36.1982年 変わり揺さぶられる世界
1982年
若アンバーを一人前と認め全てを引継ぎ老アンバーは引退したのだが、急激に体が弱りすぐにベッドで寝たきりとなった。あくまで身体強化されたアンバーも寿命はどうしようもない。命の限界が近付き、体が耐えられなかった。
もう先が短いということで老アンバーの元にレヴィア伯として訪れるのは当然であった。
「伯、娘を救っていただきありがとうございます。 おかげで曾孫に私の知識を託すことが出来ました。 こうして子供たちに囲まれて眠れます」
アンバーを最初に迎えたのは2代目レヴィア伯であって6代目ではない。それはもう目が見えておらず、誰かもわかっていないのだと家族は思っていたのだが、アンバーは全員が同一人物であると気付いているからこその言葉であった。
「アンバー、あなたは確かに約束を果たしました。 長い間ご苦労、ゆっくりと休みなさい」
ベッドで目をつぶるアンバーの手を握り労をねぎらうと、そのままアンバーは静かに眠りについた。取引を条件に護衛としてから一度たりとも信頼を裏切るようなことはなく、十分すぎるほどの忠義を尽くした長い年月はHITAKAMIでありレヴィア伯として忘れられぬ重要な時間であった。本来であればアンバーはロンドンの墓に眠るのだが、水葬を望み英国に許可を取りミグラント国近海に水葬された。
水葬式には300人近い人が集まり、そのほとんどが元孤児やレーヴァンの関係者であったことから、普段の生活範囲は知れるものだが、好かれ尊敬される生き方をしていたのは確かであった。
同じように、そして少々苛烈であるがアンバー・セレス・ウィーラーも孤児院を曾祖母と同じように回りながら、レーヴァン随一の女性護衛官として、二代目レヴィア伯の名の一つであるセレスと伝説の護衛官の名を背負いながら生きていく。
1983年 2月
ニコライ2世の娘が生存している事を世界に向けて発表する準備には2年を要し、国際連合議会場にて発言が行われた。
「私はロマノフ王朝 オリガ・ニコラエヴナ・ロマノヴァ。 1918年7月17日、一族全てが処刑されたことになっている。だがそれは正当な法の下に行われた処刑ではなく命を狙われた暗殺であった。 しかしこの身は暗殺から逃れ身を隠し続けていました」
世界はかなり揺れ動き、超法規的殺害(裁判手続きを踏まない殺人)、ソヴィエト連邦には政治的に暗殺を試みたという事、表向きは逃亡を試みたために現地で処刑されたことになっている。
英国政府が保護の経緯や匿っていた歴史的証拠に合わせ、根回し済みのアメリカ政府とフランス政府が本人であると認めた。これは冷戦の最中であるソヴィエト連邦を揺るがす情報であるため、少々の約定と共に行われている。
その真実は当時のソヴィエト連邦レーン党首の独断命令かつ暗殺未遂であり、ユリー現書記長の立場を大いに揺さぶることになった。ソヴィエト連邦の結束は崩れてしまいワルシャワ条約機構は酷く乱れることになる。
一方で公的・政治的な立場に戻る事はなく、これからも孫たちと静かに暮らしていくと発言し、皇帝時代の暮らしや当時の政治的な案件を纏めた自伝や皇室の伝統の書籍を出していくとした。
もちろんこれは英米仏の約定であり政治などからは身を引く事が条件であったがため、その対価として一定の保護を行う取り決めであった。
ただ生きているというだけでも十分にソヴィエト連邦のダメージは大きく、書記長等幹部達は引継ぎとして処刑したことは知っていたがそれが暗殺紛いであったなど知っているのは、極々わずかであったがため意図せず隠していたようなものではない。
それでもなお、ソヴィエト連邦内でも事あれば暗殺されるのではないかと不安が広がるのは当然の事であった。
グレナダ浄化作戦
歴史の変質か星の違いによるものか、グレナダクーデターは発生しなかった。正確には発生する前に英国諜報機関が情報を捕え、現政権の腐敗を連邦の総意として是正を求め、期日までに実行されなかった事から改革の為に英国連邦軍 海兵隊による軍と秘密警察の排除と腐敗内容の公表が実行されたためだ。
