12.1905年 日露戦争の終結
史実とずれて1か月遅れて終結した。差異こそあれども損害は大きく日本有利な講和が為され、日本にいくつかの地域を割譲され権利が保障された。ただし有利であっても継戦能力はほとんど失っており、このまま続けたとしても両国ともに国家をすり潰す地獄の消耗戦となっていたのは明白であった。
むろん講和と撤退の保証はしても部隊の撤退は理由を付けて遅々として進まず、事実上の支配は露西亜側がいまだに握っている。英国など各国が苦言を上げることで渋々と引き上げ作業と引き渡しが行われ始めるなど余り宜しい状況ではない。
日本側もこれ以上の長期戦は不可能な事もあっての優勢での講和、割譲だけで賠償金もほとんど取れず実り多い勝利とは言えなかった。その為に武力をもって素早い行動を起こすように言えるはずもなく、賠償金もほとんどない事から国民の不満も大きい。
しかしこの戦争によって極東での軍事バランスが変わった。
「まさか勝つとは」
「いやはや、東の島国も中々。 いやそれともロシア帝国に問題かね」
「これで一つ地域列強が変わった。 損害はまぁ所詮はということだろう」
会議では列強として大日本帝国は正式に認められ、周辺地域での大きな戦争が起きないよう重しとしての役割と共に、イギリスからある程度の兵器売却と技術供与を正式に与える事になる。
日英同盟の強化の名目、大英帝国の権力を維持する為ともいえるが、年を追うごとに欧州地域での世情不安定化に伴い同盟国家を増やすことに欧州各国はしのぎを削っていた。
在英国日本大使は届けられた書面に当初真偽を疑ってしまった。
「これは、ジョークの類では? 失礼しました。 このような事に動揺してしまい失礼な事を」
最新鋭ではないものの後に金剛型戦艦と呼ばれる戦艦建造が許可され研究と設計が開始された、技術移転も行われる決定には大いに驚き、感謝と共に日本海軍の大佐が英国にまで赴き礼を述べるに至った。
しかし英国ではそれほど余裕があるわけではない。海洋路も不安定でありドレッドノート級戦艦の運用開始と共に海軍の拡大は加速している。海外植民地を持つゆえに、その権益を守ることに尽力していた。
そして海賊に対応するために英国から購入した戦艦ロイヤルサブリンも海洋権益を守るため正式に編入が一時打診がなされていた。
排除した海賊船は年に一隻か二隻程度、潰した海賊に協力していた港は運用してからたった2か所、それでも実戦と言う実績を積んでいるのは事実であり打診は当然である。海賊と言うことになっているが、正確には他国が海賊として送りこんでいる非合法船であることは拿捕に成功した一隻から判明している。
ただし、その国家は英国王にのみ伝えられ伏せられている。重要な外交カードであることからおいそれと口外されても困り、口止め料と共に大量の酒を供給し船員たちには忘れるようにきつくいってある。
それでも漏えいはいずれする可能性はあるが、その頃には政府側が相手国に外交交渉を行い、勝手に国の名を名乗っていた犯罪者集団として片づけられ秘密裏に賠償が行われるだろう。
最終的には英国海軍から派遣されている人員の三分の二が引き上げとなるが、船員のほとんどが外国人であることから編入は取り下げとなった。
第一次大戦まであとわずか、確認できた存在は2体ではあるが居場所を確定できたのは1体のみ。
ロンドン
貧民の親子、母親はアンバーという名であり、17歳の彼女は体の調整と一連の訓練が終わり護衛兼兵士として正式に給料を支払うことになる。
自らの子供に対する愛情や行動以外はほぼ失わせてしまった、顔や雰囲気はそのままであるが、すでに筋肉や臓器などは別人ともいえる。それでも少し変わっても母親であると意識が戻ってからロンドンの屋敷でずっと一緒に過ごしていた。
「ママ……」
泣きそうになっている子供を抱える保母、理解ある貴族によって実子のように普段は育てられることになり、アンバーは子供を見送る。母親は護衛として働くことになるので一緒には居られず、代わりに専属の教育係の養育を受けることとなった。
「休暇の日は会える。 子供の成長を信じなさい」
可哀想な事をするけれど母親が望んだ死との対価でもある。真っ当に教育を受け学校を卒業すれば、犯罪さえ起こさなければ良い仕事に就ける。貧民から確実に脱却し生きていけるだけで恵まれているのだ。
屋敷に戻り銃職人から購入していた銃器、切詰上下ニ連散弾銃とウェズリーリボルバーを護衛となった母親のアンバーに渡す。これで護衛として武装を与えたことになり正式に護衛として働いてもらう。
その足で軍の許可を得た訓練場に向かい銃器の射撃を訓練を行う。初めてということで少し戸惑ないながらも、それでもなんとなく構えても様になっているのは脳内に記録されている為、今度は体で実行できるよう擦り合わせ初の射撃であったのだがウェブリーMK4 リボルバーを使用し的の隅に当てた。
「ほう、随分といい腕をしている」
「これが初とは、女性兵士も考えるべきかもしれないかと」
英国陸軍人がいくらか驚いているものの、ごくまれにそう言った射撃に優れた者がいることから驚く程度の事であった。
「続けなさい。 許可を得ている夕刻まで撃ち感覚を掴みなさい」
こちらに一礼をしたのちアンバーは弾丸を再装填、訓練を再開し銃声が鳴り響く。
許可を得ている時間いっぱいまで続け、腕が疲れしびれているアンバーと共に引き上げる。
ロンドンの屋敷に戻ると執務室でアンバーの日報告書を確認していた。望む望まないを別としても、埋め込んだ戦闘技能や性格に関して異常が無いかの確認が必要であった。
(ウェブリーリボルバーではいずれ限界がくる か。 やはり感覚だけでも与えた以上気付くものだな)
ウェブリーリボルバーは構造からして強力な弾丸は使えない。中折れ式は振出式へと移行し消えゆく構造である。
(S&Wの銃も擬装用として仕入れておくべきだな)
擬態用に最低限銃は所持してはいるものの、現在市販されているS&Wの銃を所持すれば自衛にはなっても威圧にはならない、だからといって火薬ではない銃器を持つわけにはいかない。その為インサイドホルスターでS&W M500を常時所持してはいる。
販売された当時は「人間が片手で証できる限界に迫った銃器」や「ハンドキャノン」とまで呼ばれたS&W M500、人体など容易く粉砕し防弾チョッキを破壊してしまう。
後年にはさらに出てくるがこれ以上のモノは技術者が一目見ただけで工房や職人のカスタム品ではないと分かってしまう。それを避けるためにはこれがある種の限界点ともいえるが、これ以降技術的ブレイクスルーによって劇的に進化してしまうからであった。




