14.1913年 1914年 第一次大戦
地道に足場を固めながら各所に少しずつ影響範囲を広げ、その中でアメリカでアイザック・ニュートン・ルイスが軽機関銃を開発し、アメリカ軍に売り込むも失敗したことからイギリスを訪れている。
イギリスのB.S.Aによって軍用銃器としてブリティッシュ弾を使用する軽機関銃として採用され、戦争が近付いている雰囲気を感じとっていた軍は量産を開始していた。
レヴィア伯は多額の出資を行い若干の改良を求め、1ラインとはいえ追加の生産ラインを設ける事で少数ながら生産部品の供給を受ける話には落ち着いていた。設備増強には多額の資金が掛かる事から、1ラインから製造される部品の一部の供給程度であるならば問題ない判断され、完成品ではなく部品であるところに国家としての思惑はあったが、海賊対策として周辺海域の治安悪化に伴う武装の充実は必要であった。
独逸やオスマン帝国との国際関係悪化に伴い、さらに同盟国との折り合いから英国海軍もクイーン・エリザベス級戦艦を建造するなど戦力拡充は急務と捉えられている。
・バレルにはアルミ製ヒートシンクフィンの未装着。
・マガジンの動作不良頻度を下げるために異物混入を防ぐ半円状のマガジン受けの製造と装着。
・パンマガジンや内部構造など製造技術者が気付いた小さな改善の許可・採用。
・発射レートの調整
ただでさえ安価とは言えない製造コストが上がった事で軍と製造工場での評価は散々であったが、故障率の低下は確認され試験を行った兵士の間では評価はさほど悪くはなかった。
あくまでちょっとした改善、それでも部品さえミグラント国に届いてしまえば、形状および材質強度を検査し、同数までなら調整や互換部品を製造する事が可能、微調整によって限界まで性能を引き出す事が出来る。いくらでもルイス機関銃として性能限界の代物を作り、直下の部隊に配備する事が可能なのだ。
ロンドンの屋敷で経過報告及び契約履行についての書類を擬態で確認。
「採用された改善案を出した作業員にはこの報酬を渡すよう手配を」
補佐に金銭が納められた小箱を渡し、採用した個数に分けるように指示を出す。
製造工場には採用された改善案を出した者には1人2000ポンドを渡すよう連絡をしてある。もちろんこちらから金銭の出資は行うと伝えてあり、今用意させているものが製造工場に届き次第配布されるようになっている。正当な努力と研鑽にはよる結果は正当な報酬を、それだけは実施しなければならない。
「国際情勢は良くありません。 農家に回していた出資量を5%増やしより良くより多くの作物を作るように連絡をするように。 作物が余った場合はレヴィア伯が買い取るとも伝えなさい」
食料だけは潤沢に、たとえ輸入が多かったとしても国内に余剰があるに越したことはない。他の貴族や大手企業も戦争に備えて物資を買い集め始めているが、肝心の生産先への投資や出資はさほどしていなかった。
欧州情勢は探査偵察機から世界各国が軍事力強化が行われ、もはや外交で解決することはない段階に達しつつある。ビスマルク体制の崩壊によって国家間の利害調整が完全に崩れた影響は、さすがの英国も4枚舌外交とはいえ止められることはない。英国とて軍備の増強や植民地軍の再編成や引き締めが行われ有事に備え始めていた。
1914年 サラエボ事件発生
交易の中で得た情報として暗殺の危険性を大英帝国国王ジョージ5世に僅かな証拠と共に書面を送り、不測の事態が発生する事を英国政府がオーストリア=ハンガリー政府に恩を売る形で伝えられた。大いに動揺とともに皇太子夫妻の身を案じ政府としては外遊を辞めるよう提案をおこなった。
しかし元より無理な婚姻を結ぶ皇太子、あまり効果があるとは思えず独逸帝国から伝手を使い皇太子夫妻へと英国最新のドレスを献上してる。