民衆の矛先が首相に向いていたことから比較的スムーズに行われ、腐敗していた政権の人員は都合よく施行されている可能性があるグレナダの法ではなく、英国連邦法で裁かれ現在刑務所に収監されている。
政務の再編に伴う混乱の間は英国連邦から民主主義による選挙が実施されるよう、連邦内から法律と政治に明るい人材の派遣が決定され、さらに警官隊による警邏とグレナダ警察への教育も含まれた。
地球とはかなり異なり、この星の英国連邦とは“英国を宗主として各国が独立意思と責任を持ち、連邦内での調律と発展、そして防衛の責任を持つ”とされている。
グレナダが植民地から独立し15年ほど、それは民主主義という過程をクリアし連邦として独立を承認していたが、残念ながら初の首相は欲に勝てず秘密警察や軍の私的掌握などしてしまった。その為に英国連邦として調律と発展の為に人員等を派遣が行われるのであった。
1984年
ソヴィエト連邦は腐敗と政争によって政治的に乱れていた。社会主義は紛れもなくほぼ完全な社会構造であるが、問題は人間では遂行不可能という事であり遂行できるのは欲を持たない生物だけであった。
民主主義ならば腐敗したり横領した場合社会主義に比べて排除はしやすい、もちろん対処しきれずそのまま腐れ堕ちる事もあるが立て直しがし易いことも利点だろう。
ミグラント国が1983年から裏で協力し続け、地球の歴史ではゴルバチョフだがこの星ではガルミチョフと言う人物、政争相手の問題を指摘しさらにオリガ・ニコラエヴナ・ロマノヴァ生存の報が止めとなり書記長は次席へと譲られる運びとなった。
「書記長就任をお祝いいたします。 と伝えさせていただきますよ」
オリガ・ニコラエヴナ・ロマノヴァが生存している事を公表する前から通達し、ガルミチョフはそれに備えての根回しなどを済ませていた。その為国政及び政治家同士で酷く荒れる中、議会を早急にまとめ上げ書記長へと躍進を果していた。
とはいえ、やはり軍部は政治部とは異なり強硬策を考え、西側と事を構えてもオリガ・ニコラエヴナ・ロマノヴァの暗殺を練るが実施は出来ず、西ドイツ側への諜報及び懐柔の強化などを行うのに留まる。残念ながら腐敗によって大きく力を損なっていたからに他ならない。
ガルミチョフとしても冷戦や紛争は当然であるが、それでも核と戦火だけは広がるべきではないと判断しており、十分な確約と共に情報提供を行うとした。もし違えるのなら敵対派閥に情報を流すと警告をし、数年とはいえ契約を違える相手ではないと理解し継続して契約を取り交わしている。
そしてその契約に伴い敵対派閥の情報と引き換えにT-80UD及びMi-24Pを求めている。冷戦中とはいえソヴィエト連邦を訪れ交渉できるのも、最初の交渉を行う時に多方面を情報を持って脅迫により黙らせガルミチョフへ取次まで行い、情報部や軍部などから狙われているほどの力があるからに他ならない。
「お約束通り融通致しましょう」
ガルミチョフに提供したのは首脳部の政治的敵対派閥陣営を確実に追い落とせるだけの情報、横領に家族の犯罪の握りつぶし、海外資産の秘匿など中々に欧米各国の高級官僚と並ぶ中々の有様であった。
資本・民主主義ならばせいぜい役職追放や多額の罰金だが、社会主義ではそんな生易しい物ではない。代償は大体の場合において命となる。
「それではいずれまた。 出来れば国際連合の公的場で」
「そうなるでしょうな。 書記長として私も出なければならんのでね」
条件はMi-24PハインドFとT-80UDベレーザのライセンス生産権と各1機の譲渡、これは国家間の友好促進及び部分的ではあるがソヴィエト連邦の発展に尽くしたことへの正当な評価であった。
ただし最新鋭であるT-80UDについては部分的なもの、125mm滑腔砲及びコンタークト1爆発反応装甲とFCSはライセンス権が外されている。車体・砲塔・ディーゼルエンジン・装甲・足回り等のみ。それでも冷戦状態で西側国家への供出は異例であり、ソヴィヘト発展に尽くし代替わりしたレヴィア伯への祝いという口実となっている。
