる肉と皮はバイオ工学によってしつらえるが、頭部には脳みその代わりに受信用端末が入る。

 小型かつ長期動作の為に胸部にはエネルギータンクを備える関係上女性型となるが、男性型よりは不快感を与えにくいのは利点である、あくまで義体であり優先するのは実用性以外求める必要性はない。


《見た目は良くする必要性はあるが、歴史上いくらでも美醜の概念は変わる。 設定標準値で良いだろう。 念のためベース骨格と外皮と筋組織の用意は複数に》


 義体の製造が完了するまで大よそ半年、惑星に住む多様な種族に対応する関係上、地球人とは異なるタイプも多くあり、鱗が全身にあるタイプや軟質で手足が吸盤に近いタイプもある。

 この惑星の人間にもっとも近い地球人タイプを採用し、角に関しては羊のメリノ種と同じ形ではあるが細く短く小さなものを拵えるだけで良い。


《輸出品目は、世界の流通に影響を与えないものを選定しなくては》


 これからは交易をしつつ世界で通用する資金を稼ぎ、イギリスとドイツだけではなく他国の通貨及び影響力が必要となる。アメリカ・フランス・ジャパンに接触していかねばならない。

 残念ながらソ連等は民主的な交渉が難しい、その為に接触したとしてもろくなことにはならないだろう。


・バイオ燃料

・生物性合成保存食

 大量生産も可能であり売却は出来るもののそれほど需要があるわけではない。今後も売却は続けるものの、主力輸出品としていつまでもと言う訳にはいかないだろう。

・酒類

 いつの時代も品質さえ良ければ売れ続ける。高速熟成する手法もすでにあり、10年の熟成を1年に短縮する事は出来る。あくまで熟成は微生物及び大気と樽等保護材質が含む成分による変質、あくまで10年の熟成を1年であるが。

・医薬品

 戦時及び災害時であれば外傷、平時であれば病気が主になりこちらで病院を設立し受け入れを行う。治療道具や医薬品などは外部提供しなければ、2世代から3世代先までの治療ならば法に反しない。

・陸・海・空の兵器販売

 あくまで現行で量産されているものをライセンス生産し、条約で縛りつつ英国連邦に所属する国家のみに販売を行う。


 など。他にもあるものの、すでに貴族や企業があるために利権調整に手間がかかる。余りにも新興が横から入ってきては争いになることから、極少数を高級趣向品や高度治療として、生産が追い付かない兵器を連邦に供給するに留まる。

 あくまで平和的に、連邦に所属する者として活動をしながら行動を起こすのは制約が多い。しかし制約なくして自由に動けば、それは力があるだけで我儘な子供と何ら変わりがなく、多くの人が被害を被り不要な争いや殺し合いになってしまう。全ては特例の存在しない法に従うのみ。


《生産施設の拡張、しかしさすがに擬態一つでは外交交渉に問題が発生してしまうか。 念のためそちらの用意も並行して進め、生産設備の用意を優先とする》


 人型の外交端末の次は多目的に対応できるよう船舶の建造、コンテナ船とばら積み船から原油タンカーにケミカルタンカーなど建造を開始。

 メガフロートも拡張しなければ今後発展してくる航空機についても困るだろう。やらなければならない事はあまりに多い。損傷し機能が低下している人造脳やAIの復旧を急がなければならなかった。


《人工衛星の擬装とさらなる追加、及び擬装用として月の一つに資源採掘基地の建設も並行》


 三連ある月のうち一番大きい物には関与しないようにと送られたデータにはある、しかし残りの二つに関しては隕石防御の役割の為であることから開発に関して問題がない。宇宙空間を漂う隕石群から資源を回収していく。

 直径5kmのメガフロート、約19km2でありエーカーに直すと4695となる。

 当時の貴族は3000エーカーの大地主であり地代を得られるのも基準ではあるが、重要なのは地代を得る事による税金の納付額。

 何よりも国庫の為に貴族というものを、17世紀から国庫の残高減少から爵位を間接的に「売り」に出しために最初の爵位乱発が発生18世紀に爵位乱発の傾向を一層強めていた。17世紀には170家程度から1870年代には400家、むろんあくまでそれは男爵と言う地位に過ぎない事、そして相応に多額の国家への献金や税金の納付が義務であったが、貿易や商業で財を為した成金貴族と歴史ある貴族からは見られてもいた。それも当初だけであり歴史的にはほとんどが一代で潰えてしまい、100年を経過するまで保てた家は伝統的貴族と言われていましたが。


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