英国製のドレスはいまだに世界最先端でどの国の王族や貴婦人も欲しがる一品、王族にも卸している店に当時は存在しない蜘蛛糸と蚕糸両方の性質を持つ生地を一度のみとは言えヤード巾で5ロールほど卸す事を条件になんとか依頼し、一部の生地だけをこちらの指定し提供したもので制作した、正真正銘一品物の最高級ドレスである。
・深い色を放つドレス。英国王室に卸すデザイナーと裁縫職人の一品。
・コルセット部位は矯正の為にバネと硬質な布とクッション生地が入っている。
コルセットのみ、複数素材で作られた防弾繊維。史実であれば腹部を撃たれたという夫人を守る為であった。
かなりの恩を売ったようではあるが、オーストリア=ハンガリー政府が少なからず動いている様子はあり、探査偵察機にはフェルディナント皇太子夫妻は直前まで訪れるかどうか会議が為されていたのを確認が出来ていた。
大英帝国の介入ともいえるが、せめて危険性を排除するために暗躍している組織の排除が終わってからと会議で決定がなされたが、突然に強行されてしまいフェルディナント皇太子夫妻は銃撃を受け、奥方は献上された最新のドレス、防弾繊維の編み込まれた特注コルセットによって銃弾は貫通せず、衝撃によって気絶はしたものの腹部に打撲を負うだけで存命である。
しかし皇太子は頸動脈を傷付けられ出血が止まらず、ゾフィー女公爵が無事でありその顔を見たのち安堵の表情を浮かべ崩御した。
皇太子が暗殺される、この一大事件は欧州を駆け巡り一気に国家間の緊張感は増した。ドイツ・ロシア・イギリスが戦争にならぬよう外交で奔走している中、オーストリア=ハンガリー帝国は皇太子を暗殺された事でセルビア王国に対してドイツと連名で厳重な調査を命令するも、暗殺自体が政府の意志や行動とは別であることから通常の調査のみを行うと回答し、それは大いに怒りを買ってしまった。もはや聞く耳を持たずオーストリア=ハンガリー帝国は徴兵を行い戦争の準備を始めていた。
議決された上に渋っていた皇太子夫妻が向かうなど、何かによって拒否できない命令を受けたとしか思えなかったのだが、情報を精査していくとほぼ皇太子の独断で無理に強行されていた。
だが今回の一件、王室や議会において訪れる事を勧める一派については目安を付ける事は出来た、どうやら従う候補者の一人がいるようではある。
貴族と各商会や政治に強い影響力を持つ一派というべきか怪しい3人、簡単に探れる表向きの顔も裏側もともにじっくりと探るとおかしな点がある。
前回潰した連中とは異なり、通信頻度の高さ、そして偽装はしているが屋敷内にある明りの一部は白熱灯ではなくLED電球である。とはいえ使用人達はその事を、正確には技術という者を理解していない為気付いていないようではあるが。
「どういうことだ。 襲撃には成功したのだろう?」
「確実に頭部と腹部を狙わせたのだが」
「矯正コルセットが銃弾を受け止めたとのことだ。 矯正で鉄のワイヤーでも編み込んでいたということだろうか」
音性及び熱源探知から人数は3名、ゾフィー女公爵が死去しなかったという事実に対処すべく会議をしている。聞かれていると考えていないのか、それとも聞かれていても問題ないのか。
「戦争は起きることは確定した、お前達は指示通りに動けばよい。 継続して任務を続行せよ」
暗号も解さぬ衛星通信方法は簡単に傍受でき、衛星を介していることで人工衛星の運用の確認と共に対象の補足、そして通信先がどこであるかも一つは判明した。
黒海の中心地点でありそこに一つ存在していることから、水中に身を隠しているようであった。彼らの筆頭が候補者の一人であることは間違いないが、数年に一度しか顔を出さないというのはなるほど新しい情報である。