発展に尽くしたといっても横領や汚職の情報提供、港湾都市における荷揚げに不適切となっていた錆付き古びたクレーン設備等を作り直したに過ぎない。
あまり使われない港であり党本部からの視察や確認もほとんどされていなかったのだが、担当職員の横領とサボタージュによって設備更新がされていなかった。もちろんその港を態々選んで寄港すると伝え、古びた施設にまともに動かない大型クレーン、迎えに来ていた党員が状況に唖然とし即日に担当者は捕えられ刑罰が行われた。
そんな状況であるために荷揚げの為に持ち込んだ機材でクレーンを修理し、交易品である食料や燃料を販売するものの商売という形にはならない。あくまで共有と感謝の返与となるのだがそれはしかたないこと。これでも最大限の配慮と譲渡を行っている、そして東側に取り込むための賄賂等を含められてもいた。
ミグラント国
正式にライセンス生産が可能となったが、これは友好の証であり本格運用をすると言う訳ではない。改良を施し少数を運用しつつ東西中立国家であるとの意思表示であった。不足している部位を補い、英国製を採用した改良を施している。
T-80UD/M ベリューザ・ノーチ(夜の白樺)
125mm滑腔砲からL11型120mmライフル砲
ロシア製同軸7.62mmから西側標準7.62mmL7汎用機関銃
砲塔搭載ロシア製12.7mm重機関銃から西側標準12.7mm重機関銃
これで最低限
コンタークト1爆発反応装甲の代わりにROディフェンス製楔型空間複合増加装甲サーヴラ
未搭載FCSをTOGへ
2ストローク水平対向6気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル1,000hp/2,800rpmから
4ストロークV型12気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル1,300hp/2,500rpm
ロシア製トランスミッションから英国製トランスミッション
余りある時間を利用した技術的行動の一つ、どこまで切り替えられるか、どこまで性能に変化が起きるか、そして軍事技術先進国であるという証明の為でもある。
改良後に英国の演習場で簡易テストを行った後、戦車取得の情報を得た米国からはスペックに関して情報公開しろと迫られているが取引の都合上それは不可能、中立とはつまり全ての国家にとって味方でも敵でもあり、都合よくすべての味方であり敵対されないなどではない。ミグラント国は東側とも取引はするが、それは対等であり中立として契約は順守していた。
HITAKAMI、レヴィア伯として世界に干渉を積極的に行わない以上、普段はただの商業的活動と諜報活動ばかりであった。スイスの国連にミグラント国担当2人が時折滞在、英国大使館に1名、英国情報機関に1名、常時対外行為を行っているのはそれだけなのだ。
国際赤十字からは引き上げを行い、難民対応については受け入れはせず全て非合法侵略行為・諜報組織であり断固と、そう言った対応をするための通信手段さえない。
基本的に中立対応な上に太平洋上の孤島の為に3カ国以外とはホットラインさえもたない。ただし英国王室にのみ衛星通話を利用した専用回線がある。これは英国王室との信頼であり非常時問題以外でしか使用された事はない。
時折の使用も家族が引き起こしたスキャンダルについて対応如何への連絡もあるが、これもミグラント国が収集している情報を元にパパラッチや報道機関による過ぎた行動を諫める程度、家族がやらかしながら秘密にしている問題の情報など、女王陛下と言えどやはり家族の長であり心労は絶えないようであった。
「えぇ、とうぶんは収まるかと思いますが、やはり対応を変更しつけ込まれないようにすべきかと。 家族として許す必要はありませんが、王室としては許した方が良いと思いますよ」
当代ではなく三代レヴィア伯ともなればほぼ同年齢、即位する前からの長らく付き合いとなれば少々気安くもある。長年仕えながら問題もなく英国発展に尽くし、悪化に繋がる政策には頑として退かずに反対を表明するなど、もちろん他国であり合議制の為に通るが良い方向に動いたことは一度もなかったことからの信頼である。歴代レヴィア伯は英国の国籍と伯爵位を持ち、税金を納めると共に変わらぬ忠誠と英国貧民層や軍事層への支援を行っていた。
「ロンドンには明後日飛行機で赴きますので。 えぇ、その時にまたお話をいたしましょう」
通話を終え作業に戻る。秘密裏にソヴィエト連邦に送っている擬態を引き上げさせ諜報機だけとなる。それでもソヴィエト連邦には間違いなく神候補の手が存在しない以上世界に接触し続ける必要はない。
1984年中頃 地獄の小銃
SA80・LA85A1
生産された事で英国軍が正式採用し、ミグラント国も正式採用するために英国陸軍の試射場にて4代目レヴィア伯として陸軍教官から説明を受けたのだが。
軽量化の為全体的に鋼材が薄く凹みやすい、何故か金属が錆びやすい、プラスチックが薬剤で溶けやすい、粉じんで動作停止しやすい、材質の問題で寒冷地ではトリガーが動かなくなる、砂などで弾詰まりしやすい、マガジンリリースボタンの構造と場所が悪すぎ、掃射の振動によって勝手に脱落する。
控えめにではなくはっきり銃器として問題があり過ぎると教官がぼやくほどに酷いものであった。
数日かけたテストの結果、余りの出来の酷さに兵士を殺す気かと、連邦議会で調べ上げた情報を議題に挙げたのち、問題はないと発言を行った陸軍技術責任者と士官を呼び出し技術省で会議の場を設けようとしたのだが。
「銃器に何ら問題はありません。 使い方が悪いだけでしょう。 事実に無い問い合わせには答えません」
聞く耳など持たず偽証としか考えられないテストデータをもとに、銃に問題はないとして会議を拒否し場さえ持てなかった。ここまでくると怒る気も失せ、手勢を用意し対象人物を拉致したままエンフィールド造兵廠を訪れ、カタログで通り問題ないと言い切る国防相職員や技術責任者達13名を連行し試射場へ移動、銃を渡し“提出したカタログスペック通りに撃て、出来なければ射殺する”と銃を突き付けたところでようやく欠陥銃であることを認めた。苛烈な性格と知られるミグラント国の4代目レヴィア伯ならば虚偽や逆らえば本当に射殺しかねないと理解してのことだ。
今回の行動には警察沙汰にもなり騒ぎとなったが、対象人物たちの過度の汚職の判明やレヴィア伯の成した方法が苛烈すぎ法に反したということであるが、即座に流布した対象の犯罪行為と国防に関わる範囲は民意に響いた。
「社会を騒がせたことを、英国全土に謝罪いたします。 上告の意思はなく如何なる刑にも服します」
そして行動した詳細な理由が広まり英国に置いて耳目を集め過ぎた為に、禁固刑や上告するには心象が悪すぎた。初犯であり反省の意を示したこともあり、法に照らし合わせ多額の罰金刑となり、そして刑を受け入れ騒ぎを起こした事を公的に謝罪したことで法的には終わった案件であり、もちろんさらなる罰を求める声はあるがそれは法律外となり対応は出来ない。
そして耳目を集めた国を守る銃器の不正情報、その対応の為に軍務大臣や技術省が集まり、4代目レヴィア伯ではなく当代である5代目レヴィア伯が会議に参加していた。
問題解決の為に集まっているのだが、開発製造依頼を受けていたエンフィールド技術局の技術スタッフが減り過ぎ、さらにスタッフの質も低下し過ぎていた。その為に欠陥を把握していながら数値の改竄に問題を軽んじたり報告を怠るなどまともな管理責任者が見たら卒倒しそうな事態が恒常化しており、もはや開発製造企業としての体裁を保っていなかった。正式に認めた事で開発費返還を含めた賠償金請求を政府側から求められ、最終的に不具合の解決を進めるはずであったのだが技術など当の昔に喪失している。
「その……、改善する技術が当方にはなく……」
英国陸軍技術省とレヴィア伯が居る会議場で改善する技術さえないと回答が来てしまった。
「あなた達、本当に造兵廠の人材ですかね。 他人の成果を横取りしているだけで、何も生産していないのでは?」
改善する技術さえないというありさま、エンフィールド技術局は金勘定と内部抗争ばかりを重視し過ぎ、技術者を追い出したり呆れて出て行ってしまったりなど酷い状態であった。