会議終了まで監視し、1人ずつ追跡する事で屋敷を特定し数日後、一気に延焼しやすいよう良く燃える高純度アルコールの入った極めて薄い瓶を各所に隠し、寝静まった時間に割る事で磨かれた床板とカーペットにアルコールをしみわたらせ、調理場を起点に火をつけると一気に燃焼し屋敷を炎んでいった包む。
当時の技術では原因不明かつ火の不始末による全焼、相応の金と権力を持つ屋敷は庭を持つ為、他の家などに延焼することはない。
夜の闇を焼く大火となり、少し離れた町からは消火の為に人が集まり始める。
逃げ遅れた人間の絶叫と悲鳴が響き渡り、翌日自然鎮火した後焼死体が発見された。逃げ出すところは確認していないので間違いないだろう。家族や家付き使用人も巻き添えになってしまったのはやりすぎであったが。
いまだ独り身の商人の2人はかなり儲けているため常に女達を周囲に置き、大人数乗りの馬車で移動中であった。
町を少し離れた場所にある屋敷へと向かう道中、馬の体に小さな鉄球を撃ち込むと痛みで大きく暴れまわり、御者を振り落とすとそのまま走り続け馬車が転倒した。突然馬が気性を荒くして暴れまわり、制御不能となった故の事故。年に数件は起きる当時は割と発生しやすい事故死である。質が良い馬と御者を雇うことができる権力者にとっては、かなり恥をかく死亡例ではあるが。
これで3人とも死亡、推測に過ぎないが恐らく最初に削り落とした連中とは違うモノの手下、これで2体目の存在も敵対者が明確に居ると理解したはず。
HITAKAMIが一つの問題を片付けた頃、サラエボ事件を発端として燻っていた火種は一気に燃え上がり、オーストリア=ハンガリー帝国はセルビア王国に最後通牒、周辺各国は列強同士の戦争は大規模になる事が分かっている事から、開戦を避けるべく連日の外交交渉を繰り返すも、同盟による参戦義務によって戦争計画発動は止める事が出来ず連鎖的に広がっていった。
そしてロシアが一部動員を始め、周辺国も同様に動員を始めたところで正式な宣戦布告と共にセルビア王国支援の為にロシアが総動員をかけた。
オーストリア=ハンガリー帝国との同盟関係にあるドイツはロシアに対して動員と参戦を取りやめるよう最後通牒を出し、拒否と同時にドイツはロシアに宣戦布告を行ってしまった。列強である二カ国の参戦は、多数の同盟国を抱える両国によって欧州各国は戦時体制に移行し加速度的に参戦国家が増えてしまった。
異界の座
4人のうち2人が被害を受けたことで互いに疑心暗鬼になり直接集まっていなかった。遠隔通信を利用し睨みつけていた。
「さて、我々だけが被害を受けた。 裏切ったのはお前達だな?」
「どういうことなのか。 そして対処はどうするのか」
被害を受けていない2人は行動や世界との接触が最低限のみであったこと、そして方法が巧妙であることからHITAKAMIに気付かれていなかった。何よりも被害を受けた2人が主に荒っぽく支配的行動をとっていたからであり、特に裏切りと言う訳ではなかった。ただしそう決めて判断を下した者に対して何を言っても意味が無いことを2人は理解しており、黙って聞きながらも裏では距離を取り自らの支配力を伸ばす手はずを整え始めていた。
「我らは裏切っていない。 今まで通り共同で小国群を誘導している」
「我らのリソースは全てそこに割かれている。 裏切りなど不可能」
お互いに一応の協力と不可侵を結んでいる以上、確固たる裏切りの現場を押さえない限りはグレーな状況であっても攻撃は出来ない。力のある2人もお互いに争えば長くかけて築き上げた歴史が変わってしまうため、敵として戦うにしろ入念な準備が必要であった。
あくまで仲間内での裏切りとしか彼らは判断していなかった。