「どうしたものか。 他の造兵廠に改善を回せるか」
「いや、どこも開発予定が詰り気味の状況では不可能だろう」
造兵廠も兵器会社も予定は決まっており、急に改修依頼など出せるはずもない。しかしすでに生産供給されている以上、早めに改修しなければ軍において問題になり他国への示しがつかない。
「仕方ありませんね。 こちらで対応いたします」
結局ミグラント国によって4か月かけて修正と改良を数十か所に渡って実施、内部構造はほぼ別物に近く両利きで撃てるように改修され、砂漠・極寒環境で動作不良率規定値まで低下、水・泥・砂に沈めても簡単な処置でそれなりに問題なし、銃底で殴り銃剣で突き刺しても問題なし。現場でのショート及びロングバレルの交換の容易性、前線の兵士が求めるものを最低限クリアするまで行った。単純に言ってしまえば、EM-2で改良運用続けた内部構造をブラッシュアップしLA85に対応させたものとなる。
LA85AM アサルトライフル・LA86LSWM 軽機関銃
として正規採用されロイヤルオードナンスで生産され順次英国陸軍や空軍海軍へと配備が行わる。
根本的に全ての問題点を改修したのだが、エンフィールド造兵廠が民営化したところで兵器開発に関してまったく期待できないことが分かってしまった。
改修費の支払いについてミグラント国側が請求したのは、技術者を追放した金勘定と内部抗争が得意なだけの役立たず達の処分。随分驚愕と困惑をされたものの、エンフィールド造兵廠は実質上民営化する前に閉鎖となった。
金勘定は大事な事だ、技術者はどんぶり勘定過ぎて金の扱いが適当過ぎる、だが勘定だけを優先して技術がなくなってしまえばもはや開発製造企業ではない。地球の歴史であれば民営化後にロイヤル・オードナンスの一部門に吸収されたが、勘定と内部抗争だけが得意な者達は移籍する事が出来ずそのまま在野で再就職先を探す事になった。彼らの行った業務内容はきっちりと他の兵器・民間企業に流れており二度と大手に就職する事は敵わなかったが。
1987年 ソヴィエト連邦は事実上崩壊した。
オリガ・ニコラエヴナ・ロマノヴァ生存がきっかけとなり、各所での裁判ではなく非合法な暗殺が起きていたことが判明し、統制が完全に失われてしまい暗殺を行った担当は身の安全の保障と引き換えに西側への亡命が行われた。そしてその亡命が様々な情報の流出を起こし止めを刺してしまったのだ。
現在外交交渉および軍事的圧力によってなんとか崩壊を防いでいるものの、連邦に所属していた各国は独立へと傾くと同時に西側諸国への働きかけや、第三勢力となるべく行動を取り始めている。
もちろんこの事態を予測していたガルミチョフ書記長は急激に勢力を増し西側との接触を開きながらも現在の主義体制を維持し続けられるよう手を尽くしている。
元より西側と直接相対する為のソヴィエト連邦、財政状況をよくするためには連邦内だけよりも国際社会のほうが都合がよい。それでもなお連邦による閉じた社会主義よりも開かれた社会主義であれば新たに取り込む事が出来る国家もあるだろうとの算段もあった。
ペレストロイカは近いが、保守派がどれだけ抵抗しようとも軍・政治・暗部が比較的好意的にガルミチョフと関係を持っている以上、どれだけ抵抗しようとも先送りは出来たとしても回避は不可能と言える。
市場導入によって混乱こそ発生したがクーデターは失敗する公算が高い。混乱していたとしてもそれだけの多くの資源や物資を国民が求めており、地球とはいくらか異なる発展を遂げていても、余りにも近似した歴史を進み過ぎた為に人の思考も極めて酷似している。
英国
チャレンジャー戦車Mk3製造が始まり、陸上防衛において重要国家への配備が充足したことでミグラント国への供給予定がようやく建ち始めている。まだ一年ほど掛かるものの80両の発注は大きく時間もかかるのも仕方ない。
余剰の出始めているチーフテン戦車は英国でも第一線からの引き上げが始まっており、ミグラント国では最終型のMK.8へと最後の改修が行われていた。地球の歴史よりも若干英国の技術は発展しており、Mk10ではなくMk8の段階で初歩的複合装甲のスティールブリューアーマー及びTOGS等が標準搭載されエンジン出力も若干高い。英国の技術発展は地球の同年と比べて3年ほど進んでいる。ミグラント国の協力を受けず、技術投資による発展を自ら促してきた成果だろう。
BAe社
英国ではホーカーシドレーから合併したBAe社がハリアー関連の権利を引継いだが、ハリアーⅡはほぼ米国独自と言える。それはBAeが主契約者でMDCが副契約者、ただし技術的な面でBAeは40%と低めなのも主翼設計に不足していた主翼素材の製造設備が米国しかないとなることからきている。その為地球では米国製ハリアーⅡをベースとして派生したBAeハリアーⅡといえる。ただしこの星ではBAe100%のハリアーⅡが製造されていた。
ミグラント国で運用する為、ハリアーGR.3を踏襲しつつもホーカー社やMDC社の協力を一切得ず、独自に再設計と技術的改修を行っていた。
大型スーパークリティカル翼の採用とハリアーⅡとほぼ変わらないものの、翼材はミグラント製炭素複合素材を採用しハリアーよりも3.5フィート(約1m)ほど胴体を延長大型化に20mmガンポットの標準装備、全体的に各種の調整もされているが決定的に異なるのが、標準で140kNの推力を持つペガサス型エンジンの改良型を搭載。
4%程度の小型化に2%軽量化しつつ燃料効率も上昇している代物で最大マッハ1.2に到達し、垂直離着陸能力の向上など米国製ハリアーⅡと比べて全ての面で優れている。
ミグラント国において擬態による飛行テストが行われた後英国での試験飛行が行われることになり、米国から試験輸入していたハリアーⅡとの航空戦を行っているのだが、パイロットの技量の差かそれとも大型化による弊害か推力で無理やり捩じるように旋回を行う航空機動が多い。
「推力増大と翼面大型化による弊害ですね。 無理な機動が出来てしまうために技量で航空機動戦をしてしまっています」
試験として結果を出すにはパイロット技能ではなく機体性能だけを評価できるような機動だけが望ましい。もちろん技量に耐えられる機体性能を持っている事も重要ではある。
「我々としては十分な性能を有していると思われますが」
決して悪いわけではないのだが、今回の試験はパイロットの技量ではなく航空機の性能で競わなければならない。垂直離着陸が可能なハリアーⅡではあるがあくまで攻撃機のカテゴリー、制空戦など出来たとしても考慮する性能ではない。
「システム面のアップグレードはこれからということですが、現状でも十分かと」
「機動性と搭載量は十分です。 推力と燃料搭載量から飛行範囲はかなり広がるでしょう」
「それでは生産はBAe社にて行い、ハリアーを全数切り替える形にもっていきましょう」
最大射程から照準システムや過負荷を掛けた航空機道などの試験データと映像を元に情報を精査、米国ハリアーⅡをベースに改造したBAeハリアーⅡを計画中であったことからミグラント型をそのまま採用という形に落ち着いた。
複合素材も特別なものではなく極々ありきたりな材質を組み合わせたもので、ライセンス権と共に製造装置をBAe社に売却、BAe社にミグラント国仕様のBAeハリアーⅡ/Mの生産も委託する形となった。
注目されたのは英国名クリュサオルエンジン。ペガススエンジンの兄弟のようなもので異なり、出力・燃料効率上昇に4%の小型化と利点は多く、ライセンス生産による技術向上は確実でありBAeでは新たな開発計画が立てられることになる。
そして生産は政治的思惑によってBAe社に全数依頼されている。英国の国営BAe社とミグラント国は親しいという政治的思惑もあり、ライセンス権利についてもハリアーから改良した制御プログラムや内部構造に複合材などほぼ100%BAeに移譲、どれも譲る事を前提にしている改良の為に異常な技術である点はない。
米国からエンジンのライセンス生産についてBAe社に打診が入るも、英国にとって重要な軍事機密となる事から組みあがったエンジンの売却は許可してもライセンス生産については拒否の姿勢を取った。
ヴィッカーズ社
ミグラント国ではヴィッカーズ社を通して傭兵組織レーヴァンへチーフテン戦車を少数売却する件について協議の中で米国の横やりが入った。
「世界安定のために民間への安易な兵器供与は困ります。 辞めていただけないのならば、相応の対応をさせて頂きますが」
海外派遣軍はともかくとして、傭兵組織程度に第二世代戦車を配備するなということ。センチュリオン戦車の時点では何も言わなかったのだが、やはりベトナム戦で米国の敵に近い立場に回ったのが気に食わないのだろう。
米国は中古のM48やM60など売り回り、フランスはもっと荒っぽく東側でなければどこにでも販売している中で、せっかく大規模売却によってメンテンナンス及び改修作業による金が入る所を邪魔されたのだ、ヴィッカーズ社も気分を害しないわけがない。しかし英国政府とヴィッカーズ社共に気分を害しつつも、売却停止の了承と共にセンチュリオンの近代化改修であれば問題ないと許諾を得るのはさすがであった。
「米国のおかげで手間が一つかかります」
「確かに、今回の一件は少々気分を害しました。 出来る限り 近代化改修 を施してしまいましょう」
センチュリオンの大規模近代化改良による意趣返し。改良に当たるのはヴィッカーズ社、今回の米国の横やりについて相応に不快感を持っているのが理由であった。
ヴィッカーズMBTのパーツを多く流用しつつも過去廃案になった改良案を元に進められ、センチュリオンならば近代化改修がなされても問題がないという米国からの確約、さらにヴィッカーズ社としてもいまだ使い道のあるセンチュリオン戦車の改修実績と共に他国で運用されている同戦車の改修プランを提示する事で受注しようという思惑もあった。何よりも近年注目されている爆発反応装甲を利用している事から売り込みに利用していることは確かであり、オリファントやショットなど他国で改修されている近代化改修案件に入り込みたいのだ。
センチュリオン・Mk14
・主砲安定化装置を2軸新型に換装
・熱源暗視装置・距離計・弾道計算装置を一体化したFCSシステムに変更し観測系は一括して砲基部側面に搭載
・砲塔駆動機構を電動に変更
・RR製ディーゼルエンジン700hpとフィルターを砂漠・寒冷地対応型へ換装
・新型トランスミッションへ換装
・ホルストマンサスペンションをヴィッカーズMBTの改良型に換装
・ヴィッカーズMBTの新型履帯に換装
・砲塔正面に増加傾斜複合装甲・側面には爆発反応装甲を追加
・車体正面・側面には爆発反応装甲追加
ヴィッカーズ社が推しているのは命中精度の向上と新開発の増加複合装甲、といってもチーフテン戦車で採用されているTOGSやスティールブリュー増加複合装甲を少々改良し一体化したもの、すでに旧式化したことで秘匿性が低下したものが使用されている。
「もう少し装甲厚を確保したいのだが、やはりコストがかかるか」
「これ以上は価格面で難しい。 作業工程削減と被弾効率を天秤にかけよう」
単純に複合装甲板を傾斜した形で数枚重ねて対応、増加装甲で減衰し変形した砲弾体を旧来の装甲で弾くのが価格としても容易い。T-72戦車が装備する125mm滑腔砲相手には若干不足し、110mm滑腔砲をギリギリ耐えられる程度で心もとない。
だからこそ安定した長射程の精度を誇り、質の良い照準システムを装備し105mmライフル砲の射程距離を生かす。命中精度を上げる為に同軸機銃は取り外しケーブルを通す事でもっとも誤差が少ない砲基部上部に熱源装置と光学距離計がひとまとめにされた観測装置を取り付けられ、車内の弾道計算機に繋げられ高精度な命中率を発揮した。
試験場では105mmライフル砲の長射程の命中精度を示す為、1500m先の標的に向けた雨天での射撃を実施。
「停止目標1500mへの照準よし」
合図と共に発射された砲弾は1500m先の標的である装甲車を貫き、最大限のスペックを出せるだけの標準システムを搭載していることを示した。そしてそれは標準仕様であり高価なオプションではない。
「レーヴァンには全数の改修車両の納入までにはあと三か月かかります」
すでに制約が成されているのは傭兵組織レーヴァン、元々その為に開発したというのもあるが、所有する30両の改修契約が成され改修作業中であった。
「さすがに第一線では不可能だ」
「M60よりは安く条件も良い。 導入戦車はセンチュリオンも考慮できる」
ゲストとして呼ばれた複数の軍関係者は好意的に捉え、近代化改修というにはセンチュリオン戦車Mk10を製造するのと大差ない価格、そのスペックは大いに評価され傭兵組織レーヴァンだけではなく、南アフリカのオリファントのさらなる改装に関して契約交渉が始まり、M60戦車を米国から購入を考えていた数カ国からも問い合わせがあり試験車の購入など打診された。
英国政府及びヴィッカーズ社は米国政府に大して十分に意趣返しに成功し、僅かながらシェアを奪い英国連邦内における発展途上国の戦車においては改修された安価な英国製が主力となっていった。
また別の案件でヴィッカーズ社のマークスマン砲塔をヴィッカーズMk1戦車に搭載したものをミグラント国として50両依頼していたが、若干の不具合が見つかりその対策処置で引き渡しが遅れ、その為会議で現状での進捗報告が行われていた。
「マークスマンシステムの修正と改良は進んでおり、2か月後には全車の納入が可能になるかと」
資料には発注した車両の生産そのものは出来ており、システム面のアップデートによる修正さえ終わればすぐにでも納入出来るとし弾薬と同時に納入予定となっていた。その中にはシステム面について最新型演算システムの搭載による性能向上プランについても記載がある。
「早急な引き渡しは不要です。 しっかりと問題解決が出来たのちに納入してください」
自走対空砲は偵察・武装ヘリの脅威であり、低速低空爆撃飛行中であればジェット戦闘機でも撃墜できる可能性もなくはない。マークスマン砲塔は安価でそれなりの性能を持ちながら、砲塔に全てが集約されている為掃射の反動と搭載重量に耐えられる車体であれば、チーフテン・T-55・レオパルト1など選ばない汎用性の高さなど利点は大きい。
「予備品としてマークスマン砲塔単体の追加発注を発注も会議されています。 今後の改良次第ですが」
センサーとコンピューターの性能向上により命中精度は向上する。そして自走対空砲はヘリなどにとって天敵であり固定式よりも柔軟性に優れる。もちろん固定式の方が搭載弾薬数の制限もなく統制射撃運用は楽であるのだが、それは軍が求める運用条件のところによる。
ミグラント国 HITAKAMI
世界はニコライ一族が継続している事を含めかなり乱れそれから数年が経過した。それでも1柱を見つける事は出来ず、対象は完全に暗部に隠れているのだろうことが予測された。能動的に動かずとも世界は安定期にあることから、危険なレベルまで乱れる事はないと判断していると考えられる。
つまり状況が逆になってしまった。HITAKAMIが表に動き相手が裏に動くという形となり、さらに最悪なのは戦力や武力どころか政治的にさえ影響がないよう接触になりかねない行動を全て避けている可能性が高い。
《さてどうしたものか。 宇宙法に則り戦乱を起こすわけにもいかず、御する力を確認するには何をすべきか》
AIや補助人工脳と共に法を侵さずに出来る事は限られ、あくまでHITAKAMIは正面戦を行う軍用システムという欠点があった。
【対象はメディア系に繋がりを一時選択。 次の可能性はネットワークの可能性が大きい】
【ドレッドならば、対象の持つ手を断ち切る策を取る。 対象が広げるだろう業界への力を持つべき】
【世界の安定には軍事を動かす力が必要。 現文明程度ならばメディアを御すれば無能な民意は容易い】
【経済情報から推測を推奨する】
様々な情報をもとにメディア系への影響力を増すと判断し、新聞社だけではなくTV業界などへの参入も考えたのだが、TV業界はのちに徹底して力を失う故に不要と判断に至りネットワーク情報業界への準備を進めていく方針を選んだ。
時代をある程度先取りする高性能なサーバーと管理システム、ウイルス・ハッキング等犯罪者の抹殺による手段を択ばない安全性の保障、それ故に後に利用者は限られるのだが。




